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27.セリナと1

 週末にセリナとの約束を取り付けた俊介は、どこに行こうかと頭を悩ませていた。ネットを駆使していろいろと探してみるも、どうもパッとしない。

 行き詰った俊介がスマホを放り出して、大きな伸びをすると、タイミング良くメッセージが届いた。誰からだろうかとカードを見れば、ルルの名前が表示されていた。


 前回呑みに行った時、帰り際にルルが潰れてしまって困ったりもしたが、なんとか無事に送り届ける事ができた。翌日来たルルからの謝罪とお礼が一緒くたになったメッセージからは、随分と凹んだ様子が伝わって来て、なんだか可哀想になってしまった。しかも所々記憶が飛んでしまっているらしい。

 仕方がないので、俊介は励ましのメッセージを送っておいた。

『好きって言ってくれたのも忘れちゃったわけ?』

 当然すぐに慌てたような内容が返って来た訳だ。

『嘘だよね!?嘘って言って』

『嘘。じゃないんだな、これが。はっきりと言ってたよ。お酒が好きって。(笑)』

『バカ!』

『ごめん、冗談だから許して。これでおあいこって事で。ね?』

 ここまでやり取りして、しばらくメッセージが止まってしまった時は、俊介は多少焦ったりもした。しかし一時間程後にしっかりと返って来た。

『わかった。ありがと』

 たったそれだけ。

 短い言葉ではあったが、俊介は満足げに頷いたのだった。

 それからは随分と気安く、メッセージのやり取りが出来るようになったように感じていた。その流れで今度はこちらに遊びに来てもらう約束を、あっという間に取り付けてしまうあたりは、さすがと言えるだろう。


 さてルルからのメッセージを確認すれば、特に意味のない内容だった。

 せっかくなので、俊介はどんな所に行きたいのかをルルに聞いてみる事にした。因みに同じ事をセリナに聞いた際には『お任せします』と返ってきたので、俊介としては困ってしまっていた訳である。

 メッセージを送ると、すぐにルルから返事があった。

『しゅん君の世界の花が見たい』

 それを見た俊介は、やっぱり楽で良いなと思ったのだった。


 セリナとどこに行くか散々悩んだ挙句、近くのボーリング場に行く事にした。

 よくよく考えてみれば、異世界人であるセリナにとっては、どこに行っても新鮮なはずなのだ。だったら深く考えずに、近場で人が少なくて楽しめそうな所を選べばそれでいい。


 一週間ぶりに会ったセリナは、婚活パーティーの時に比べて随分と明るくなったように思えた。

 さらには……。

「思い切って短くしちゃいました」

 腰まで届くような長い髪をバッサリ切って、ショートカットにしていた。

「似合ってますよ」

「ありがとうございます」

 そう言って嬉しそうに微笑むセリナは、まるで別人のように見えた。


 可愛い子が隣にいれば、雨の日のドライブも悪くない。

 流行りの音楽を流しながら、最近の事について聞いた。元いた世界から逃げて来たセリナは、今では婚活パーティーのスタッフとして働いている。

「皆さん本当に良くしてくれるんです」

 まだ始めたばかりではあるが、元いた世界に比べて遥かに充実した毎日を送れているようだった。

「セリナさんは、どんな仕事をしてるんですか?」

「私は会場の準備とか片付けとか、雑用が主です。早く仕事を覚えないといけませんね」

 セリナは助手席で小さくガッツポーズをして見せた。


「なんだか不思議ですね」

 セリナが窓の外を眺めながら言った。

「何が不思議なんですか?」

「雨粒がガラスの上を転がっていくんです。こんなの初めて見ました」

 窓に顔を近づけるセリナは、子供のように声を弾ませていた。

「確かに不思議ですよね。子供の頃、俺も飽きずにずっと眺めていましたよ」

「一緒ですね」

 俊介の方を振り向いたセリナは、満面の笑みを見せてくれた。


 辿り着いたのは寂れたボーリング場だ。

 車から降りる時、落ちて来る雨粒は勢いを失っていたが、晴れる気配はないので、二人並んで傘を差して移動した。セリナの世界には傘の文化がないようで、俊介が貸した緑色の和傘をくるくると回して楽しそうに笑っていた。

 俊介が友人と共にたまに利用するこのボーリング場は、複合型のレジャー施設等と違い、いつ行っても人が少ない。当然この日も待つことなく、始めることが出来た。

 セリナにやり方を教えつつ、見本代わりに投げた球は綺麗なカーブを描いて真ん中へと吸い込まれていった。

 ストライクになるかと思われたそれは、運悪く隅にある一本が残ってしまった。

「あー、おしい!もう少しでしたね」

 セリナは投げた俊介以上に、残念そうにしていた。

「あれ倒すから大丈夫だよ」

 カッコ良い所を見せようと投げた球は後僅かの所で、ガターへと落ちていった。

「残念でしたね。思った以上に難しそうです」

「そんな事ないですよ。もしかしたら俺より上手いかもしれませんし」

「がんばります!」

「頑張ってください」

 見よう見まねでセリナが投げた球は真っ直ぐにピンに当たると、見事に全て倒して見せたのだった。

「やりました!」

 両手を上げて喜ぶセリナとハイタッチを交わした俊介は、「カッコつかないな」と小さくこぼした。


 全部で三ゲームを行い、なんとか全てで勝利を得る事が出来た俊介だったが、後半になるにつれて差は縮まり、セリナの才能を見せつけられた気がした。あと数回やったら、コツを掴んだセリナに全く歯が立たなくなってしまうだろう。それはあまりにも情けないように思えた。

 隣で美味しそうにジュースを飲むセリナを見ながら、もうボーリングには連れて来ないと密かに誓ったのだった。







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