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25.ルルと1

 どんなに嫌な時間でも、その後に楽しみが待っていれば頑張れる。

 平日の夜に予定されたルルとの約束に間に合わせる為に、俊介はいつにも増して集中して仕事をこなした。そして事前に上司や周りへと根回ししておいた事が功を奏して、終業時間と共に会社を出る事ができたのだった。


 帰宅して支度を終わらせた俊介は、約束通りの時間にゲートを開き、扉を出現させれば、すでにランプが一つ灯っていた。

 もしかして待たしてしまっただろうか。

 急いでカードを入れると、扉を開いた。

 扉の向こう側には満天の星が広がっていた。周りには街灯一つないにも拘らず大きさの違う二つの月が出ているおかげで、随分と明るく感じる。

「こんばんは」

 月明かりの下で俊介に向けてルルが手を振っていた。


「こんばんは。ここはどこなのかな?」

「家で使ってるハウスの中ですよ」

「ハウス?ここが?」

 予想外の答えに驚いた俊介は、その場で空を見上げた。

 見上げた先には、星も月も確かに存在している。あれが映像だとはとても思えない。

「そう言えば異世界から来たんでしたね。ここは人工的に造られた植物の育成空間です。空にある星は全て本物になります。植物を育成するのに丁度良い環境の空とリンクさせてるんです」

「凄いな。そんな事が出来るんだ。これって一般家庭にあるような物なの?」

「さすがに一般家庭にはないですよ。私の家は育成から販売まで手掛けるお花屋さんですから」

 そう言ってニコリを笑うルルを見ながら、俊介は凄い世界に来たものだと感じていた。


 ルルに連れられてハウスの外に出ると、目の前の光景に俊介は圧倒された。

 なぜなら、車が空を飛んでいたのだ。

 いや、違う。

 俊介が車かと思ったそれは、良く見ればタイヤが存在していない。さらには翼もプロペラもない、車に似た何かが大量に空に浮いているのである。

「あれって動力はなんなの?」

 頭上付近を通過しても、一切風が起こらない事が俊介には不思議でならない。

「え?あれですか?あれは魔法で動く魔道船です。俊介さんの所には、ないんですか?」

「俺の世界には魔法が存在しないんだよ」

「魔法がないんですか!?」

 俊介の言葉に、ルルはとても驚いた様子だった。

 魔法の存在しない世界を想像できないらしく、俊介がどうやって生活しているのかとルルは不思議がっていた。

 

 俊介から見ると、ルルの住んでいるこの世界は、随分と進んだ技術を持っているように見えた。何かの映画で見た事がある様な未来都市がそこに広がっているようだった。

 いや、ハウスの技術を考えれば、映画で見た物よりも更に進んだ技術を持っているのかもしれない。

 そんな事を考えながら、キョロキョロと周りを見る俊介は、さながら先日のレベッカのようである。俊介自身もその事に気付き、少しだけ恥ずかしさを覚えたのだった。


 ルルに案内されて、初めて乗った魔道船の中は驚く程広かった。

「空間拡張をしてますから」

 さも当然の事のように話すルルを見て、俊介は思わず苦笑した。

 随分と座り心地の良いソファーへと腰を下ろしながら、俊介はルルの動きを観察していた。魔道船の中には、操縦する為の物が一切見当たらないのである。どうやって動かすのだろうと思っていると、ルルは鞄から取り出したスマホに似た端末に何やら入力を始めた。待つ事十数秒。ルルが入力を終えたらしいタイミングで、魔道船は動き出したのだった。

「これってもしかして自動で動くの?」

「はい。目的地を入力するだけで、自動で連れて行ってくれるんです。私が小さい頃は操縦用の魔道人形を乗せてたんですけどね。便利な世の中になりました」

「確かに便利だね」

 俊介は呆れたように窓の外へと視線を移したのだった。


「到着しました」

 それは出発してから僅か数十秒後の事だった。

「随分と早いね。これなら歩いてこれたんじゃない?」

 俊介の質問にルルは首を横に振った。

「それが残念ながら、ワープ用のゲートは魔道船に乗ってないと通れないんです」

「ワープね。因みにさっきの所からどれくらいの距離を移動したの?」

「さあ?どうなんでしょう?数か国分は移動しているはずですけど、全自動なので、地理が頭に入ってないんです」

 そう言ってルルは「ダメですね」と笑った。

 色々とツッコミを入れたい。

 そう思う俊介だったが、全てが予想外過ぎて、聞けば聞くほどにドツボに嵌っていってしまうのだった。


 魔道船を降りて五分程歩くと、ルルのおすすめだという目的の居酒屋に到着した。

 かなりの移動距離があったはずなのに、魔道船での移動よりも徒歩での移動の方が時間が

かかっている事実に俊介は違和感を感じずにはいられなかった。

 しかしこの世界で当たり前に生活しているルルにはそう言った認識がないらしく、俊介の言った事に対して、首を傾げていた。価値観の違いというのは、思った以上に大きな障害となるのかもしれない。俊介は、ぼんやりとそんな事を思った。

「どうしたんですか?早く行きましょう!」

 圧倒され、歩みがゆっくりになっていた俊介の手をルルが引っ張った。

 突然の事に驚いた俊介だったが、こちらを振り返ったルルの笑顔を見て、先ほどまで考えていた事がどうでもよくなったのだった。





本作が書き終わったのでここで報告。

まだチェックは残っていますが、追い付かれる心配がなくなったので、投稿ペースを速めます。

全部で十万字程度の作品になりました。

ぜひ最後までお付き合いください。

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