第7話 –静夜の交戦–
オリジナル小説です!
かつて最強と呼ばれた少年ユマが、ひょんなことから出会った少年アキと共にかつての仲間を探し求める。運命に導かれるままにそれぞれの過去と想いが交差する王道ファンタジーです‼︎
下手ですが見ていただけたら嬉しいです(*^^*)
「–––––いい?ユマ、貴方がこれから進む道にどんな苦難が待ち受けていたとしても、それを跳ね除けられるくらい強くなりなさい。強さって言うのは力だけじゃないの、大切なのは勇気を持つことよ。」
遠い昔の記憶、母は俺を自身の膝に乗せて、微笑みながら続ける。
「貴方は男の子なんだから、貴方が大事だと想う人をその手で守るのよ–––––。」
そこで母の記憶は途切れ、気が付けば天井を見ていた。
隣を見るとアキとユズキが並んで寝ていた。そういえば、今晩はカイの家に泊まらせてもらったのだった。
「…久々に見たな、母さんの夢…。」
先程の懐かしい記憶が夢だとわかり、そう小声で呟いた。
「……ゴメンな。」
寝ているアキとユズキを見ているとみるみる罪悪感が湧いてきて、謝罪の言葉を言わずにはいられなかった。
本当は誰も巻き込むつもりなんてなかった。巻き込むたくなんてなかった。…だけど、俺1人じゃもうどうしようもなくて、あの日、騎士団を離れ、戦場から退いて平和に暮らしていたユズキを、偶然か必然か、出会ったアキを危険に引きずり込もうとしている。
ユズキがここを離れられないと思うなら、俺にはそれを止める権利なんかない。
「……カイ…?」
ふとユズキ達から目を逸らし、ベッドがある反対方向を見るとそこに寝ていた筈のカイがいなくなっていた。
何だか嫌な予感がして、俺は立ち上がるとカイを探しに行くため、そっと部屋を抜け出した。
***
(カイ…どこに……)
村中を探したがカイは見つからず、俺は探している内に気が付けば森へと続いている村外れの方まで来ていた。
暗闇で覆われた森の方を見ている自分の顔が険しくなって強張っていくのを感じた。
この辺りの森がどうかはわからないが、夜の森というのは鋭い爪や牙を持った凶暴な獣が活動している危険な場所だ。もしそんな場所にカイが単身武器も持たず行ったのだとしたら…。
それ以上考えるのはやめて、俺は自らの腰に吊ってある剣をグッと握り締めると、直ぐに離して森の方へ急いで向かった。
「–––––離せよ!これ解け‼︎」
カイの喚く声が聞こえた。急いで声のする方へ向かうと、目に入って来たのはさっきの騎士3人と、手足を縛られて転がされているカイの姿だった。
「ったく!うるせぇ奴だな…少し黙れ!」
ガッ。抵抗できないカイを騎士は思い切り蹴り飛ばした。
「ゲホッゲホッ……ユマやユズキに何かしたら許さないからな…!」
「ははは!どう許さないって言うんだ?何の力も無い無力なお前が!」
蹴り飛ばされた腹を両手で押さえながら必死に抵抗しているカイを騎士は罵倒し、嘲笑う。騎士の言葉に傷付いた様子のカイの事なんて気にもしていない。
今の騎士団は腐敗している。
「随分楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ。」
皮肉を込めてそう言うと、カイは驚いた様子で俺を見た。
「ユマ…何で……」
「こんな所に居たのか、探したぞ。」
とにかくカイが大きな怪我もなく無事でいたことに安堵しながらそう言うと、騎士の方へ視線を戻す。
「こんな夜中に一体何のつもりだ?」
「…昼間はどーも。朝まで待つつもりだったんだけどな、手間が省けて助かった。」
騎士は俺の問い掛けに対して、嘲笑するかのような嫌な笑みを浮かべてそう言った。
「こりねーな…何でもいいけどこいつは解放しろ。用があるのは俺なんだろ?」
「それは聞けない交渉だな。こいつは立派な餌だ。お前を誘き寄せる為のな…。」
