作戦会議
大朱雀帝国ダイキシン
「父上様。これはどういう事でしょうか?」
アルダイム本家の中は混乱にまみれていた。使用人達もいつもとは打って変わりずっと動いているように見える。
こちらにもリノアが連れ去られた時に貼付けられていた紙のようなものが送りつけられたそうで。
ルシエは何も言わずにラウレルについて来ている。あれからルシエは無駄な事は喋らなくて、なかなか意志疎通出来ないでいた。それはそれで良いのだが。まぁ。
思うが、ルシエは何処の国の人で更に何の人なのだろうか。
何がしたくて、リノアが連れ去られた帝国とはどんな関係にあるのか。こいつに命令を下しているクリカラット王国に一度行ってみないといけないなとラウレルは思う。しかしこんな少女とクリカラットの軍とはどんな関係が……。
父の部屋、アルダイム家主の部屋は二番目に大きな部屋をつかっていて地上六階に位置している。
そこには、色んな人間見たことも無いひとも出入りしているのは帝国を潰そうと朱雀帝国と話しをつけているからだろう。
邪魔はしないようにと、部屋の端に立ち父の返答を待つ。
「お前は自分で出来ることを信じてやれ。お前は私が命令をやっても聞かない事は知っている。そのうえで私は言おうか、待機してろ。クリカラットとの同盟会議が終るまで」
目の前の書類に目を通しながらこちらを見ずに父は言う。
「…そのくらいは待つよ。それからは自分でやる」
「ハハハ…そうか。少しは成長したと言うことか。第一人質は殺しては意味がないそれは分かるな。しかし死なない程度に暴力はあるかもしれん。できるかぎり速く助けに行きたい。恐らく、お前がこの戦争を終らせるだろうな」
「では、次の指示があるまで部屋にいます。もし部屋にいなくても探さないで下さい」
父の返答は皆無で、そのかわりにルシエが応える。
「今の所…リノアさんの心音は安定しています」
「…なんでそういえるんだよ」
「おいラウ。それはどこで見つけた。」
会話を遮るように、父は言う。その目はルシエを睨みつけているようで
「なんでですか?唯、俺をクリカラットに連れて行こうとしてたが、辞めて俺について来ている女の子を何処でって?貸し出さないからね」
「いや、幼女には興味は無いな。リノアのほうが……。それは、クリカラットの兵士だ。でかした。これで同盟を有利に動かせる。フハハハハ」
何を言っているんだ父親のくせに。
不気味に笑って父は仕事に戻る。その背中はうきうきしているように見えた。
「おまえって何なの?ホントの目的は何?」
なんか直感的に思ったから言ってみた。
「そうです…ね。落ち着いて話せる所はない…ですか?そこで、全て説明します」
出会ってすぐの少女に最初に案内するのは自室は何だろうと思うのだが、それいがいは安心出来る部屋はないと確認する。
「俺の部屋に来る?」
「おおー。それはいいです」
何故だか棒読みな発言の中にキラキラしたものを感じたのは多分自分だけだ、と少し休んだほうが良いのな。
何となくリノアがまだ帰って来なくて良いかななんて思ってしまうのはまぁ、この際置いておこうかな。
「今は状況を楽しんだほうが良いぞ」
父のアドバイスなんて右から左だ。娘にてを出そうとしていたんだ。逆に聞かない方が良いと思う。
○
「お茶となんかおやつ頂戴」
部屋の前ですれ違った使用人に頼む。むすくれたメイドは、やりたくない軍事の仕事よりもこういう頼み事のほうが楽しいんだな、と思うほどに表情がうきうき弾んだようになるのはなんか良い。…このメイドの娘は最近入ったんだってね。どうでもいいな。石が使えないという特徴を持っている。
「ラウ君…ここ?」
はっと我に還る。嗚呼、自室の前で止まっていた。何だよあのメイドさん。どんなアビリティ持ってんの?
