二人の日常
昇る朝日を高いビルの上から眺めてた少年は、隣の少女と話していた。
「明日…か」
「そう」
歳は十五といった所だろう。少女は小刻みに震えながらにぃっと白い歯を剥き出した。それはただ景色に興奮しているだけでそれいがいはなにもない。
明日は大朱雀帝国中央都市ダイキシンで、兵士の募集演習が行われる。簡単に言うと、高純度の魔障石をどのくらいうまく扱えるかを計り朱雀の兵士に成れるかどうかの試験だ。
しかし、魔障石は純度80%をこえると身につけていてもほとんどの人間は、全く魔法を使えないと言う。
少年ラウレル・ボルク・アルダイムは今70%の魔障石を個人で使う。その純度を聞けば今の世界、驚かない人は一部に限られる。ギルドの所属者だ。
アルダイム家は、歴史を掘り返しても一流貴族として扱われている。たまに現れるボルク持ちは、数多くのRankSに匹敵するほどの軍人を排出する家だからである。
そのなかで、ラウレルはトップの力を持っていた。
純度60%も無い魔障石には反応しない力があり、生まれてすぐに行われたテストでは無能として蔑まれた。
そのテストは、基本を20%として行われている。拒絶反応というものがあり、20%を越えた状態でそれが起こると赤ちゃんならばすぐに死んでしまうので、これ以上は上げられない。
しかし、ほとんどは何かしら反応する。反応はそれぞれだが、全く無いとは、誰が見ても新しい反応だったそうだ。
5歳の時、事件で純度67%の鉱石が奪われた。それを偶然触ってしまったラウレルは、ラウレルを中心に大きな爆発を起こした。無傷であるのはその通りだが、町全体と言っても良いくらいに被害が多かった。犯人も黒焦げで発見されていて、この事件は《朱雀の大火災》と肩を並べて有名な事件になった。その後、いろんな純度で実験をして、そのおかげもあってか蔑まれる事は無くなり担ぎ上げられることになる。
そして、純度70%の魔障石を与えられて今に至る。
やはり何処でも力ある人間が評価されるのだ。こればかりは生まれた時に既に決まっている力なので、生まれた時に差別される人が決まっている。
ラウレルは胸ポケットに手をあてて願った。世界が反転する。
やはり幻想術はなかなか難しい物だ。今の歳になってもすごく集中しないとこの魔法は完成しない。
そして、手を下ろし背中から後ろに倒れる。元々ベットの上で実験していた、なので布団にぼふっという音を立てて横になる。隣でベット脇に座っている少女は笑う。
「でも、凄いよ。こんな魔法誰でも使えないよ」
優しい口調で言った。
「誰でもに含まれない人間もいるんだろ。唯一の力が欲しい」
明後日のほうを向いてラウレルは言う。
そんな姿に少女は溜息をついた。そのいつもの行動。素っ気ない動きに何気なく注目を浴びせる。
「なんで君は僕の傍にいるの?」
毎日同じ時間に聞いてくるいつもの質問。少女はいつもと同じように答える。
「あなたが好きだから」
迷うことなきその言葉は、ラウレルを安心させて深い眠りに誘ってくれる。寝息を確認すると、少女は扉を開けて廊下に出る。アルダイム家の夜はまだ長い。
少女、名前はリノア・ショウン。アルダイムの拾い子である。
三歳の時に戦火に巻き込まれ第三貴族のショウン家が最後の一人となってしまって今に至る。
5歳の時の事件もラウレルを探したのを覚えている。それほど印象的だったその事件ももうすぐ楽しかっただけの思い出となる。もうそんな記憶は無くなってしまう。父上が言っているんだ。わからないがそんな事らしい。
今は、右手を壁に伝わせながら廊下を歩く。なぜなら、純度40%魔障石で作られた壁で、基本的に通信機として使っているから。これは、リノアを含め、メイドの五人ほどとアルダイムの家主しか知らない。
リノアは、自分に宛てた通信に驚いていた。
『リノア、ラウレルは寝たのか』
「はい。どうしたのですか、その…私に」
突然の家主からだという連絡はどんな理由なのか解らなかった。
『ラウレルが許しているのはお前だけだ。そこに込み入って頼みがある』
頭の中に直接響いてくるその声はいっそう低くなったような気がした。
『ラウレルを帝国にやるな。これは命令である。』
「ラウレルは明日を楽しみにしています。理由は何ですか」
『力が強いことは解っているだろう。お前にしか本気を見せていないようだが、だから尚更……私は明日この家からでないことをオススメするが』
そういって一方的に通信を終了した。焦った様子で。
いくらアルダイム家主でも、権利の侵害は出来ない。何故そこで終了するのか、何故そんな事をしないといけないのか。
不意に頭を過ぎる最悪の未来を予想し、いやいやと首を振る。
過去にラウレルが言っていた言葉が現実にならないかと心配をした。でもその時のラウレルは正気な目ではなかった。
《死の歴史が動く》
いや、歴史など自分が生まれる前から動いている。その前に死の、と付いているので何となく危険な感じがするが、ラウレルは何を思ってこう言ったのか。
確認なんて、要らない。ラウレルが空は緑と言ったら緑なのだ。私はラウレルを信じているし、ラウレルも私しか頼れないだろう。ずっとそんなんだ。
家主様が言ったんだ。あしたにでも忠告だけでもしておこう。
そう決めて壁から手を離し自室へ急いだ。
