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当て馬俺様系を目下矯正中です  作者: 佐倉ユウキ
33/35

32.男は総じて面倒くさい生き物ですね


 シュゼットはしゃがみ込んで大輪の花を咲かせる赤い薔薇を指差す。


「赤い薔薇の花言葉は『愛情』『美貌』『情熱』などですが、ピンクの薔薇の花言葉はご存じですか」

「『しとやか』『上品』『可愛い人』……だったかと」

「セレナにぴったりですよね」


 不意に話を変えられて不満気味だったアデルバードもこれには面食らったようで、やや戸惑いがちに「そうかもしれませんね」と視線を逸らす。

 婚約という形で繋がったばかりの2人はお互いの性格もあってかまだまだぎこちない。それでもその反応からセレナに対してほのかな好意が窺えたことにシュゼットは安堵する。

 貴族である以上、家のために結婚することは令嬢の義務だ。ならば少しでもいい関係を望める相手と一緒になってほしいと思うし、叶うなら幸せになってほしい。シュゼットにとってセレナは何よりも大切な友人なのだから。


「アデルバード様ならアカツメクサやレンゲツツジなどもイメージに合いそうです」


 アカツメクサは『勤勉』。

 レンゲツツジは『堅実』。

 庭園を見渡したアデルバードが目当ての花を見つける。


「それならシュゼット嬢はヤマブキでしょうか」

「まあ、わたくしなどには勿体ない花ですわ」


 ヤマブキは『気品』『崇高』。

 少年の視線がそのまま奥の一角へと移る。そこに咲くのは縦に多くの花を連ねるマリンブルーの花。


「貴女の婚約者ならデルフィニウムでしょうね」


 デルフィニウムの花言葉は――『傲慢』。

 花壇に目を向けたままの2人の間を風が通り抜ける。

 反応を窺おうとしたアデルバードの耳に届いた吹き出す声に振り返れば、少女はくすくすと笑っていた。


「あんなに綺麗な花、レオガルド様には過ぎたものではありませんか?」

「確かにイルカと少年がお互いに慈悲深い愛情を与え合う話がデルフィニウムの花言葉の元になっていますから、そぐわない面もあるかもしれません」

「アデルバード様は本当に花がお好きなのですね」


 シュゼットの言葉にアデルバードは目を丸くする。今の話のどこにそんな要素が?


「いえ別に好きというほどでは……一般的な知識しか持ち合わせていません」

「薔薇などの有名な花ならともかく、アカツメクサやデルフィニウムの花言葉を知っている方はそう多くいませんわ。スーデについてもお詳しい様子でしたし、自身でも花を育てていらっしゃるのかと思ったのですが」


 ギクリとした。セレナどころか知人にも話していないことなのに。

 少々調子に乗りすぎたようだ。眼鏡を押し上げ、さりげなさを装ってシュゼットを視界から遮る。


「そのような趣味はありません、花の知識に関しては書物から学んだだけです。我が家の書庫は植物の本が充実しているので」

「そうでしたか……失礼致しました。ではスーデについても書物でお知りになったのですね。とても的確な助言をされていて感心していましたの。是非その本を教えて頂けませんか?」

「っ、それは」

「うちの庭師も新しい花の知識が増えればきっと喜びます。しかもリンドヴィヘム公国のものなら尚更ですわ。父に頼んですぐにでも手に入れてもらわないと」


 しまった。スーデは流通が始まって日が浅く、詳細な情報が載った専門書もまだ出回っていない。だからこそアデルバード自身が試行錯誤を繰り返しスーデにとっての最適な環境を整えた。