「そう、ここ。少し散らかってると思うけど、まぁきにしないで。適当に座ってね」
言ってから部屋の扉を開ける。リノアが持ってきたアロマの香がにおってきて中に入る。…ホントにぐちゃぐちゃで、ふと思うとリノアはいつもこんな汚い部屋に入っていたのだなと不快に思った。そうだな、かたずけようか。
「ホントにこんな汚い部屋に入るの。自分はきにしないでって言ったけどさ、なんか自分が気にするな」
「だい…じょうぶ。基本的に牛舎でも安眠出来るから」
「ルシエは良いかもだけどこっちが気にするから。いや、本気で。三分待ってね、すぐにかたずける」
とバタンと逃げるように部屋の中に入り鍵を閉める。
「機動式…錯乱型操作開始」
ゆっくりと深呼吸、目の前の散らかった服、魔導書などに意識を集中して両手を体の正面へ持って行く。
二秒位その状態のまま、錯乱型の魔法陣が完成するのを待つ。動かそうと頭で思い浮かべる。
ーー小さい魔法はだるいんだよな。
その間部屋の外で待っていたルシエは頼まれてたお菓子などをカートに乗せて持ってきたメイドさんと出くわした。
「あなたは、ラウレル様がお持ち帰りしてきた女の子ですねぇ」
「……」
黙秘をする。執拗のない会話はしない。しかし、どんな雑談でもラウレルとなら別に良いと思っている。特別な感情があるのは自分には解らない。しかし、ほかの人間と話すのは気が退ける。なんか、嫌だからかな。
しかし、ラウレルが親しい人間が捕われたのに焦らないというのは人が出来ているというかなんというのか。
「聞いてるのぅ?名前は?可愛いねぇ」
変態紛いのメイドさんは無視をしとくのがベストだと考える。
「でもラウレル様はなにをしてらっしゃるのでしょう。こんなところにお客様をお待たせして」
「あ。これは私がします。仕事に戻って良いです…よ」
「でもねぇ、あれはしたくないんですよぅ。…違いますよ、ラウレル様のお客様に下女の真似はさせませんから」
「いや、こんな事が出来る人…は、私の国では相応の対価を貰えます…です。自慢出来る事。私もしたい…です」
「よければ今度、私がいろいろ教えようかぁ?」
「考えとく…です」
そんなときに、ゆっくりと扉が開いた。そこからラウレルが出てきて
「あ、いいよー。大丈夫」
力無くラウレルが言うとルシエはニヤリと笑った。
「いつか、ラウ君にご飯…つくってあげる」
上目ずかいにちょっとほほを赤らめて…なんて完璧な、と
「あ…ああ。リノアと一緒に…な」
ーーなんだ。リノアさんの事気にしてるのか。ルシエは少し寂しい気持ちになるが、今日の朝に会ったばかりなのだ。家に招待してくれただけで好感度は充分だろう。
促されるままにラウレルについていく。それに続いてメイドさんもカートを押しながらあるいてくる。
「今日はレモンティーですぅ。アーシア大陸産のレモンの皮を使ってます。果肉をクッキーにして焼いてみましたぁ」
「そうか。自分用につくってたの?」
「わかりましたぁ?疲れた時に食べようと焼いてたのが完成してました!!」
「あ、そう」
ラウレルの部屋は至極シンプルで、カーテンがピンクなの以外対して普通の部屋だった。
天蓋付きベッドは意外だったがそれも普通の色で。中部屋くらいの大きさで、ベランダには物干し竿がかかっててそれに服が数着あった。
「リノア匂いがする」
呟いてルシエがその場に腰を下ろした
「ラウ君、この人は…」
一緒に入ってきたメイドさんを見てルシエは言う。
「ラウレル様、私も混ぜてくださいな。気持ち良く、満足させてあげますよぅ」
「何に満足か知らないけど、…聞くんだったら協力してもらうからな」
「うふふ、私の二つ名をしってますかぁ?《高速の両手使い》ですよ」
「そ…そうですか」
早急にでていって欲しいな、このメイドさん。どんだけ軍事の仕事したくないのかよ。スゲー邪魔。
と、もうどうでも良くなったのか、それとも少しだけ親しく話しているこのメイドとの関係にいらついたのか
「もういい…です。勝手に…して。終わったら……教えて」
ルシエがふいっとそっぽを向いて赤くなった。まるで頭から蒸気が出ているようだ。どんな想像をしたのか、可愛いなと。
「ここからは、大事な話しなので出てってもらって良いですか。リノア救出の作戦を建てるんだ」
「でゎ、私も微力ながら参加しますよぅ。お嬢とはいつも話している仲ですから。お嬢が捕まったと聞いて居ても立っても居られませんでしたが、こういう事なら喜んで協力しますよぅ」
「だってさ、ルシエ。………ルシエ?」
「ラウが汚れる。ラウ君が汚れる。ラウ君が汚れる。ラウ君が汚れる。ラウ君が汚れる。…」
ラウレル達に背中を向けて耳をふさぎながら体育座りの膝に顎を乗せて呪文を唱えるように…俺を呪っている!?