○
朝起きると最初にすることはいつも決まっている。
自分に対しての暗示である。元の自分を偽り違う自分を表面に写し出す。毎日会っている人は分かるだろうが、顔は同じでも性格は全く真逆だという。
夜は、自虐の自分。昼は無駄にギザな性格。
どうやって共存しているのか、更には意識的に変わったりしないのか。そんなものはラウレルにすら解っていない。
ラウレルは、中庭に出た。東国の庭園のような印象で、砂利が敷かれている。石に苔が生えているが、手入れの行き届いてないような気がしない。
そこの中心にあぐらをかいて座る。
よく見ればラウレルを真ん中に魔法陣がうっすらと砂利そ隙間から光っている。
「スゥー…ハァー」
ゆっくりと深呼吸をする。キラキラと円の内側に星屑のような粉が宙を舞う。馴染ませて抗体を吸う。しかし今日はいつもと違う物質。嫌な性格を抑えようとしている。
中庭に隣接する縁側に座り足をぶらぶらと揺らすリノアは、外出用の少し飾った服を着ている。ピンクのそれはポニーテールにしている髪と相性がいいのか、可愛く似合っている。
10分後に終り立ち上がる。いつもは三分もかからない儀式だが、今日は気合いが違っているようだ。リノアはそう思ってニヤニヤしてラウレルに近づく。
そんなラウレルは金色の粉がかかった体を洗おうと風呂に向かう。そこにリノアが話しかける。
「ねえ、私も一緒に入ってあげようかぁ?」
「いや、いいや。一緒に入りたいけど、もうこの歳だし」
「…」
リノアはジト目をする。こっちのラウレルはうざくて嫌いだ。でもちょっと今日は違うような。
「すぐ上がってくるよ」
夜のこいつは素直なのに、と頬を膨らませる。
「早く準備をして頂戴。あと三時間で行かないといけないの」
腕を組んで顎で指す。--もう夜になって欲しいな。
リノアが溜息をついた。
アルダイム家は底辺の王族の城よりも大きな屋敷を構えている。大きさで言うと、天空都市ラ○ュタと同等位。
部屋の数が大部屋三十、小部屋百五十。
並の屋敷とはいえない程の、外壁。何世紀か前に要塞として活躍していたらしい。証拠として、地下の牢に何千の死体がある。そんなレベルだ。
その真ん中に庭園、西側に大聖堂があり東に大図書館がある。大浴場は庭園から歩いて10分位の所。
この大きさの家の浴場なんて想像できるだろう。
とにかくでかい。広い。最初はこんな家で迷子になった。それも数回のさたではなく、何千回の位で。
そんな大きなお風呂には、見知らぬメイドさんとかがいつも入っていて。家主の一人息子…あッ。既に30分近く経っている。
気にしていなかったが、いつもメイドと一緒に…!?
いても立ってもいられなくなったリノアは、走り出した。
蒸気がもうもうと立ち込める中バスタオルも巻かずにリノアは大浴場のに入る。
「あれっ?なんで入ってくんの?」
なんて、服を脱いで扉をいきよいよく開ける。目の前にはラウレルがたっていて、瞬間的に目が合ったラウレルの反応は皆無で。しかも想像の中のメイドなどいないし、もうすぐ大浴場を出る感じで。
「…全裸なんですけど?」
「そうだね。でも湯気凄いから君のパーフェクトボディが眺められないな」
何かむかつく。歳のわりに発育してないのは知っている。
それにパーフェクトなんて…その目はなんだ。
「心配しなければよかった」
少々化粧したのが無駄で、心配も無駄で。
「何がしたかったの」
そう呟いて、全力でもろだしのティンを蹴った。
「オーマイガー」
その声は外にまで響いたとか。
お湯が張られている大きな湯舟に口まで浸かり、ぶくぶくと泡をたてる。隣にラオレルが少し気まずそうに浸かっている。
幼なじみ以上の義兄妹は、互いに向き合いもせずに話す。
「お父様がそんな事を」
昨日の夜に言われた参加してはいけないということを告げた。
ぶっちゃけ朝からやる気のラオレルにはこんな事いうつもりはなかった。場所が場所、時が時だからここで言った。
「でも、行くんだよね」
優しく問い掛ける。ラオレルはえっ、という顔になって
「行くの?」と。間があいて再び口を開く
「何か嫌な予感してたんだよね。行きたくはなくない」
「どっちなの?」
軽いその口調にリノアは物凄くいらついた。
ーー外行きたくないんなら、なんで暗示魔法をかけたんだ
そんな言葉を飲み込んで
「なら今日は私の買い物に付き合いなさい」
「この頃街に出てないからね」
いいよ~と親指を起てた右手をぺちんと叩く。
「あんたは私の荷物持ちよ」
「はいはい」
笑みを見せた。その笑顔が眩しくて。リノアはいつの間にか向かい合っていた距離を開け、ラオレルに背中を向けて頭までお湯に潜った。
ラオレルはのぼせたのか、リノアを見てなのか話している間顔がとても赤かったのはこの時は置いておく。
それから一時間後全裸でバスタオルをかけた、ふやけているリノアを抱えてラオレルは廊下を歩いていた。
リノアの長髪は風になびいてなんだか良い匂いがするのは、気のせいだ。多分。
目がぐるぐると渦巻いているリノアはそのままベッドに一緒にダイブしたくなるけど、まぁ一緒の家に住んでいて義兄妹だけど。
寝る前に本心かどうか知らないけど、好きって言われてるけどそんなところはどう考えているのかな。
…そう考えると何となく、何となくリア充っぽい。