44.エピローグ
扉を潜り抜けた先では、レベッカが驚いた顔で立っていた。初めて来るこの場所はどこだろうか。木造の小さな小屋の前にレベッカは一人で立っていたのだ。
「久しぶり」
「どうしてここに……」
なんとか言葉を絞り出した様子のレベッカに俊介は笑いかける。
「レベッカに会いに来たんだよ。この嘘つきめ。そんなに俺が頼りないかな?」
「え?だって……。どうして?」
驚いてばかりで言葉になっていないレベッカを見て、俊介は困ったように頬をかいた。そして神眼スキルを使用して、事実を調べる。どうやら本当に嘘をついていたらしい。呪いの話は本当だったが、呪いが解けた後に消えていなくなるなんて事はなかった訳だ。代わりに呪いが解けたサキュバスは、人間になる。その事を確認して、俊介は安堵した。
「一つずつ説明した方が良いかな?それもと、とりあえず感動の再開といきますか?」
わざとふざけたように問いかけて、大きく両手を広げて見せた。そんな俊介の態度に、レベッカも自らの嘘が完全にバレている事を悟ったのだろう。
「もう……。なんでそうかな?」
呆れたような。でも明らかに照れているその表情を見て、俊介は声を張り上げる。
「いいから、こいよ!」
たったそれだけ。
でもそれで十分だった。レベッカの表情が一瞬の内に複雑に変化して、最後には泣き笑いの表情で、俊介へと頷いた。
「――うん」
そして勢い良く俊介の元へと飛び込んだ。思った以上の勢いに、俊介はよろけて、レベッカを抱えたまま倒れてしまった。
「痛っ」
「ごめん。大丈夫?」
何とか受け身を取って、レベッカを守った俊介は土の上に寝ころんだまま、レベッカを強く抱きしめる。
「大丈夫だよ。こう見えて結構頑丈なんだから。少しは頼って欲しいんだけどな」
「ごめん……」
申し訳なさそうに俯いた、レベッカの頭をそっと撫でる。もう決して叶わないと思っていただけに、嬉しさもひとしおだ。
「ねぇレベッカ」
「なに?」
か細い声で反応したレベッカに、俊介はずっと言いたかった言葉を伝えた。
「おかえり。ずっと待ってたよ」
何度も夢想し、決して届く事の無かった言葉が今。
それはレベッカにとっても同様で、決して叶わないと思いながらも、ずっと待ち望んでいた瞬間だった。
「――ただいま」
絞り出すように答えたレベッカの顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。俊介はその涙をそっと拭い、引き寄せて口づけを交わした。
それは最後にしたのと同じ触れるだけのもの。あの時と同じように、とても優しくて、とても切なくて、とても温かくて、とても柔らかくて、少しだけしょっぱい口づけだった。
でもあの時と違う。
嬉しくて、嬉しくて堪らない。幸せな口づけだった。
これで完結となります。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
実は、コインの裏表のトリックを使いたくて作り込んできた本作。
私自身、とても楽しく書く事が出来た作品でした。
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改めて最後まで読んで頂き、ありがとうございました。




