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30.ルルと2-1

 セリナと出かけた翌日は、ルルとの約束が待っている。前日の雨が嘘のように晴れた早朝に、俊介は急いで洗車を行った。外側だけでなく、車内の掃除も怠らない。ついこの間、レベッカと遊んだ後に綺麗にしたばかりではあるが、別の女性を車に乗せる際には、こういった手間を惜しんではいけない。今はまだそういった関係ではないにしても、下手に勘ぐられれば、待っているかもしれない明るい未来が閉ざされてしまう可能性だってあるのだから。

 洗車を終えた俊介は大きく伸びをして空を見上げた。もこもことした綿菓子のような雲は、俊介に夏が近い事を感じさせた。


「この前はごめんなさい」

 会うと同時に頭を下げたルル。少しだけ気まずい調子で始まったルルとの時間だったが、すぐに調子を取り戻し、車を見てはしゃぎだした。

「私も運転できる?」

「免許を取れればね」

 そうやって返しつつも、異世界人にはムリなのだろうかと俊介の頭を疑問が過る。直後に浮かぶのは、婚活パーティーの時に活躍した勝手に埋め込まれた知識。それによると、結婚すれば、問題がないように様々な情報や環境を操作してくれるとの事。今さらながらに感じるのは、婚活パーティーの主催者が持つ規格外さだ。向こうに不利益になる事をしてしまえば、俊介など一瞬で消されてしまう事だろう。そんな想像が頭を過り、俊介は小さく身震いしたのだった。


 ルルと共に向かうのは、様々な花が楽しめる植物園だ。

「お弁当には何が入ってるの?」

 俊介の問いかけに、ルルは窓の外を流れる景色を見ながら答えた。

「教えない。食べる時のお楽しみ」

「へー。じゃあ、ものすごーく期待しとくね。ルルの手作り弁当楽しみだなー」

 俊介がチラリと隣を伺い見れば、恨めしそうな表情のルルと目が合った。

「あんまりハードル上げないでよね。お父さん以外の男の人に、お弁当作るの初めてなんだから」

「ごめん、ごめん。でもお弁当自体は作り慣れてるみたいだから、期待しちゃうって。ルルは良いお嫁さんになりそうだよね」

「もう!すぐそうやって……」

 小さな声で呟いて、ルルは再び窓の外へと顔を向けたのだった。


 園内に入ると、紫陽花をはじめとした色とりどりの季節の花が迎えてくれた。

「綺麗」

 初めて見る花を前にして、ルルは随分と嬉しそうだ。そんなルルを見ながら、俊介は自らを落ち着かせようと小さく深呼吸を繰り返していた。これからしようとしている事を考えて、緊張しているのだ。

 よし!

 自分に言い聞かせるように頷いて、ルルに声を掛けた。

「行こうか」

 言うと同時に、ルルの手を握り歩き出す。

「えっ、ちょっと……」

 俊介の突然の行動に戸惑うルル。

「どうかした?」

 そんなルルに向けて、俊介は平然と首を傾げる。

「えっと……」

 予想外の反応にルルは言葉に詰まる。それを見た俊介はこれ幸いと、誤魔化しにかかる。

「あっ、そうか。気づかなくてごめん。ここにある花をもっと見たかったんだよね?やっぱりルルの世界の花とは違う?」

「あっ、うん。似た種類の花はあるけど、全く同じのはないと思う」

「そうなんだ。ルルの世界の花は……」

 隣で平然と話をする俊介を見て、ルルはタイミングを逃してしまった事を悟った。俊介の突然の行動は、ルルにとっては完全な不意打ちとなった。

 繋がれた右手から伝わる俊介の体温。見かけによらず力強さを感じさせる手の感触。随分と近い俊介との距離。それら全てがルルの鼓動を早くする。

 反則だよ……。

 心の中だけで呟いたルルの声は、俊介には届かない。


 少しばかり強引ではあったが、ルルと手を繋ぐ事に成功した。俊介は心の中で大喜びしながらも、それを決して表には出さない。

 ルルの手は思っていた以上に小さくて柔らかく感じた。

 ルルは今一体何を考えているのだろうか?少しはドキドキしてくれていれば良いんだけど。

 そんな事思いながら、俊介は隣を歩くルルを見た。

「なに?」

 俊介の視線に気付いたらしいルルに俊介は首を振る。

「なんでもない」

「なによ?」

「いや、ただルルとデート出来て良かったって思っただけ」

 恥ずかしいセリフをさらりと言ってのけた俊介は、何事もなかったかのように周りの花へと視線を移した。こういったジャブが、少しは効いてくれればいいんだけど。そんな事を考えている俊介は、なかなかに腹黒い。


 園内をゆっくりと半周する頃、弁当を食べるのに丁度良い場所が見つかった。時計を確認すれば十一時半。昼飯には少し早いが、許容範囲内だろう。その事をルルに伝えれば、笑顔で頷いてくれた。

 大きな木の下にシートを敷いて、荷物を降ろす。この立派な木は何だろうか。幹に沿って見上げれば、緑色のカーテンの隙間から零れる優しい光が降り注いでいた。風に揺られる緑に合わせて、形を変える光の粒子。それを見た俊介は、眩しそうに目を細めた。


「どうかな?」

 緊張した面持ちのルルを横目に、たっぷりと時間をかけて味わった後で、俊介は優しく微笑んだ。

「最高!」

「よかった。あんまり焦らすからドキドキしちゃった」

 ルルの弁当は見た目も味も抜群だった。前回飲みに行った時にも感じたが、住む世界は違っても不思議と食文化が似通っているらしい。

 それに並ぶ料理は不思議と俊介の好みの物が多かった。

 食べ物の好みが近いっていいよな。

 隣で料理の説明をしてくれているルルを見ながら、俊介はそんな事を思っていた。







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