1.被害者、故に爆破技師
仕事。
仕事。
仕事って。
社会に出てから5年間、ずっっっっとそれ。
生きてくためにお金は必要だし。そのための手段の仕事の筈なのにそれが人生になりかけてる。
労働の対価ってよりは、時間を浪費して稼いでる感じ。
やりたいことも趣味も山ほどあるけど。お金ってよりは時間が無いし。
まぁ、最近になってようやく車を買って……まぁそのせいでお金も無いんだけど。
こどもおじさんのくせして、時間も金も無いって……一人暮らしなんてしたら、死んじまうよ。
「あーあ……つまんね……つまんね。異世界にでも行きてぇわ」って、ずっと考えてる。中学生くらいから。
まぁ、現実。そんな甘い話無いし、僕というこの縛りからは逃げられない。
因みに、今僕が座り込んで黄昏れているのは、少しだけ有名な岬だ。
家の近くに象鼻ケ岬ってのがあって……あぁ、文字通り象の鼻みたいに曲がってるかそういう名前なんだけど。
家から十五分くらい? 運動がてらほぼ毎日歩いて行ってて……その先端にある灯台の下で、石を投げながら、ちょっと大きめの声で呟いてる。
そんなルーティーン。
夕勤帰りの真夜中で誰もいないし、別の日だとたまに歌ったりもする。
周りに家も無いし、いいかなってね。
「寂しいわ…………さみし」
小さい声は、暗い海に吸われて流されていく。
波の音が心地良いかって言われれば、そうでもない。
そんな、詩人みたく心も豊かじゃないし。
最近、お城だの山だの滝だのに行ってるけど、結局何も思わないし……滝見た時なんて、マイナスイオンウメーウメ―しか言ってない。
感性磨きたい……でも、磨けるもんなの? 天性の才能じゃない? ……どうなの? マジで。
てのが最近の悩みです。ある意味では幸せなのかもね。
「……はぁ、帰ろ」
風も生暖かいし。運動後に全然涼しくないし。身体中汗でシャツ引っ付いて気持ち悪いし。
さっさと帰って早く寝よう。寝るのが一番! 寝てる時が一番―――!
ドンッ‼‼‼‼‼‼‼ バンッ‼‼‼‼ パチッ。ドーーーーー―ン‼‼‼
立ち上がった時だ。
視界の端で、燃え盛る火炎と黒煙が。空気が形造る程の衝撃波と共に爆音が。僕の髪を、顔を照らし撫でながら通り過ぎていく。
砂浜だし、花火が一袋丸々爆発したのかしら。
「まぁ綺麗」
とか、言ってる場合じゃないよね。うーん。
肌は熱い筈なのに、冷汗が止まらない。
あそこの隣の道、帰り道なんだけど。
しかも一本道で避けようがないんだけど。
……まだ、燃えてるんだけど。
幻覚だと思いたいんだけど、いくら目を擦っても消えないんだよね。
まぁ、いいや……警察来る前に帰ろ。
通報しようにも携帯もってないし。いいでしょ。
帰り道をトコトコ歩き、砂浜の側を通る時に横目でチラッと見て、見ぬふりをしつつ。家を目前に捉えた所まで歩いて来た。
いつも通り人っ子一人見えなかったし、警察が来る気配も、消防車も救急車も来る気配はなかった。
やっぱ……気のせいだよね。
あんな爆音と煙で呼ばないはずないし。
呼ばない奴がいたとしたら人間じゃねぇよ。
何もないならラッキーラッキー。
………………はぁ。なんもラッキーじゃねぇか。
仮に何も起きて無かったとして、マイナスがゼロに戻っただけだし。
ずっとそんな人生だし。
今更―――
「おーーーーーーーい! そこの君ぃ!」
砂浜の方向を懐かしく、目を細めて敬礼していると、そんな声が遠くから聞こえてくる。
僕じゃないよなぁとは思いつつ、目を細めたままギコギコと首を動かして、暗闇を目つめる。
すると、もじゃもじゃ髪で黒焦げの何かが、手を大きく振りながら走っているのが見えた。けど、関係無いし、なんか嫌な予感するし、逃げよ。
ステップを踏み、家へと続く細道へ入ろうとしたその瞬間。
「待ってくれよぉ!」
と再度大きい声が聞こえ、直後。
僕の肩が思い切り掴まれ、動こうにも動けなくなる。
痛い痛い痛い―――
「いてぇよ!!」
浮いたままの足を戻し、振り返りながら肩を掴む手を振り払う。
「さぁ君。これを頼むよ―――じゃ!」
くろモジャは、なんか分からんカチカチと音の鳴るリュックサックを僕に押し付けてきた。そしてあろうことか立ち去ろうとしたので―――
「ちょっと待てぇい!」
リュックサックに引っかかったくろモジャの腕をおもいっきし引っ張る。
「お、おいおい青年よ。この腕を離してくれないか」
「何でだよ」
小さな街灯にくろモジャの顔が照らされ、真っ青なのが確認できた。
くろモジャが真っ青ってややこしいけど、言葉の通り。余計に離したくないよねぇ!
