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王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
精霊候補編3

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「いよいよだけど……。本当に一人で大丈夫? お目付役の小精霊としては、アタシも一緒に行きたいけど」

「ふふっ嬉しいけど、流石にこればかりは、リリアについてきてもらうわけにはいかないから」


 先祖の代から継承している過去の因果に、魂をアクセスさせる水鏡の儀式。修道院の中でも滅多に使われない儀式部屋は、一部分だけ天に窓がついており、あかり取りの機能を果たしていた。水鏡はそこに設置されて、水面には星や月が映し出されている。


「私のご先祖様が、何故ずっと葡萄のゼリーをこの教会に捧げているのか。代々捧げ物をするようになるまでには、精霊様に懺悔をしなくてはいけない【何か】があったはずよね。その正体がこの水鏡で分かる……!」

「……それにイザベルさんが引き継いだ因果と、かつての精霊候補レイチェルさんの因果が交差しているのならば、この水鏡の儀式で判明するはずです。その正体を掴んでからではないと、神として教会の壇上に立つことは許されないでしょう。因果の繰り返しに陥ると、浮遊精霊として行き場がなくなる可能性もありますゆえ」


 それまで語られることすらタブー視されていた『浮遊精霊』の存在について、精霊神官長が触り程度に語る。人間の魂も行き場がなくなり成仏できないと浮遊霊として、ふらふら地上を彷徨うとされている。幼少期から精霊として育っているならともかく、イザベルは人間から精霊に転身する特殊な精霊候補生というポジション。ひとつ道を踏み外せば、浮遊精霊という忌むべき存在に堕ちてしまう可能性も否めない。


「精霊としてのチカラを所有しながら、魂が天と地を行ったり来たりする浮遊精霊は厄介です。イザベルさんにはそのような姿になって欲しくありません。いえ、大丈夫……このロマリオ、儀式が上手くいくように悪霊どもから、イザベルさんを……水鏡を守り抜いて見せます!」

「私も同じく。イザベルさんの安全を守るために頑張るよ」

「ロマリオさん……ミンファちゃん。頼りにしてるわ」


 儀式中は水鏡にイザベルの魂は吸い込まれることになり、それは即ちイザベルという存在の命そのものが無防備に水鏡に収まることを意味していた。もし万が一、水鏡が何者かの手によって割れることでもあれば、イザベルは悪霊に魂を奪われて浮遊精霊になってしまうだろう。剣を片手に水鏡の保護を誓うロマリオと、頷きながら杖を手にするミンファは頼もしいボディガードだ。

 イザベルが水鏡の前まで足を進めると、付き添い役のティエールが最後の助言を述べる。

 

「地上では毎日のように、イザベルの家族が天の教会に向けて、捧げ物をしに訪れている。壇上に立った瞬間から、イザベルは離れ離れになった家族と対面する羽目になる。その時に精霊としての軸がブレて、ご先祖様の因果に引きずられるわけにはいかない。ここが、精霊候補生としての正念場だよ。キミにとっても、一緒に祈りの秘術を行う僕にとってもね」

「えぇ……分かっているわ、ティエール。ご先祖様の因果が、私にどう影響していようとも。必ず、乗り越えてみせるっ。行ってきます……」


 一人前になるための覚悟を決めて、イザベルが水鏡に手をかざすと、みるみるうちにその水の滴がイザベルの周囲を取り巻き……。ポチャンッという音と共に、イザベルは水鏡の中へと吸い込まれていくのであった。



 * * *



 水の波紋に導かれて、イザベルの脳裏にゆらゆらと揺れる何処から懐かしい屋敷の映像が浮かぶと、次に眠気が襲ってきた。必死に抗おうとしても、気力だけでは抵抗しきれないほどの深い深い眠り。魂ごと強制的に休まさせられるような眠気は、イザベルが体験したことのないような未知なる現象を引き起こした。


「……ベル様、起きてくださいな。ララベル様」

「おかしいわね、普段なら私達が起こしに来るより早く起きていらっしゃるのに」


 ハキハキとした女性達の声が、イザベルの目覚まし代わりとなって、頭に響いてくる。しかしながら、女性は名前を勘違いしているらしく、イザベルのことをララベルと呼んでいた。名前を訂正したいが、ふかふかのベッドの吸引力はかなりのもの。安眠中の猫のようにキュッと丸くなって、このまま眠り続けたいのだ。


「お疲れ気味のララベル様を、このまま寝かせてあげたい気持ちもありますが、今日は特別な日ですし。取り敢えずは、起きていただかないと……どうしましょう?」

「致し方ないですね、これもメイドの使命です……ララベルお嬢様。ごめん遊ばせ……せーのっ!」


 バッッッ!

 突然、イザベルの掛け布団を思いっきり剥がし始めるメイド達。規則正しい生活を求められるご令嬢の宿命なのか、半ば無理矢理起こされてしまう。


「あぁせっかくの布団が……う、うん? あら、私……一体」

「ふう……ようやくお目覚めですわね、ララベル様。本日は精霊界へと旅立つレイチェル様への餞別に、特別な葡萄菓子を作らなければいけません。さっ……頑張らなくては!」


 人間から精霊になったとされる伝説の女性の名も、確かレイチェルという名前だったはず。イザベルは自分が誰と間違えられているか、という問題は後回しにして、今日という日が一体いつなのかを問うことにした。


「レイチェル……様の? あ、あの……今日は何年で日付けは、いつでしたっけ」

「まぁ本当に寝ぼけていらっしゃるのね、珍しいわ。今日は【アリアクロス暦1720年】の9月26日ですわよ」

「アリアクロス暦……1720年?」


 メイドが告げる【アリアクロス暦1720年】は、イザベルが生きていた頃より遥か昔のもので。これが水鏡の儀式の結果なのだろう……イザベルは、過去の時代に生きるララベルという女性として逆行転生してしまったのである。


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* 2022年03月05日、長編版完結しました。ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i1122560
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