07
「イザベルさん、初めての精霊候補任務お疲れ様でした。精霊の加護によって、地上の人間達もしばらくは瘴気による悪夢から守られることでしょう」
祈りの場本部から長老宅に戻ると既に、イザベル達の仕事ぶりが通達済みだった。メイドのラズから労いの言葉をかけられて、ほっと胸を撫で下ろすイザベル。
「ふぃー。いきなり地上が荒れててびっくりしたけど、イザベルは結構冷静に地上を判断してたと思うよ! 今日のお仕事は合格だねっ。さぁてと、アタシも今日は、この邸宅の妖精待機室でマッタリとさせてもらおうっと」
ずっとイザベルの肩に乗っていたお目付役の小妖精リリアが、今日の任務終了と言わんばかりにパタパタと羽を広げて浮遊する。どうやらしばらく、長老宅で仕事以外の時間は待機するようだ。
「ふふっ今日は一日ありがとうね、リリア。ところで、明日も祈りの場本部で、加護のお仕事をすれば良いのかしら?」
イザベルの素朴な疑問に、ラズが書類をパラパラ捲り確認をし始める。どうやら明日以降のスケジュールの具体的な内容は、まだ決まっていないようだ。
「そうですね……精霊界で夜が更けるうちに、地上では再び一週間ほど経過するでしょうから。地上の社会情勢に合わせて、活動拠点を決めたいと思います。原則として、長老宅から勤務先に向かう仕組みだけは変わりませんので」
「分かりました。ではまた明日……」
一通りの手続きを済ませて、無事に初日の仕事を終えたイザベル。上司であるティエールも長老への報告を終えたようで、ようやくロビーで合流。
「やぁイザベル、僕の方も長老様への報告終わったよ。初仕事から瘴気にあてられて大変だったけど、大丈夫そうで良かった。さて、今日の夕食は霊力補充が出来る精霊御用達、霊峰七面鳥のローストセットでも買って行こうか」
「霊峰七面鳥のロースト? 人間界では冬のお祈り期間しか七面鳥を食べないけれど、精霊界では結構普段から頂いているの?」
「そうだね。滋養を蓄えたい時やちょっとしたお祝いの場でも食べるから、人間界の食生活より身近な存在かな。市街地に有名なお店があるから、オススメだよ」
地上の荒れた葬儀の様子を見てすっかり奪われてしまった霊力を回復するため、霊峰七面鳥のローストを購入してから帰宅することに。
* * *
役場的な存在の長老宅を出ると、外は綺麗な夕焼け色。虹や星がキラキラと輝いている空が、次第に闇色に沈む姿は不思議な景色である。
しばらく大通りを歩くと、精霊達で賑わう街の中心地に到着。ザワザワする人混みに、イザベルは一瞬だけまだ自分が人間でいるような錯覚を覚えてしまう。
「えぇとチキン屋さんは……もしかして、あの行列のお店かしら。【優しいハーブで育てた霊峰七面鳥や高位種鶏で霊力回復】って看板」
「うん、あの一番人気の店舗だけど、それにしても混んでいるなぁ。テイクアウトだし、番号札を貰って先に注文して時間になったら、お店に七面鳥を取りにこよう」
多数並ぶ飲食店の中でも一際目立つ行列は、この界隈で最も人気があることを示していた。高齢者のみならず若いカップルや親子連れも多く、幅広い世代から支持されている霊力回復のチキンショップのようだ。
「いらっしゃいませ! テイクアウトのお客様ですね。ご注文は……霊峰七面鳥ローストと霊力回復セット二人分。一時間ほどでご用意出来ますので、しばらくお待ち下さい」
メニュー表を配る店員にテイクアウトの注文を素早くして、番号札を受け取り行列から外れる。
「一時間待ちか……どうするイザベル、ちょっとだけウインドウショッピングでもするかい」
「そうね、仕事用のメモ帳やペンがちょっと心許ないから、補充しておいた方が……あら、何かしら。あの人だかり……通行止め?」
先程まで買い物中の精霊達が行き交っていたはずの大通りが、兵士たちの手によって通行止めとなっている。
「大変だっ! 地獄のハデス行きの護送馬車から、凶悪霊魂が逃亡したらしいぞっ」
「いやぁああっ。怖いわ、あの人間の魂……完全に悪霊よっ」
「気をつけてください……王太子の霊魂に近づかないように、落ち着いて」
地獄のハデス行き。
護送馬車から逃走。
そして、王太子の霊魂という稀有な特徴。
(逃走中の王太子の霊魂って、まさか……まさかっ)
ようやく落ち着いてきたイザベルの背筋に、ゾッ……と悪寒が走る。
「見つけたぞぉ〜イザベルゥウウウウ! 頼む、頼むから助けてくれぇえええっ」
「きゃああっ!」
狂った様に精霊界を逃げ惑う邪悪な霊魂の男は、イザベルの元・婚約者『王太子アルディアス』に他ならなかった。