騎士の言葉にカイの瞳が揺れたのが見えた。
俺のことで誰も巻き込みたくなんてないのに、それなのに俺はいつも、誰かを危険に巻き込んでしまう。悪いのは俺なのに、巻き込まれたやつにはいつもそんな表情をさせてしまっていた。
「とりあえず聞きたいことがある。今はハイマとの全面戦争中だ。それなのに何故お前が今この場所に居る?」
問いに答えられずにいた俺に、騎士は面白いものを見るように笑って続ける。
「…なぁ、答えてくれよ。大事なものを奪われ、戦場に縛られ続ける哀れな戦闘奴隷様よ!」
「……戦闘奴隷、か…ピッタリだな、それ。」
カイの驚いた表情が視界に入ってきた。騎士の言葉に俺は自嘲した。その通りだと思った。俺には大事なものを救い出す力も無く、抗う術も無く、只々戦い続けることしか出来なかった。
「…枷を外せば自由になれるのに、自らその枷に縛られ続けていたお前がここに居るってことは…枷は、重荷は捨てて来たのか?」
「…あいつは枷でも重荷でもないし、捨ててもいない。…捨てられるわけ…ないだろ…だって…あいつは…!」
脳裏にいつかのあいつの笑顔が浮かんで、思わず堅く閉じ込めていた心の内を吐き出してしまいそうになった。それを寸前で呑み込む。
「…まぁ、お前の事情なんかどうでもいい。…ただ、この国の為にはお前は自由になってはいけない存在なんだよ!今まで通りその身を挺し、滅ぼすまで国の為に戦い続けてもらわないとな。」
「…何だよ、それ…」
悪意の込もった聞き慣れた言葉だった。だけどその言葉を聞いていたのか、黙り込んでいたカイがボソリと呟いた。
「国の為国の為って…その為にユマから自由を奪って無理やり戦場に縛り付けて其の上死ぬまで戦い続けろって言うのかよ!国の為なら何したって許されるとでも思ってるのか?」
俺のことや村のことを思い、カイは悲痛な声で騎士に訴える。しかし、その声が騎士に届くことはなかった。
「うるせぇ奴だな…。」
「う…!」
騎士は一言そう言うと、カイの頭を自身の足で思い切り踏みつける。
「何したって許されると思ってるのかって?思ってるさ!国の為には税も、ユマも、必要不可欠だ。税はどうやら持ち帰れそうにないけど…ユマを捕まえて帰ったらお咎め無しどころじゃないんだろうな。」
「ひっ……。」
騎士が腰から抜いた剣をカイの首元すれすれに勢い良く突き刺した。カイが短い悲鳴を上げると同時に微かに皮膚が切れ、首筋を紅い一滴の血が流れる。
「…必要不可欠、か…随分俺に価値を付けてくれるんだな。で?正面からじゃ俺に勝てないからカイを利用するってか…腐り切ってるな、本当。」
「ご名答。さぁどうする?こいつを見捨てて逃げるか、それとも大人しく捕まるか…」
言いながら騎士は最高に楽しそうに口角を上げる。
「ユマ…ゴメン……こんなつもりじゃ…俺……俺が…もっと…」
「はは!無力ってのは辛いもんだな…!」
自分を責め、歯を食いしばって俺に向かってそう言うカイを騎士は尚も馬鹿にし、嘲笑う。
無力。果たしてそうなのだろうか?俺はそうは思わない。
「––––無力なんかじゃない。」
はっきりそう言った俺に騎士は怪訝な目つきを向ける。
「確かにカイにはお前に抗う術は無いのかもしれない。だけど、村を守ろうと必死にお前に立ち向かっていたカイの行動はきっと誰かを救っているはずだ。…そして、他者を思って口にするその言葉は必ず誰かを救っているんだ。その勇気や優しさは何よりも大事な強さなんだよ。だから、少なくとも俺はカイが無力だとは思わない。」
「ユマ…。」
カイと騎士に向かって思いのままの言葉を伝えると、カイは先程の歪んだ表情は消え、どんな顔をしたらいいかわからずにいるような表情を俺に向ける。
少し不安そうな顔で只々真っ直ぐに俺を見る、この目の前の少年の優しさに救われた“誰か”というのは一体誰のことなのか。
