婚約
元の姿になったパトリシアは、デネブの勧めで、ウォーレンと2人、2泊3日の小旅行に出掛けた。ずっとベッタリだった子供達が、意外にもあっさりと見送ってくれたのを少し寂しく思いながらが、パトリシアは小さな馬車に揺られていた。
「パートナーヅラしていて良いのかな?」
ウォーレンは遠慮がちに、プロポーズを断わられ、再考を頼み込んでいた事を改めて話した。
「今、こうしていて凄く落ち着くし、何か問題が有れば周りの皆んなが何かいうでしよ?きっと記憶の有るパトリシアが貴方を選んだ筈よ!」
繋いでいた手をギュッと強めてもたれ掛かった。
「ただ、魔王の娘が人族の貴族、王位継承権の有る殿下に嫁ぐなんて、前代未聞でしょ?、閉じ籠もっている記憶に、何を考えてそう言う方向を選んだのか、詳しく聞きたいわね。」
ウォーレンは返事に悩み、強めに握り返す事を返事にした。
馬車の往来が結構ある道を進んで、訪れた温泉街は、デネブ地域での定番の新婚旅行先で、カップル向けの宿が充実しているらしい。デネブが手配した宿は、各部屋に温泉露天風呂が付いた豪華な宿で食事も美味しいと評判らしい。
通されたのはVIPルームで、通常はデネブの専用室との事だった。
「セレス達の兄弟姉妹が大勢なのが解る気がするね。」
ウォーレンは呆れた様に呟いた。
広々とした浴室は、景色も良くのんびり温泉に浸かり旅の疲れを癒やした。
美味しい料理を堪能していくらかの酒も楽しんだ。記憶のないパトリシアは、自分の酒量を把握出来ていないので、多少不安に思っていたが、
「結構飲める口だから大丈夫!」
ウォーレンの言葉に安心して、楽しく盃を重ねた。すっかり日は落ちて、宴を終了した。
満月でもない夜に、ウォーレンとパトリシアとして一緒に過ごすのは初めての事で、お互いに緊張して口数が少なくなっていた。パトリシアは黙って、1つだけのベッドに入った。躊躇うウォーレンの手を引くと、
「やっぱり、寝る時はその姿なんだね?」
犬の頃には慣れたはずだし、満月の夜には何時もそうだたったパトリシアを視界に収めたウォーレンは灯りを消して、同じ様に全てを脱いて唇を重ねた。
闇に包まれたウォーレンは、ほぼほぼ性欲に支配されている満月の夜とは違い、いろんな事が思考に関わって、一直線に快楽に到達する訳ではなかったが、それまでのプロセスを味わう事は今までにない体験だったので、とても新鮮に感じ、そのまま夜更け迄ベッドを揺らした。
翌朝、寝坊した二人は、遅い朝食を摂り、宿の周りを散策したりしながらのんびりと過ごし、夜になると昨日と同じように過ごした。悦びに浸り続けたパトリシアは、突然意識が遠退き、満月の夜の様にウォーレンの上で快楽を貪り激しく揺れ続けた。きつく抱きしめられたウォーレンは背中に鋭い痛みを感じ、流血の感触が判ったが、パトリシアを優しくハグし続け、おとなしくなった頃、自身も眠りについていた。
翌朝、目を覚ましたパトリシアは自分の両手が血に染まっているのに驚き、魔族の姿に戻っていることにまた驚いた。更にはウォーレンが人族の男性、元の姿になっていて血染めのシーツで眠っている事に驚いた。
「い、岩の巨人は?」
豪華な宿にいる事にまた驚いて、記憶の整理をしつつ、ウォーレンにヒールを掛けた。
傷が癒えて目を覚ましたウォーレンは、
「もしかして、記憶が戻ったのか?」
パトリシアは、その言葉の意味を吟味して、自分の記憶が無くなっていた事を認識してから、ゆっくり頷いた。
岩の巨人を撃破したところからの経緯を説明。子供達も無事で、石化して記憶を封印してしまっていた事や回復迄のプロセス、現在はそれぞれ元の姿に戻り、ウォーレンだけが魔族の姿になっている事を告げた。パトリシアは記憶がない期間の事を整理して、回復を、ジンワリと噛み締めた。
きちんと意識も記憶もある状態で悦びを分かち合いたいと思い、ウェンディ直伝の技でウォーレンを攻めた。状況から判断して、記憶のないパトリシアはウォーレンと共に幸せを味わっていた筈だが、記憶が戻ったパトリシアに対し、ウォーレンが躊躇ったり、遠慮したりする事を想定して先制攻撃を選んだ。
パトリシアの意図を読み取ったウォーレンは、期待に答え、寝惚けた脳とカラダを奮い立たせ、ベッドを軋ませた。
その日は午後までのんびりして、夜の帰着の予定だったが、回復の報告を急ぎたく、慌てて朝風呂を浴びて朝食を掻っ込んで帰路についた。
帰りの馬車でも、記憶を補填する会話が続き、見晴らしの良い丘でランチをして、ウォーレンは改めてプロポーズをした。
「はい。喜んでお受け致します。」
幸せの馬車は残りの帰路を走破し、デネブの屋敷に到着した。
早めの帰着に皆んなは首を傾げたが、パトリシアの表情を見たジョージが、
「パット!記憶が戻ったの?」
パトリシアの首が縦に動き始めると同時に、
「「「「プロポーズの返事は?!」」」」
セレス達が声を揃えた。
パトリシアが固まっていると、祝福の言葉が溢れて、揉みくちゃにされていた。振り返ると、ウォーレンが、両腕で大きなマルを作っていた。
「記憶を取り戻したら即プロポーズするって、皆んなと約束してたんだ。」
満面の笑みのウォーレンは四天王達とハイタッチ、子供達は意味が分かっているのかは定かではないが一緒に喜んでいた。デネブの号令でパーティーの準備が始まった。
急な知らせにも関わらず、豪華なパーティーが開かれ、何時もクールなジョナサンまで大はしゃぎでパトリシアを祝っていた。
「俺達からのプレゼントだ!」
ジョナサンとセレスが剣を差し出した。結婚式に使うもので、友人達に貰うのが吉とされる。
「ホンモノやで!」
正式なモノは1本の魔獣の角から大小二振りの剣を打ち、柄には同じ種類の魔石を嵌め、龍の鱗で作った鞘に納める。それだけの角はなかなか手に入らないし、剣にするには、膨大な魔力を必要とするし、魔石も鱗を入手できない事もないが、過酷なダンジョン制覇か莫大な費用が掛かるので、一般的にはレプリカが用いられる。魔族の習慣なので、ウォーレンに説明しつつ、剣を抜いて、オフホワイトの刀身を十字に重ねた。
剣は瞳孔が絞り切るまで輝き、数分で徐々に収まった。自らの発光はしなくなったが、オフホワイトだった刀身は、鏡面仕上げに変っていた。伝説の魔刀の誕生神話と良く似た出来事に、博学のデネブさえも、驚きを隠せなかった。
ウォーレンの角以外は丸く収まり、その角も自身の魔力で支障無く生活出来るので、久しぶりと言うか、今の顔ぶれでは初めて、問題を抱えずに笑い合う事が出来、東の空に明るさが戻る迄大騒ぎ。しっかりと平和を噛み締めた。
取り敢えず、第二部はお蔵入り。
これまでお付き合いいただき、有難うございました。