 つまりは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。完全に自分の発言が裏目に出た。

 適当な本の名を挙げてしまえば嘘はバレるだろうし、そもそも返答を言い淀んでいるこの状況が書物を持っていないと自白しているのも同義。

 何より全てを見抜いた上でのシュゼットの発言だったのだと遅ればせながら気付いたアデルバードは観念した。これ以上の言い逃れは見苦しいだけだ。


「……申し訳ありません、そのような本は所持していません。あの助言は私自身が育てた経験則に基づいたものです」

「じゃあやっぱりお花がお好きなのですね」

「いえ」


 きっぱりと否定し、シュゼットを真っ直ぐ見据える。


「勉学の気分転換のようなもので、別に特別好きだという訳ではありません」

「スーデのような珍しい花も育ててらっしゃるのに?」

「育てるのが難しい花だからこそ咲かせたときの達成感も大きく、やりがいを感じるんです。それに単純作業は頭をリセットするのに丁度いいし、適度に身体を動かすことで疲労感も味わえて睡眠の質も向上します。決して花が好きな訳では――」

「? やりがいを感じるのは好きだからこそではないのですか」


 きょとんと首を傾げるシュゼットに毒気を抜かれ、アデルバートは大きく息を吐き出す。

 言い募れば募るほど肯定しているようなものだと悟りながらも素直に頷けない。花が好きなど女のようで恥ずかしいし、それに――


「……意味がないでしょう」

「え?」

「少しばかり花の知識があったり育てるのが得意だからってそれが何になるというのです?」


 花を育てるのが上手い人間などアデルバートの他に星の数ほどいる。

 研究者ほどの知識はなく、庭師や花屋ほどの技術があるわけではない。

 誰かに認められるわけでもなく喜ばれるわけでもない。せいぜい自己満足に浸れるくらいの価値しかないではないか。


「まあ、凡人の私にはそれぐらいがお似合いなのかもしれませんが」


 自嘲気味に笑うアデルバート。

 彼を突き動かす正義は劣等感の裏返し。レオガルド(唯一無二)への嫉妬であると同時に羨望でもあった。


 どうしようもなく“特別”に焦がれながらも決して手に届かないと自覚せざるを得なかった故に、彼は正しさや道理に固執した。存在意義を守るために。

 あの未来でアデルバードがレオガルドを異様に忌み嫌っていたのも態度が目に余っていたことを前提としても、根底にはそういった感情があったからだろう。だから距離を置くのではなく、真っ向からレオガルドを否定し続けた。

 レオガルド(特別)を否定することで自分の価値を確かめ、安堵していたのだ。


(やっぱり似ている)

 

 シュゼットが感じたのはこの既視感だった。


 剣への憧れを秘め、黙々と努力を重ね続けていた少年。

 劣等感に圧し潰されそうになりながらも抗い続けた彼の弟。

 弓を引く綺麗な背筋は今でも目に焼き付いている。


 2人ともレオガルドという鎖に縛られ、足掻きながらも身動きが取れなくなっている。

 強すぎる光は影を濃くする。

 力は救いであると同時に呪いでもあるのだ。

 本人たちですらいつ絡めとられたのか分からず、抜け出そうとすればするほど深みにハマっていく呪い(劣等感)


 立ち上がったシュゼットは、スカートの裾を軽く払った。


「それなら極めてしまえばいいじゃないですか」

「…………はい?」

「花の研究や育成を極めて職にしてしまえばアデルバード様の言うところの価値になるのではないでしょうか」


 突然何を言い出すのか。

 自分の夢は父のような文官になることで研究者ではない。

 半ば呆れつつそう伝えても令嬢はその一段上を颯爽と飛び越えてくる。


「それでは城仕えの研究者になるのはどうでしょう。王城には植物の研究者もたくさんいます。彼らのお陰で我が国の文化は他国に後れを取らずに済んでいますわ」

「いえ、ですから」

「花には剣と同等の価値はありませんか?」


 ハッとしてシュゼットを見やる。

 穏やかに微笑む翡翠色の瞳にすべてを見透かされているような気がして思わず目を逸らす。

 逸らしてからすぐ後悔した。これでは肯定したのと同じではないか。


 花が剣より価値がないなんて思わない。美しく整備された庭園は主の顔であり、時として権力の象徴とも言われている。貴族が珍しい花を求める傾向があるのもそのためだ。

 そう思っているのにどうして否定できない? どこかで剣の方が価値があると自分自身が認めてしまっているからではないのか。


(だって、そうじゃないか。花は無くたってどうとでもなるが、剣が――武力がない国など存在し得ない)


