第6話 調合
町に戻ると広場はプレイヤーで賑わっていた。
わたしは商店街エリアに向かう途中で声をかけられた。
「パーティーメンバー募集中で~す‼一緒に冒険しませんか?」
声をかけてきたのは若い男性プレイヤーだった。どうやらパーティーメンバーを探しているみたいだ彼の他にも声掛けをしてパーティーを募集しているプレイヤーが見受けられた。
野良でパーティーを募集する際は彼らのようにゲーム内で声掛けする方法とインターネットを通じてパーティーを募集する方法がメジャーである。
ゲーム内で募集する利点はメンバーが揃い次第クエスト等に行けることである。インターネットでの募集だと相手とログインの時間を合わせなければいけないため募集からクエストに行くまでに時間が掛かってしまうのだ。
インターネットで募集する利点は同じ町にいなくても募集でき同じクエストに行きたい人を簡単に見つけることが出来ることだ。ゲーム内で募集していきたいクエストが食い違うなんてことはよくあるので注意が必要だ。
「すいません、わたし今はパーティーを組もうと考えていないので遠慮しておきます。」
わたしはそういい、速足で横を通ろうとした。
「待ってくれ、もうちょっと話を聞いてくれ。これから東のシラ平原に狩りにいこうとしてるんだけどメンバーが集まらなくて困ってるんだ、だから頼むよ。」
「すみません、まだこのゲームのことよくわかってないので遠慮させていただきます。」
「そういうことなら僕が教えてあげるからさ一緒にいこうよ。」
男性はそう言うと強引に腕をつかんできた。
「離してください。」
「じゃあパーティーを組んでくれるかい?」
「あなたのような方と組む気はありません。ではさようなら」
わたしはそう言い放つと腕を振りほどき速足で商業区へと向かった。うしろから「気が向いたら戻ってきてね」と言われたがあんな強引な誘い方をする人のパーティーには入りたくないと思った。
商業区エリアはサービス開始時より人が少なく、少し寂しさを感じた。それでもまだ多くのプレイヤーが露店やお店を覗いていたり、露店で商品を売っているプレイヤーも見受けられた。わたしはゆっくりと商業区を歩いて目的の物を探した。
「そこのお姉さん、ちょっと私のお店見ていかない?」
そう声がかけられ振り返ると少し尖った耳を持った女性がまっすぐこっちを見つめていた。
「わたしですか?」
「そうそう、よかったら少し見ていかない?」
「じゃあ少しだけ。」
「やったー!ありがとう。」
声を掛けられわたしは露店を見てみることにした。するとそこには初期防具とは違う服やアクセサリーが置いてあった。
「ここに置いてある装備はお姉さんが作ったんですか?」
「そうだよ、ここの防具はみ~んな私が作ったんだよ」
「すごいですね、まだサービス開始から数時間しか経ってないのにこんなにもいい防具が作れるなんて。しかも品ぞろえ豊富で可愛い装備が多いし。」
「えっへへ~ありがとう、でもここにある装備はβテストのときに採取した素材をメインで作ってるから実際はそんなに苦労してないんだ、大変なのはむしろこれからというか・・・。」
「大変なのはこれから?どういう意味です?」
「えっとまずはスキルレベル上げないといけないし、そのスキルレベルを上げるのに素材を集めないといけないし、作ったものを買ってくれる冒険者を探さないといけないし、お店の開店資金も集めないといけないし・・・」
「生産職最大の悩みですよね。わたしもポーション作るのに採取に行ってきた帰りなんですよ。」
「ひょっとして君も生産職?」
「わたしは戦闘と生産両方楽しみたいなぁって思ってます。」
「わかる、その気持ち痛いほどわかるわ~でもβのとき両立しようとしたら生産が追い付かなくなったから正式サービス開始からは生産をメインにしたんだ。」
「そうなんですね確かに両立大変そうですよね。」
「うん、私は諦めちゃったけど君は両立目指して頑張ってね。
女性は少し身を乗り出して手を差し伸べてきたのでわたしは右手を出し握手をした。
「ありがとうございます。両立できるように頑張ります。」
「ねぇ名前教えてよ。生産スキル取ってる人って多くいないし何より私達いいフレンドになれそうだしね」
「いいですよ。わたしはルカです。」
「ルカちゃんか、わたしはコロナ、テスターで裁縫士。売ってるものは服と簡単なアクセサリーかな、種族は見ての通りエルフだよ、よろしくね。」
コロナと名乗ったプレイヤーは、自己紹介すると金色の髪の隙間からエルフ特有の少し尖った耳をのぞかせていた。髪は肩ぐらいまでありスタイルがよかった。服は自分で作ったものを着ているのか初期装備よりも華やかだった。
そのまま私たちは流れるようにフレンド登録をした。二回目のフレンド登録ということもあってわりとスムーズに行えたと思う。
フレンド登録が終わった後わたしはしばらくコロナさんを見つめていた。
「うん?私の顔になにかついてるかい?」