しかもめっちゃあたふたして口パクパクさせてるし! おめぇ―――
「爆弾魔だな!」
「ギクゥ!」
あれ! こいつ、ギクゥ! って言ったじゃん! 感情が口に出るタイプジャン! 分かりやす!
「この中身、ぜってぇ爆弾だなぁ! あぁ⁉」
「ギギギクゥ! ……ち、違うよ。青年……な、なななな何を言っているんだい」
この期に及んで、おめぇが何言ってんだよ!
「このくろモジャが!」
「く、くろモジャ⁉」
あ。やべ。
「とにかく、これは持って帰れ!」
「いやだ! いやだ! 持って帰りたくなーい!」
「何でだ! お前のだろ!」
「だって、スイッチ入れちゃったんだもん!」
はぁ⁉ なにかわい子ぶってやべぇ暴露してんだこのもじゃ!
「分かった! 海に捨てるから! とりあえず離せ!」
「やーだ! やーだ! 力作だもん! 絶対やーだ!」
「じゃぁ持って帰れや! 巻き込まれて殺される身にもなれや!」
「やーだ! 離さない! もう起爆するし―――」
「あ⁉」
「一緒に死ねや‼‼」
コイツ、最後の最後で―――これが本性か!
「嫌だぁ! 誰か助け―――」
カチッ――ドンッ
「――で、死んだ。と……実に不憫だ。下瀬 電」
「本当に不憫ですね」
「………………えぇ」
何を見せられたんだ……。自分の死に際なんて見たくねぇよ……顔と声、キモかったなぁ。
てか、ここどこだよ。
「……同情するなら、もう一機ください」
やけにピカピカして眩しいし。
なんか変な奴らに見下ろされて不快だし。
目、覚ましたら四つん這いで、ふわふわな綿あめの上で這いつくばってたんだけど。一口齧ったら甘すぎて知覚過敏に響き渡ったもん。
顔を上げ、声のした方を見つめる。
なに、あのコスプレ……露出多すぎだろ。あ、真ん中で鎮座してる男の、ね。
左右の女の子たちはキラキラした服を重ね着してて露出は少ない。あ、真ん中の変態と比べれば、ね。どのみち露出魔だよ。
なんかなぁ……。今まで生きてきて、ここまでがっかりしたことは無い。
こういう場合の女の子ってもっともーっと薄着なんじゃないの? 壁画の天使ってほぼ全裸じゃん。
結局目のやり場に困るのは変わらないんだけど、ね。
「まぁ、なんだ…………同情してやりたい気持ちはあるんだが―――」
「だがってなんだよ! 同情しろよ! てかここどこだよ! 僕は死んだんか⁉」
「まぁ、まぁ。落ち着け―――」
「落ち着けるかぁ! 自分がゼロ距離爆破で吹き飛ぶとこ見せられたんだぞ! なにが―――」
「うるさい」
透き通るような声の後、首の後ろに激痛が走る。
え? こんな猫みたいな黙らされ方ある? もっと幻想的な武器とかでやれよ。
でも少し。美人に触られて嬉しっ!