そんな直感が過ぎる。
まぁ、良いか。ラウレルは「大丈夫か」なんて肩を揺する。本気で大丈夫なのかって焦るほどに体温が上昇している。そのまま続けてルシエは「あ」って返事をくれたのがよかった。
「紅茶をおつぎしますねぇ」
三つのティーカップに少し黄色がかった色のレモンティーを注ぐ。ふんわりとレモンの匂いがする。
ルシエはクッキーを不思議そうに眺めながら一心にひとかじりする。
「お…いしい」
「でしょう。これは私の全神経を集中して練った生地ですからぁ、美味しいに決まってますよ」
「そして、ルシエ。ゆっくりでいい、時間はあるから俺らに解るように説明してくれ」
ルシエは頷くと、もう一枚のクッキーに手を伸ばしながら言う
「私はクリカラット王国の最新機械兵団第二小隊の兵士です」
「機械兵…?」
「私を含めて全部で十人います。帝国の機械兵を基に発展させてそれの最高の出来が私です。人間がベースに改造されていきました」
「人造人間…というのか?その帝国の情報は無いのか?造られた目的はなんだ」
のめり込むようにラウレルは質問をする。こんなに興味を惹かれるのは初めてだ。
「最初の質問から答えさせてもらいます。今の段階で帝国の情報は何もありません。あるとすればこの機械兵が沢山あるということと、下界というところの民かもしれないと言うことですそれいがいは、ありません」
ルシエは半開きの目が少しだけ大きくなっているのが分かった。メイドさんは「はっ?」ていうかんじに傾げている。
「二つ目は私達の造られた理由は、この世界の統一をするためです。クリカラットの王ハウシュタインは帝国と何かの話をつけていたそうですが、誰一人としてその何かを知ってるものはおりません」
「そうか。じゃあ、おまえは機械でクリカラットの兵士なんだな。分かった。俺らに危害をあたえてくる心配をしていたほうがいいのか?」
「今のところ、しなくて良いと思います。しかし本気にしないほうが良いです。新しい主の将軍ラトは何を考えているのかわかりません」
「ラトか。ルシエ、おまえは命令は絶対なんだな」
「そうです」
「お前を心から信じることにする。当てにしているぜ、ルシエ」
そういってラウレルは微笑んだ。
「あ、うん!」
ラウレルの反応にルシエは驚くと共に何だか温かいきもちになる。今まで生きてきてこんなにいい気分になったのは初めてで、嬉しく感じる。
ーーこれが心か。長く忘れていたようないがするな。
ルシエはもう少し続けることにする。帝国の情報としてはもう少しだけあるのだ。
「わかりました。私もラウ君を信じています。なので少しだけ、もうちょっとだけ話します」
ルシエの表情が解るくらいに変わるのが驚くポイントで、まぁそんな事は置いといて。
「帝国は下界の人類というのは言いました。下界にも国や私達以上の文明があるのは確かです。そのなかで帝国は下界でアスク同盟連邦と言うそうです。同盟というのですから国はたくさんあるだろう、という仮説でしかありませんが」
ルシエは人差し指を立てて説得するように、どこのプレゼンターかと言うほどに力が入っている。
「何故だかこの世界、古典に寄ると上界というそうですが、ここは同じ言語を持っています。訛りはありますが伝わらない程ではありません。その言葉がアスク同盟連邦も使われているのです。分かるのはそれくらいです」
と、そんな話はすぐに終わった。熱心に話しているので止めなかったが
「それに何か問題があるのか?俺には逆にそれで良いと思うんだが」
そんなことを言うと、メイドさんが「ああ」なんて頷く。
「言語が一緒ならこちら側の暗号とか伝令書なんてすぐに解読されますねぇ」
「それもあります。そうされると取引に用いる道具すらもすぐに対応を取られて全てこちらが不利になります。」
「それは、情報とかいろいろ取られた後だろ。今には関係ないじゃんか」
「何故私がここまで考えるというのは、向こうにはその気になれば攻め落とす準備がある、ということです」
「は…?なんでそんな事わかるんだよ」
「帝国側の機械兵の力は一体でも連合軍の全軍を凌いでいます。非公認組織のギルドさんの中、RankSSでやっと破壊出来る程です。そんな機械に対抗なんて出来ませんよ」
「戦わなくて貿易というかたちで取引すれば良いだけだろ。父上は何て言ってんの?」
「もう無理なんですよぅ。旦那様は真っ向から勝負を挑むつもりです」
メイドさんは絶望だ、という風に表情をゆがめていて
「負け戦って事か」
そんな事を言われると恐らくギルドのメンバーさえも士気を失うだろう。
「でも、俺はリノアを助ける。それは変わらない」
「そうですね。半分以上私が原因ですから、手伝います」
「私は頭が悪いのでよくわかりませんがぁ、…元ギルドのRankSですからやりますよぅ!!」
「「!?」」
二人の反応が重なった。元RankSだと?