コロナさんの声に「っは!」となって慌てて言葉をかえした。
「い、いえただあまりにもきれいなので、つい目を奪われてしまって。」
「あ、ありがとうね。」
コロナさんはすこし顔を赤くして、照れながら答えてきた。年齢は10代後半~20代前半だろうか仕草を見ていると若々しく見える。
「そういうルカちゃんも可愛いよ、見たところ種族は人族かい?」
「え、え~っと・・・はい、そ、そうです。」
わたしは種族の話題になり少し気まずくなってしまった。先程までの楽しい雰囲気が一転今度はどんよりとした空気になってしまった。わたしはいたたまれなくなりすぐに話題を変えた。
「そ、そうだコロナさん私これからポーションを作ろうと思って街に戻ってきたんですけど調合キットと合成キットを売っているところ知りませんか?」
「調合キットと合成キットだったらもう少し先に行ったところでNPCが売ってくれるよ。」
「そうなんですか、ありがとうございます。因みにどれぐらいの値段かわかりますか?」
「そうだね、両方買うとなると一つ1500メルだから大体3000メルぐらいかな?ルカちゃんは今どれくらいお金を持ってるんだい?」
「えっと、どうやって所持金確認するんですか?私今まで買い物したことないので確認したことないです。」
「システムを起動させると右上に表示されるはずだよ!」
わたしはさっそくシステムを起動させて所持金を確認した。
「えっと2700メルです。」
「2700メルかぁそれだとちょっと足りないね、ルカちゃん素材アイテム持ってる?持ってたら私が少し買い取るよ。」
「えっと今持ってるのは、ウルフの牙が3本と毛皮が7枚・爪が5本ですね。後はボアの素材が少し・・・」
「じゃあウルフの毛皮を売ってくれるかい?一枚90メルでどうだい?」
「わかりました、それで大丈夫です。」
わたしは素材を渡し、代わりに630メルを受け取った。
「ありがとね、こっちも欲しかった素材が手に入ってよかったよ。また何かあったらぜひうちで売ってくれるとありがたいね。」
「はい、こちらこそありがとうございました。今度はお金を貯めて装備を買いに来ますね。」
わたしは軽く挨拶をして露店を離れた。
しばらく歩くとコロナさんが言っていた通りNPCが調合キットと合成キットを売っていたので私は購入したため残りの所持金は330メルになった。
わたしはポーションを作るため町で宿を借り調合を始めた。
宿屋はお金を払うことで入ることが出来る。値段はピンからキリまで様々であり今いる宿屋は2時間100メルのお店だ。
また宿屋にも2つの種類がある。ログアウトするために泊まる宿屋とプレイヤーが短時間利用する宿屋だ、今わたしがいる宿屋は短期宿屋の方である。
まず調合キットを広げて道具の確認をしたが、水を入れる容器がなかったので宿の人に「何かありませんか?」と聞いてみると桶と木でできたコップをもらえた。
わたしは庭にある井戸で桶に水を汲み部屋に戻った。
「まずは薬草と水を調合してみよう。」
わたしはまず薬草をすりつぶしペースト状にした。水を沸騰させてその中にペースト状の薬草を入れゆっくりかき混ぜた。30分ぐらい混ぜると突然光だしポーションが完成した。わたしはさっそく完成したポーションを見てみました。
〈初心者ポーション〉
HP回復率+30%
「うん、なんか初心者ポーションの回復量が上がった気がするな・・・。初心者ポーションはレベルが15以上で効果が半減しちゃうからそこまで使えればいいかな?」
わたしはそう考えながらもう一回同じ方法でポーションを作った。結果はさっきと全く同じものが出来上がった。なんどか試行錯誤して分かった事だが、混ぜるのが早すぎたり遅すぎたりすると回復効果が落ちてしまうようだ。
どうやら正しいやり方でやらないと効果が出てこないらしい。次は薬草を乾燥させて試してみることにした。結果先ほどより回復効果が上がった。
少し疲れたのでここでいったんスキル熟練度をみて見ることにした。
<スキル>
剣Lv3 身体強化Lv3 魔法才能Lv5 水属性Lv4 風属性Lv4 速度上昇Lv3
料理Lv1 言語理解Lv1 合成Lv1 調合Lv3
「うん、おもっていたよりスキルが成長しているね。」
調合に至っては初めてからまだ1時間半しかたっていないのにもうレベルが3に上がっている。時計を見るとすでに23時を指していたのでわたしは道具を片付けて宿屋を後にしログアウトした。
ルカ「調合って思ってたより大変ですね。」
コロナ「他のゲームだとボタン一つで出来たりする場合もあるよね」
ルカ「LROのポーションは手作りっていう感じがしますね。」
コロナ「まあ実際生産スキルを持ってるプレイヤーが作ってるからね」
ルカ「人が作ったポーションて抵抗ないんでしょうか?おにぎりとかだと抵抗ある人多いですよね」
コロナ「そういうやつはNPC生産の物を与えればいいんだよ」
ルカ「それもそうですね」
皆「次回もお楽しみください」