「……何でお前は顔を緩めているんだ…………気持ち悪い顔だな、おい」
「はい、本当ですね」
「おい! 小声でも聞こえてんだからな!」
「うるさい」
「はいっ」
マジで痛い。首はデリケートな場所だぞ! 皆は大事にしろよなっ!
「で、さっそく本題に入るが……お前は先見たように、現世で死んだ」
こういう時ってどういう反応が正解なの? 案外、平然としてるもんだね。だって、今生きてる感じするし……あ、実感ないだけか! さっき吹き飛んだの見たし!
「そして! お前には!」
男は立ち上がり、俺と、そして―――
「そこの天使と一緒に、異世界に行ってもらう!」
「「はぁ⁉」」
驚きと同時に首が軽くなり、口内に綿あめが流れ込んで来る。
顔を引きずって上げると、さっきまで僕の首を掴んでいた天使が、変態男に詰め寄っていた。
「どうして私があんな、幸の薄い男と――」
「あのなぁ。幸が薄くて、顔も声もキモくても――」
「でも、だって…………あんな―――」
「おおおおおおおいい! もういいだろ! お兄さんは酷く傷つきました!」
「「……………………」」
「……もういい! 一人でいいもん! 行ってやらぁ!」
自暴自棄になって服を破こうと力を入れていると――
「まぁ、いいじゃないですかクロイさん。行ってあげれば」
「え?」
クロイと呼ばれた女の子は、もう一人の優しそうな女の子の方を呆然と見つめる。
そして――ごにょごにょと何かを耳打ちし始める。
一方の僕は、服がピリッと悲鳴を上げた所で全てを諦めた。服って意外と破けないんだね。
全力脱力放心状態でその様子を下目に見ていると、直ぐに女の子同士は距離を取っていた。クロイは怪訝な横顔だが、もう一人の方はニッコニコだ。
「それに、可愛い顔してるじゃないですか」
「えぇ?」
ドキン! と心臓が大きく跳ねた。 あれ……恋、しちゃった。
恋すると心臓がキュゥってなるよね……あ、女の子がよくする嘘の笑顔を向けられてるからか。苦しいだけだった。
引きつってるのバレてるぞーって。男、舐めんなぁ……。
「まぁ、そういう訳だから……よろしく頼めるな」
「………………………………………………………………はい」
「どんだけ嫌なんだよ」
「ん」
ギロッ。と睨まれる。
おーこわ。
僕のがデカいんだから、怖くないよーって。
むしろ可愛いまである。
「ま、言質は取ったってことで――」
パチッと男が指を鳴らすと、僕とクロイはそれぞれ、淡い光の柱で包み込まれる。
クロイは平然としているが、冗談じゃない。
なんせめっちゃくちゃに痛いからね!
「あぁ、そうだ――言い忘れていたが」
「おい! 送るなら早くしてぇ!」
何の焦らしプレイだよ!
今更言う事なんてないだろ!
「結構痛いぞ。肉体は転生できないからな、一度焼滅してもらうからー!」
「……はあっ?」
痛すぎて上手く呼吸できないってか――
「首から下どこ行ったぁ!」
上手く喋れない訳だよ! ひゅーひゅーって音鳴ってるからね!
「体は綺麗な光の粉になって焼滅! お前の魂だけを、その世界の住人に移すからな!」
「――――――」
喋れねぇ!
「ちょーどいいのがいたんでな! 『ごんだたけし』って名前のドワーフだ! 今よりは見た目が良くなるかもなぁ!」
ど、どどどドワーフ⁉ しかもめっちゃ和名!
異世界間をもっと頂戴よ!
てかふざけんな! 勝手に決めるな! このまま送れないなら殺してくれ!
「起きた時に驚くなよー。んじゃぁなー」
最後、すげぇテキトー……じゃん―――
――――――――――――。
「―――し! ―――けし!」
「いっ―――にが」
「―――うに―――つが!」
ざわ、ざわと。うるさーい……雑踏だ。
目を開かなきゃ、とは思うんだけど。めんどくさーい。
「あと、30分だけ――」
「ほら、起きろ化け物」
聞き覚えのあるつんけん声と共に、鋭い痛みが頬を襲う。
「おい! 蹴りやがっ―――」
「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」
跳ね起き、周りを見て、声が詰まってしまう。
なんだ……この、緑の化け物たちは……。
「ほら、さっさと目的達成して帰るわよ」
首の後ろがギュゥって締め付けられる。
「っまた猫みたいな掴み方しやがって―――てか、お前でっけくね⁉」
てか、顔近くね? めっちゃいい匂い!