 要はそういうことだ。突き詰めれば答えは至ってシンプルで、単純だからこそ覆らない。

 緋色の瞳が頭の奥で嘲笑う。


 『お前と俺じゃ土台が違うんだよ』


 巻き付いた鎖に締め付けられ、底なし沼に沈まんとする少年の頭にシュゼットはチョップを軽くお見舞いした。

 まったくもう。ここまで来ると真面目とか神経質を通り越してただのネガティブだ。

 しかもどんな言葉も卑下に繋がるという自虐っぷり。レオガルドと別方向で面倒くさい。今後セレナがするだろう苦労がありありと浮かんで、安堵がどこかへ飛んで行った。


「まず物事の基準をレオガルドに置くのを止めなさい」

「な……」

「貴方にとってレオガルドはそんなに重要なのかしら。尊敬するお父様よりも?」

「そ、そんな訳ないでしょう。父に認めてもらうことが私の目標です」

「それならもう一度聞くわ。貴方のお父様も花よりも剣に価値があると思っているの?」


 ――父なら?

 さっきは詰まった返答がするりと漏れる。


「父なら同じくらい価値があると答えます」

「じゃあ悩む必要はどこにもないじゃない。貴方が好きなものを他ならぬお父様が認めているのよ。それでも価値がないと?」

「それは……その……」


 シュゼットの毅然とした物言いにアデルバードはたじろぐ。

 敬語が外れ、婚約者を呼び捨てにしている令嬢を咎めてもいい状況なのに何故だか口を挟めない。


「そもそもレオガルドの言葉なんて聞き捨てておけばいいのよ。代わりが利くとか利かないとか、役職に限ってだけで言うなら代わりが利かないものなんてないわ。どんなに有能な王でもどんなに優秀な騎士でも人間はいつか死ぬのだから」


 正論ではあるがとんでもない暴論である。


「大切なのは生きているうちに何を残せるか、よ。だから王様も騎士も文官も、次世代を育てることに力を入れているのだと思う」

「――……」

「花には剣に負けないくらいの価値がある。小国であるリンドヴィヘム公国が他国から高い評価を受けているのだってその国でしか咲かない珍しい花や植物がたくさんあるからだと、貴方だって学んだでしょう?」


 小国であるリンドヴィヘム公国が周辺諸国に侵略されず今日まで在り続けているのは、地形に恵まれていることの他に、その地域にしか根付かない植物を保護する意味合いもあった。

 石油や鉱石が豊富ならそれを理由に侵略もあり得ただろうが、花にそこまで大きな値はつかない。結果としてそれがリンドヴィヘム公国を守ったのだ。

 アデルバードだってもちろんそのことを知っている。それでも尚、首を縦に振れずにいる少年の背を仕方ないとばかりにもう一押し。


「いっそ新しい花を生み出しちゃうのはどうかしら」

「え?」

「認められれば好きに名前をつけられることになってるもの。プランリウムを見つけ出したプランディ男爵みたいに、自分の名前をつけるのも素敵じゃない?」

「私が、新しい花を生み出す……?」


 もし、万が一、新しい花を本当に生み出せたら。書物に刻まれ、たくさんの人の目に触れ、その名を呼ばれるだろう。自分の名を冠した花の名を。

 脳裏を駆け巡った想像にぶるりと背筋が震える。それはとてつもなく甘美な夢に思えた。


(でも本当に、そんなことが可能なのか?)