「俺、結構救われてるんだ。…俺の為に声を上げてくれるお前に。」
この数年、俺に向けられていたのは悪意ある視線に言葉、憐れみの嘲笑といったものが大半だった。
気にはしていなかったが、自分でも気付かない内に心が擦り減っていたのかもしれない。
だから、俺の為に紡がれるカイの言葉に心が軽くなるのを感じた。
今目の前で頼りない顔をしているカイに俺はいつもの調子で心の内をありのままに伝えると、黙っていた騎士が笑い出した。
「無力じゃない、勇気優しさ、ねぇ…そんなもの圧倒的な力の前では何の役にも立たねぇよ!…こいつの血が見たくなかったら大人しく得物を捨てろ。」
騎士は楽しげに嫌な笑みを浮かべながらそう言った。
カイの首元すれすれでは、騎士の剣の刃がキラリと光って見えた。
「…確かにそうかもな。でも、それが無ければ守れないものってのも沢山あると思うぜ。」
俺は持っていた剣を言われた通りに遠くへ投げると、騎士を真っ直ぐ見据えて口角を上げる。投げた剣はカランと音を立てて落ちた。
「…従順だな。あの流星ともあろう人が…口では何と言っても所詮お前は大人しく俺の言うことを聞くことしかできないんだよ!」
騎士は俺の顔を見て一瞬驚いたような顔をしたが、それを押し隠すように勝ち誇った表情と強い口調でそう言った。
俺にはそれが何だか滑稽に思えた。
「…悪いな。俺は今ここで大人しく捕まるわけにはいかない。」
丸腰のまま騎士に向かってそう言うと、騎士は今度は隠すことなく一瞬驚いたような顔をしたが、直ぐにそれは面白いものを見たかのような嫌な笑みに変わった。
「あ、そ。じゃあ仕方ないな。…可哀想に、見捨てられちゃったなあ!」
騎士は狂ったように語調を強めると、カイの首元に突き付けていた剣を勢いよく引き抜いた。皮膚を切り裂き、ビチャリと音を立て真っ赤な血が暗い地面に零れ落ちた。
「……ユ…マ…」
カイが茫然として掠れた声で俺の名を呼んだ。
「…お前、何して…」
「–––––ッ…捕まるわけにはいかない。…だけど、俺はもう二度と…目の前で誰かを失うのは御免だ。」
騎士が剣を引き抜く瞬間にカイの首元と剣の間に手を入れてその剣を掴んだ俺に対して、騎士は畏怖したような表情で俺を見てそう言い、切れて紅く染まった手の平で掴んだままの騎士の剣を奪い取り、またビチャリと音を立て血が零れ落ちたのも構わずに俺はそう言った。
放心している騎士の傍らで、奪った剣でカイの手足を拘束している縄を切っていると、背後で突然ザッという何かが落ちて来るような大きな音が聞こえた。こっちに向かって来る足音のような音が聞こえ振り向くと、男が漆黒のナイフを俺に向かって勢いよく振り上げる。
「–––––ッ…!」
「ユマ!」
咄嗟に手に持っていた剣で受け止めたが、血でグチャグチャの手の平にその衝撃が伝わり、強烈な痛みに俺は小さく呻いた。そんな俺を見てカイが叫ぶ。
「……こりねーな、お前も…!」
「生憎諦めの悪い性分なもんでね。機会を待ってたらそこの騎士がいい感じに傷を付けてくれるんだもんな。ご苦労さん。」
「な、何だお前らは…。」
ナイフの男は昼間、俺が剣を交えた山賊だった。その執念深さに少し呆れて言うと、山賊はまるで余興を楽しむかのようにそう口にした。騎士は何が何だかわかっていない様子で問いかけるように言った。
「安心しろよ。俺たちはお前らと目的は同じだ。唯、手柄は貰うけどな。」
「な、て、手柄は貰うだと?冗談じゃない!手柄は俺たちのものだ!賊なんぞに渡すものか。」
ザザザと音を立てて何処からか降りて来た仲間らしき山賊6人ほどが地面に着地した。
騎士と山賊が手柄についての言い争いをしている間に俺は屈んで、茫然と座り込んでそれを見ていたカイの耳元に顔を寄せて囁く。
「カイ、今のうちに全速力で逃げろ。」
「え、でもユマ怪我して…!」
