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王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
精霊候補編3

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 アリアクロス暦1720年のとあるご令嬢の自室は、現代人のイザベルにとって不思議な懐かしさを呼び起こすものだった。イザベルが知る魔法学や聖女学の歴史が正しければ、アリアクロス暦1700年代というのは、魔法や錬金術、聖女の秘術が急激に発展した黎明期なのである。


(改めて部屋の様子を確認すると、現代のお嬢様が暮らす寝室というより、錬金術師の卵が生活してそうな空間だわ。カントリー調の家具に、壁にかけられたたくさんのドライフラワー、素材を煮込むための窯。カーテンやベッドカバーの色合いだって、ライトグリーンや花柄で可愛らしくありつつ、自然に寄り添うテイストで……ここのご令嬢は魔法か錬金術を学んでいるのかしら)



 水鏡の儀式の末に、ララベルという名のご令嬢の肉体に逆行転生したことが推測されるが、まさか大騒ぎして怪しまれるわけにも行かず。ひとまずはあまりお喋りにならないように心がけて、ララベルというご令嬢を取り巻く人間関係を把握するように心がける。


「あらあら、それにしてもララベル様ったら、随分とお疲れだったのね。まぁ姉であるレイチェル様が、精霊様の元へ嫁ぐことを決意されたり。ララベル様自身もカエラート男爵との婚約話が舞い込んだり……双子の姉妹ならではの人生の転機ですもの。今日は捧げ物の葡萄菓子作り、明日は儀式の立ち会い……忙しさのピークですが、もう一息です」

「そうそう。あのお洒落で素敵な若い娘の憧れの紳士カエラート男爵に見初められるなんて、流石はララベル様! ささっ……今日も美しく身支度して、いつカエラート男爵様が遊びにいらしても良いようにしておかなくては。あぁメイド冥利につきますわっ」

「えっ……カエラート男爵?」


 カエラート家はイザベルにとって、正真正銘本物のご先祖様のはずである。婚約者であるララベルが順調にカエラート家に嫁げば、ララベルはカエラート男爵の奥様だ。

 その話の流れから自分が逆行転生した肉体が、自らのご先祖様である可能性に気づくイザベル。さらにメイドに促されて洗面台まで足を運ぶと、鏡に映るその姿は……イザベルと瓜二つの金髪碧眼の美人。


(カエラート男爵と婚約……ということは、この身体の持ち主は……もしかして、私のご先祖様っ?)



 * * *



 並行時間軸における現代の精霊界修道院では、ちょうど儀式の余韻が終わりを迎えつつあった。

 しばらくは魔法の粒が、キラキラと流れ星のように水鏡の周囲を散らしていたが、次第に落ち着きを取り戻した。


「終わったのでしょうか、精霊神官長様、ティエール様。儀式は、そして……イザベルさんは一体どのような状態で?」


 儀式の最中に悪霊がイザベルの魂を喰わぬように、ずっと周囲を警戒していたロマリオだったが、一旦その剣を鞘に納めた。おそらく、イザベルをつけ狙っていた邪気や瘴気が、この儀式部屋から消え去ったせいだろう。彼が気にしているのは、儀式の結果……正確にはイザベルの安否であった。


「……ふう、ガードありがとう。ロマリオさん、ミンファさん……イザベルの魂は無事にご先祖様の元へと転移出来たはずだ。彼女が今どのような状態にいるかは、この水鏡の映像を介して詳しく知ることが出来るはずだけど。精霊神官長様、その辺りの確認作業をしてもよろしいでしょうか」


 イザベルの仮初めの婚約者であり、上司でもある精霊官吏のティエールが、ひとまずの儀式成功に安堵したのか額の汗を拭いながら、ロマリオとミンファに礼を述べた。水鏡の儀式の祝詞の殆どはティエールが唱えたものであり、周囲が想像するよりもだいぶ魔法力を消耗したようだ。おそらく、過去の世界に移動したと推測されるイザベルの魂の行方を、儀式のまとめ役である精霊神官長に問う。

 長時間、天窓に向けて杖を掲げて祈りを捧げていた精霊神官長もやり遂げた表情で、ティエールやロマリオの疑問に応えるべく、水鏡の水面を覗き込んだ。


「うぬ、なんせこの儀式を行うのは、実に久しぶりじゃからのう。どれどれ、イザベルさんの魂の状態は……と。転移先はアリアクロス暦1720年の秋……ふむふむ。んっ……これは、まさか……!」

「一体、何が起きているんですか。精霊神官長様っ」


 最初は、儀式の確実な成功を見越して安心しきっていたように見えた精霊神官長だったが、水鏡に表示される履歴を読んでいくうちに表情が青白く変化していく。


「逆行転生じゃっ! イザベルさんは魂の状態で過去の世界を見て回るのではなく、先祖の肉体に逆行転生することで、因果を継承することになってしまった。おそらく、役割を果たせば逆行状態から解放されるのだろうが。これは……これも彼女の数奇な宿命なのか」

「イザベルが、逆行転生……だなんて。つまりイザベルはしばらく、彼女自身のご先祖様として因果を実際に体感することに?」

「……! イザベルさん……」


 驚きの展開に、それ以上言葉が続かない精霊神官長とティエール。そして、イザベルのルーツを先に知らされていたため、戸惑うロマリオ。


 天窓から射し込む夜明けの光は、見事儀式が成功し消えたイザベルを遠くから見つめているようだ。設置された水鏡を介して、イザベルの魂が移動した先は、ご先祖様が生きる遥か昔の懐かしき故郷。


 ――因果の扉を開けてしまったのは、イザベルだけではない……。この場に立ち会ったそれぞれが、逆行転生の儀式という【禁術の向こう側】に足を踏み込んだ瞬間だった。


* 次章の逆行転生編は2020年11月下旬から開始予定です。

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* 2022年03月05日、長編版完結しました。ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i1122560
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