 彼はどこまでも堅実な男だ。新種の花を生み出せる可能性がどれだけあるかを真っ先に計算し、確率の低さやデメリットばかりに目が向く。

 現在だって花の研究者は数多く存在するが、新しい花なんて早々発表されていない。研究も花を育てるのも時間はかかる。一朝一夕で結果が出るようなことではないのだ。徒労に終わる可能性だって大いにある。

 マイナス思考に陥りかけているのを察してまたチョップを繰り出す。今度はやや強めに。


「いたっ」

「どうしてそんなに後ろ向きなのよ。実現できたら素晴らしい功績になるじゃない」

「し、しかし、言うのは簡単だが非常に難しいことで」

「誰にでもできることじゃないから偉業って呼ばれるんでしょう。努力が報われるとは限らないけれど、努力しなければ報われることはないのよ」


 その通りだ、と思った。

 『でも』とか『しかし』とか言い訳や逃げ道ばかりを探している自分に気付いて情けなくなる。

 特別秀でた才能はなくたって努力することに関してだけは惜しまずに生きてきたつもりだった。それが自分にとっての自信でもあった筈なのに。


 アデルバードが落ち込む様子を見て、シュゼットもやや言い過ぎたことを反省する。

 別に説教するつもりはなかった。ただあんまりにも後ろ向きでぐちぐちと煩かったからつい喝を入れてしまったが、初めて会った他人が口を出していいことではなかった。

 けれど、これだけは伝えたい。シュゼットは目と鼻の先にある一画に咲くある花の前まで歩を進める。

 

「花の研究者に絶対になるべき、って言いたいわけじゃないの。文官を目指すのならそれでいいし、他にやりたいことがあるならそれを優先していいと思う」

「……」

「だけどどうか、レオガルドに囚われ過ぎないで。他人がどう思うかじゃない、貴方が何を好きで大事に思っているか。大切なのはそれだけ。貴方が大切に思うものを貴方自身が否定しないで」