敵が一気に増えたこの状況の中、俺の血塗れの右手を見て尚も思いやり、心配するカイに思わず口角が上がった。
「俺は大丈夫だ。だから早く行け。…ユズキには言うなよ。あいつ心配性だからさ。」
手を貸して立たせながら、俺は笑ってそう言った。
「…絶対、戻って来てね。」
カイは心配そうな顔を崩すことはなかったけれど、少し俯いてから顔を上げると言った。
「あぁ、約束する。」
真剣な表情で言ったカイにそう返すと、一目散に村の方へ走り出した。
「あーあ、ガキは逃したか。…まぁいい。さて、1人で10人相手にその手でどこまで持つかな。いくら流星といえど流石にキツいんじゃないのか?」
「さぁな、試してみないとわからねーな。」
舌舐めずりし、楽しそうに笑みを浮かべながらナイフを構え、山賊はそう言った。俺も騎士から奪ったずっしりとしたいつもよりも少し重い剣を構え、笑ってそう返した。
山賊と俺が戦闘態勢を取ると、目の前の山賊の後ろに黙って控えていた残りの山賊達、それに騎士3人もそれぞれ得物を構え、俺を取り囲んだ。
それを合図に俺に向かって一斉に切り掛かって来た。剣と剣が交わる甲高い音を響かせ、1人押し返し、1人腹辺りを斬りつけ、それを繰り返すが、そんなことがいつまでも続くわけがなかった。
(–––––ッ…力入んね…)
「はは!もう握力限界だろ?」
「…何言ってんだよ…。俺はまだまだ元気だぞ。」
剣を握る、血で真っ赤に染まっている右手の握力が徐々に無くなってきていた。そのことに相対しているお喋り好きな山賊には気付かれているようで、増す増す楽しそうに笑う。俺は剣を吹っ飛ばさないように両手で剣を握ると、余裕を装って笑う。
「–––––ッ…!」
「まだ元気、なんだよな?」
山賊と剣を打ち合ってる隙をついて、左右から騎士と仲間の山賊が俺の両腕を腕をザックリ斬りつける。
痛みと力の抜け具合に顔を顰める俺を見て、山賊はニヤリと悪魔のように笑って言った。
「クソ…そのナイフといい、昼間は手抜いてやがったな!…大体この短時間でどうやってこの人数集めたんだよ…!」
「このナイフが俺の主流武器なんだよ。昼間は偶々持ってなかっただけ。それに俺らの拠点すぐ近くなんだよなぁ…。人集めるのなんて直ぐだぜ?」
額から脂汗が出てきたが、俺は強気に少し声を上げた。どんな逆境の時でも弱音を吐いたりしたらつけ込まれる。だから、相手には決して弱味を見せてはいけない。
そんな俺を嘲笑うようにお喋り好きのナイフ使いの山賊はベラベラと話す。
「さて、そろそろ終わらせるか…な!
「–––––ッしまった!」
強い当たりが内側から来て、握力が殆ど無くなっていた俺の剣は山賊のナイフによって吹っ飛ばされた。
「終わりだ。痛いだろうが我慢しろよ!」
そんな言葉と共に身構える間も無く、山賊がナイフを振り上げる。
ナイフが勢いよく俺の肩辺りを目掛けて向かって来るその寸前、再びザザザという音が聞こえたかと思うと、目の前に翡翠色の髪の男が現れ、その短剣でナイフを受け止めた。
「ったく、こんなことだろうと思ったよ!」
背を向けながら翡翠色の髪の男、ユズキはそう言った。1秒ほど驚いて思考停止したが、直ぐに戻って来ると立ち上がりながら口を開く。
「悪い、少し頼む!」
山賊達をユズキに任せ、投げた本来の自身の剣を取り戻すと直ぐに戻って加勢する。
山賊達も一旦距離を取り、背を合わせた俺とユズキを囲む。
「5人ずつでいいか?」
「…あぁ。」
俺の問い掛けにユズキが同意したのを合図に、俺たちは騎士と山賊達に向かって突撃した。
***
俺とユズキの2人で粗方手負いの状態まで追い込むと、いつの間にか張り詰めていた息をそっと吐き出した。それと同時に、見えるものから見えないものまでの無数の傷がジワジワと痛み出す。
「…怪我、大丈夫か?」
直ぐ近くに居たユズキの言葉と俺の目を真っ直ぐ見てくる視線に少しドキリとした。