「ノイ君とコンビ組んで暴れてたなぁ…」
懐かしんでメイドさんを二度見した。ノイなんて、アーシアの英雄だろ。国の独立戦争の時に敵を圧倒して暴君なんて呼ばれてる。…それのコンビだなんて。
「情報不足でした。ノイ様なら機械兵を何体でも破壊出来るでしょうね。ノイ様のコンビだったとならば力は確かでしょう」
「でも聞くかぎりじゃ、ノイって奴はRankAだろ」
「Rankというのは仕事をちゃんとしてる力のある人の位を表す階級なんですよぅ。ノイ君は力はSSを軽く凌ぐけど、仕事なんてしたこと無いんだからぁ」
「非公認ですから情報なんて当てになりませんね。そんな事知りませんでした」
「じゃあ、メイドさんは仕事をちゃんとしてた、と?」
ラウレルが不思議に思って聞いた。何となくは分かった。力と仕事の点数があってそれを足したのがRankって事だろ。仕事をしていないノイは力だけでAになったんだろ。多分、仕事の方が点数たかいんだろ。メイドさんは世話好きそうだからノイのお世話係としてコンビでも組んで仕事で点数を稼いだんだろって思った。だってそうだろう、性格がこんなんで軍事の仕事をしたくないって言ってるんだから。
「してないですよぅ。他国の軍人を殺さないようにフルボッコにしてました。それはクリカラットの大きさで分かるはずですよぅ」
びっくりした。こっちのほうが強かったのか。
「クリカラットで伝説になっている魔障石を使わない《祖先の魔術》を使う破壊の(ブレイキングウィッチ)魔女があなたなのですか?」
ルシエが興奮しているのがわかる。鼻息が荒いのは、ルシエだから許せるな。なんか可愛いし。
「何千万人に一人の魔障石非適応者。体内に魔力があるから石が反応しない人か。じゃ、力だけでもノイを越えている…」
ラウレルはそれ以上の言葉は無い。確かにギルド基準のRankSSの遥か上を行く二人が居れば負ける確率は減る。しかし、それも数パーセントが限度だろう。
「勝てるかもしれません。クリカラットの人造機械兵も三人もいれば破壊は可能ですので」
それを見込んで父上はクリカラットと同盟を組もうとしてたのか…。人間としての格の違いが問われる場所だ。まだ父には届かない。
「それはそうと、ラウ君はどのくらいの魔法を使うんですか」
「石の純度にも寄るけど、獣の危険度があるよねそれで言う十八位かな」
はずかしながら言う。たいていの人はここで驚くはずだ。だって、軍の最大戦力で引き分けるのが十五で、それの十八と言ったのだ。どのくらいなのか、軍を壊滅出来るくらい。
その軍の最大戦力といってもその表す軍とは、連合軍の一個旅団をしめしていて。
「私の半分くらいの力ですか。少し高く評価しすぎていたようです」
ルシエはラウレルを見て嘲笑う。でもまたそれもいい表情だ。
「私はその歳でぇ獣狩りで二十を殺しまくって、牢獄にいれられましたぁ」
「メイドさんは少し黙っててくれませんか」
破壊の魔女に強気な俺はなんなのかな、とか思う。と、メイドさんがまた口を開く。
「そろそろ名前で呼んでくださいぃ。メイドさんメイドさんって悲しくなりますよぅ。私はミカリエス・メリィです。気楽に呼びやすいように呼んで下さい!!」
「私は魔女さんって呼びます。敬意を払っていますので心配なく」
ルシエのキャラが定まっていない感がはんぱないのは中々人と話して無いからなのかな。
「じゃあ、ミカで。よろしくな、多分便りにしてるから」
「自分の事なのに多分なんてつけないでぇ。何だかぁ悲しくなりますぅ」
三人の笑い声が、アルダイム本家ラウレルの部屋にこだます。