 優しく手折った一本のガーベラをアデルバードに差し出す。

 ガーベラの花言葉は『希望』『常に前進』。


 おずおずと受け取った少年に、少女は慈愛を込めた微笑みを浮かべる。

 見透かされそうだと恐ろしくなった翡翠色が優しい弧を描く様が綺麗で、胸の中のどろどろしたものが溶かされていくようだった。


 花が咲いているのを見るのが好きだ。――美しく咲き誇る姿はそれら全てが『特別』だから。

 花の生態や花言葉を知るのが好きだ。――一つひとつに意味があることを実感できるから。

 花の香りや手触り、姿形が好きだ。――そこにあるだけで心を穏やかにしてくれるから。

 花を自らの手で咲かせるのが好きだ。――努力した分だけきちんと応えてくれるから。


 ああ、こんなに簡単なことだったのか。


「……花を見ていることが、好きです」

「はい」

「育てるのも好きです。綺麗に咲いてくれると、嬉しくなる」

「はい」

「私は、花が好きなのですね」

「知ってますわ」


 なんてことのないように笑うシュゼットにつられて、アデルバードも笑った。

 肩の力の抜けた彼の笑顔は年相応に見えた。

 シュゼットは佇まいを正し、令嬢として頭を下げる。


「礼に欠いた立ち振る舞いと過ぎた口を叩いたこと、そしてレオガルド様の婚約者として彼が貴方に発した心無い言葉……心から謝罪いたします」

「いえ、私の方こそ数々の無礼を働きました。その……大変申し訳ありませんでした」


 家格が上である侯爵家嫡子への暴言に加え、侯爵家への批判をその婚約者である侯爵令嬢に惜しみなくぶちまけていた訳である。

 冷静に考えると非常にまずい状況だ。事の次第によってはエシュリン家を脅かす事態になっていたかもしれない。

 レオガルドという単語に過敏になり、冷静さを欠いていたとはいえなんて馬鹿な振る舞いをしてしまったんだ。今更ながら冷や汗を掻いたアデルバードは深々と腰を折った。


「ではお互い様ということで不問にいたしましょう」


 初めから用意されていたような返答だった。

 もしや初めからそのつもりで敬語を外したのでは? 後々アデルバードが不利な状況にならないよう、この賢い少女は気を遣ってくれたのだ。

 その思慮深さに感謝を噛み締めるアデルバードだが、実際のところシュゼットが彼のネガティブ思考にぶち切れただけだったりする。

 「ただ」と付け足したシュゼットにアデルバードは反射的に背筋を伸ばす。


「確かにアデルバード様がおっしゃるように、レオガルド様が少々我が儘に育ってしまったのはルイズ様やロザリナ様にも責任があるかもしれません。けれどお二方共、レオガルド様を愛していますし決して現状を良しとはしていません。どうかレオガルド様だけを見てお二人を責めないでほしいのです」

「……その通りですね。人格者であるお二方に対して決めつけたような物言いをしてしまったこと、反省します」

「あと、もう一つだけ」


 陽を反射し、きらきらと輝く銀髪が風に揺れた。

 前髪から除く翡翠色がわずかな陰りを帯びる。


「アデルバード様はレオガルド様が大した努力もせず、才能だけで他を圧倒していると本当に思っていますか? 御前仕合の参加者は彼を持ち上げるために手を抜いていると感じましたか?」


 自らが発した暴言にドキリとした。

 言い淀む少年に、少女は言葉を重ねる。


「わたくしも一度、レオガルド様の仕合を観に行ったことがあります。会場の熱量や出場者の気迫、剣がぶつかり合う音や迫力にとても興奮しました。どの方も剣にかける思いがありました。――それはレオガルド様だって同じです」

「それは……」

「レオガルド様は我が儘で自己中で傍若無人で傲慢で世界の中心は自分だと阿呆みたいに信じている将来がヤバそうな方ですが、剣に対してだけは真摯です。八百長なんて絶対にしない」


 アデルバードだって分かっていた。自分の目で御前試合を、レオガルドが戦うところを観たのだ。血や才能だけでは片付けられない圧倒的な剣技に酔いしれ、だからこそ声までかけた。

 対戦相手となった者達だって最後まで仕合を諦めたりしていなかった。どうにか一矢報いてやろうと剣を振るう姿に好感だって覚えた。

 いくら頭に血が上っていたとはいえ、彼らの努力を汚すようなことを言ってしまった。いくらレオガルドが嫌いだからといって勝手な言い分で貶しめていい訳じゃない。


 そして自分の言葉はシュゼットも傷付けたとようやく知った。

 きっとそれは、レオガルドが本当に大切にしているものだったからだ。

 大切にしているものを理不尽に踏みつけられる痛みと怒りを、アデルバードは知ってる筈だったのに。

 彼は誠意を込めてもう一度頭を下げた。


「仕合の参加者に手を抜いている者は一人もいませんでした。レオガルドにおいても、同義です。彼らを侮辱するような発言をしたこと、心からお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした」

「分かって頂けたならいいんです。わたくしの方こそ出過ぎた真似をいたしましたわ」


 庭園の入り口から手を振るセレナが小さく見え、シュゼットは手を振り返す。

 アデルバードと2人きりの時間を確保するため席を外してもらったのだが様子が分からない分、気を揉ませてしまったことだろう。

 申し訳ない気持ちも沸くが、2人きりになって正解だったとも思う。


「今度アデルバード様のお家にお邪魔してもいいですか」

「え?」

「アデルバード様が育てたお花を見てみたいです」


 アデルバードはやや逡巡した後、「セレンディーナ嬢と一緒なら」と小声で答えた。


 きちんと自分の非を認めて謝れるアデルバードは元来、素直ないい子なのだろう。

 あの未来で視たアデルバードが異常なまでに『正しさ』に執着していたのはきっと、コンプレックスが解消されないまま大きくなったから。

 今回のことでアデルバードへの認識が変わったのも事実で、予知夢とは違って友人になれそうな気がする。


 自分が進んだ一歩が別の未来へと繋がっていく。

 ガーベラがシュゼットの背を後押しするように揺れていた。


 

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