“怪我”とは一体何処の傷のことを指しているのだろうか。
「…大丈夫。このくらい何ともねーよ。」
そう言ってはみたが、これは虚勢だ。正直もう剣を振れる程の力は残っていない。
「…はは…お2人さん、気を抜くのはまだ早いんじゃねぇの?」
まだ1人残ってるぜ…。
口を挟んできた山賊の言葉の内容に、一気に意識が引き戻されると同時に今日何度聞いたかわからないザザザといった音が近付いて来る。
「–––––ッ…のやろ…!」
ユズキが無言で剣を構え、言いながら俺も剣を構えようと鞘から引き抜くが、無情にもカランと音を立て俺の手から剣は離れ、落ちた。
こっちにどんどん迫って来る山賊はそんな俺を恰好の餌食と見たか、一直線に俺の方へと向かって来る。
ユズキが俺の前に立つが、山賊が来るよりも早く森の方から凄い勢いで走り寄ってきて俺とユズキの前に立ち、山賊のナイフを受け止め斬りはらうとそのまま腹辺りを切りつける。
俺達の目の前に立つ、逆立てた黒髪に緑のバンダナを付けた男は自らが切りつけた山賊が倒れるのを見届けるとその長剣を右肩に担いで俺達の方へ向き直る。
振り向き歯を見せて笑う男は、歳は20代後半くらい、黒髪に霞んだ緑色のバンダナを付け、瞳は深い緑色で、顎髭を生やし、袖が肩までの長さの胸辺りが大きく開いた黒い着物に身を包んでいる、よく知っている男だった。
「リュウ…⁉︎」
「え?」
驚きながらもその男の名を呼ぶと、同時にユズキも同じようにその名を口にした。共通の知人ではないため、そのことにまた驚いて顔を見合わせる。
「–––––よ、ユマ。それにユズキか?久し振りだな。8年ぶりか…?」
やはり口振りからして目の前の男、リュウとユズキは知り合いのようだ。
(…そうか…あいつは今……)
ほんの数日前に別れたその男が今、ここに居るという事実に、俺には懸念が生まれた。
「ユマ…?」
「は…!次から次へと…運の良い奴…。」
俺の様子を変に思ったのかユズキが声を掛けて来た。その時、お喋りな山賊がまた口を開いた。
俺は無言のまま、もう握力なんて無い筈の血でグチャグチャな右手で、先刻落とした自身の血と傷付けた山賊達の血に塗れた剣を掴み、お喋りな山賊に近寄って行く。
パックリと傷口の開いた右手が痛くない筈なんてなかった。だけど、そんな痛みはもうどうでもよかった。
肩辺りを負傷した山賊は片方の手でそこを押さえながら冷たい地面に転がっていた。俺は目前まで来ると持っていた自身の剣で、騎士がカイにやったように山賊の首元スレスレに勢いよく突き刺した。
「3度目はないぞ。」
「…は…今回も見逃してくれんのか…甘い奴……いつかその甘さがお前の足下を掬うぜ。」
次は殺す。そういった意味を込めてそう言うと、山賊はいつか誰かに言われたことと同じことを俺に言う。痛い所を突かれ俺は思わず押し黙った。
だけど、それならどうすることが正解だと言うのか。俺はもう無闇に誰かを殺しはしない。じゃあ、騎士団に突き出せば良かったのか。その騎士団の差し金だというのにそこに突き出すなんて可笑しな話だ。
「…俺だって本当は今すぐにでも、お前ら全員殺してやりてーよ…。」
心の内が思わず溢れてしまった。
殺したくはない。その思いは紛れもなく俺の胸中に存在する。しかし、それとは対照的に殺してやりたいという気持ちも確かに存在する。あいつをあんな所に閉じ込める奴も、それに加担する騎士達も、争いから遠ざかって平穏に暮らしていたであろうユズキ達を金で動かされて再び引き戻そうとする山賊達も、本当は全員殺してやりたい。
外界と遮断されたあの場所でたった1人閉じ込められているあいつのことを考えるとそんな思いが湧いてきて頭が変になりそうになる。
そんなはち切れそうな思いをぶつけるかのように山賊から離れ、脚を負傷し木の根元辺りに背を預けているリーダー格の騎士の下へフラリと赴くと、山賊にしたように自身の剣を首元に突き付ける。
「ひ…!」
情けなく悲鳴を上げた騎士に、俺は更に耳元に口を近付け囁く。
「カナメに伝えろ。…俺はお前を絶対に許さない。彼奴らを傷付けるなら容赦なく殺しに行く。」
萎縮し、青ざめた様子の騎士を見ても、俺の憤りが治まることは無かった。
騎士の首元に突き付けていた剣をどうにか鞘に収め、行き場のない思いをどうにか鎮めようと試みる。
「荒れてるな。」
いつの間にか側に寄って来ていたリュウがそう口にした。
「…5日ぶり、かな。」
ちらりとユズキの方へ視線を向け、少し離れた所で何やらお喋り山賊と話しているのを確認すると、視線をリュウの方へ戻しそう言った。
「そうだな。…にしても酷い顔だな。」
「やっぱり…?」
口許に笑みをどうにか浮かべてはみたが、やはり無理があったらしい。きっと今の俺は眉尻の下がった引き攣ったような笑みを浮かべていることだろう。
「それにしても、まさかお前とユズキが顔見知りだとは思わなかったよ。…でも、考えてみれば当然か。お前はずっと昔からあの場所に居たんだもんな…。」
「……あいつは、俺の大事な仲間だよ。」
離れた所に居るユズキを見て、俺はそう答えた。
そう、幾度も背を預けて来た掛け替えのない俺の大事な仲間だ。でも、だからこそ俺は今起こっていることを伝えなくてはならないのに、大事なことは何も話すことができない。
きっとユズキは話せば力になってくれるだろう。だけど俺は争いから遠ざかった…遠ざけたあいつらを再び醜くて汚い争い事に巻き込みたくはないのだ。何も知らずにこのまま平穏に暮らしていて欲しい。
「…俺にはあいつの力が必要だ…。」
けれど、弱い俺にはユズキの力が必要だ。それを伝える為だけにここまで来たのに、この一言を伝えることが俺にはどうしても出来なかった。
「いて…。」
言いながらぼんやりしていた俺にリュウが脳天目掛けて手刀を打ち込んで来た。割と強めに入って来たそれに思わず声が漏れる。
「ったく、何て顔してんだよ…。お前は何でもかんでも1人で背負い込みすぎだ。只でさえ重すぎるもん背負ってるんだから、潰れちまうぞ。少しは分けてやれよ。」
ニッと歯を見せて笑いながら、父が子に、兄が弟に言い聞かせるかのようにそう言うリュウに、俺は口角を上げた。
「…まぁ、潰れないように気を付けるよ。」
俺がそう言うと、心なしか少し表情を曇らせたリュウが口を開く。
「…悪いな。姫さん1人で置いて来ちまった。」
俺にはやらなきゃいけないことがある。
申し訳なさそうに、でもはっきりとそう言うリュウに軽く笑って返す。
「気にするなよ。元々俺が勝手に頼んだだけだ。お前が気に病む必要は無いよ。唯お前はお前の進む道を進めばいい。」
その言葉に嘘は無い。だけど、あいつのことを思うと胸が軋む。
それでも俺達のことに無関係のリュウを縛り付けるわけにはいかない。
「…姫さんと同じこと言うんだな。」
リュウも少し表情が戻り、軽く笑みを見せてそう言った。
しかし、直ぐにまた笑みを消し、リュウは続ける。
「姫さんからお前に伝言だ。」
–––––どうか無事で。もしどうにも出来ない時が来たら私のことは忘れて下さい。
「–––––ッ……馬鹿野郎…。」
息を呑んだ。
一言そう呟いて歯を食い縛る。そうしていないとおかしくなりそうだった。
例えそんな時が来ても、忘れることなんてできるわけがない。見捨てるぐらいなら、失うくらいなら死んだ方がマシだ。
記憶の中のあいつはいつも笑っていた。今、あいつは泣いているだろうか。
遮るもの、邪魔するものを全てぶち壊して今直ぐあいつの下に飛んで行きたい。
主人公の精神状態ヤバいです。
感想ありましたらコメントお願いしますm(_ _)m
閲覧ありがとうございました!
次回も見て頂けたら幸せです(*^^*)