「あなたが小さいのよ……あと、その不快な顔の面影は変わっていないのね」
「あぁ、そっか…………えっと、なんで? 何で小さいんだっけ。あと、不快やめて?」
「はぁ……もう忘れたの? あなた今、ドワーフなのよ」
ほらっ、とクロイが手渡してきた手鏡をひっくり返して―――
「うぎゃああぁあぁあぁあぁぁぁぁぁああああ」
なんじゃ今の下膨れ鼻でか目細髪無し草団子は‼‼‼‼
「嘘だっ!」
ポイっと。つい投げた手鏡を、視界の外から跳ね上がったドワーフが掴み取る。
そして真ん丸目玉と目が合い。
「よかったな、ごんだ! この人間が助けてくれてよぉ!」
「は?」
そのドワーフが視界から消え、別のドワーフが―――それを何回も何回も――
「あの爆破、お前がやったんだろ⁉ 何したんだよ! すげぇな!」
……知らねぇよ。僕の前で二度と爆破って言うな。
「ごんださんはやっぱすげぇや! 地獄から自力で這い上がってくるんだもんな!」
……地獄て。周りからそう思われるようなことしてたのかよ。
「いやぁ、やっぱり俺の息子だけあるな! 爆破技師の才が溢れて止まらんようだ!」
……え⁉ オヤジか今の⁉ てか何だその物騒な職業は! ぜってぇ死んでも爆弾なんか使わんぞ! あ、もう死んでたわ。
「よかったわぁ、たけしちゃんが無事で……あんたが死んだら、私たちも爆発しちゃうかもしれないわ――あ、そうそう。今日はたけしちゃんの好きな爆弾岩の丸焼きよ―――あ、あとねたけしちゃん―――」
「はよ落ちんかああぁぁあい!」
母ちゃん重力無視か!
「はぁ。はぁ……はぁ」
ようやく静かになった……なんだこのせわしない種族は……。
というか、このジメジメして暑くて薄暗い場所は何だ? 居心地が悪すぎる……。
それはクロイとて同じなようで、辺りをキョロキョロと見渡していた。
「ここは―――」
「ここはドワーフの村……お前達人間に迫害された俺たちドワーフの……いや、いわゆる地下世界の村だ」
不思議そうに辺りを見渡すクロイに対して、そんな厳しい声が打ち放たれる。
ドワーフ達は体を横に。クロイとその声の間に道を作った。
奥から現れたのは、ヨボヨボでくたびれた服を身に纏ったジジイドワーフだった。
まさしく村長って感じの、威厳ある感じで―――
「あら、お義父さん。また出てきたんですか? ダメでしょ、寝ていなきゃ!」
ごんだ母とジジイドワーフは群衆の奥へと消えていく。
「………………すまないなぁ。少々、認知が入っていて。時たま自分を村の案内人と思い込むことがあるんだ……過去、村の外で何があったのやら」
「何で、村の案内人……?」
「それは知らんよ……それに、生前もよく言っていた。『わしの職業は案内人じゃ! 勇者にはわしが必要なんじゃ!』ってね」
「はぁ……」
……………………。
……………………。
少し続く無言の時間。
じゃあ認知関係ねぇじゃん。とか、優しくしたれよとか思っていると――
「あなたも何か言ってよ!」
と耳打ちしてきた。
顔近い。髪くすぐったい。サイコー。
「……知らんよ」
「知らんって、あなたね……」
理性を保ちつつ、そう答える。
天使の癖に人付き合いは苦手らしい。
……まぁ、友達とか少なそうだし。
「あなた今、失礼なこと考えているでしょ」
「――まぁ、まぁ。とにかく。続きは家で話しましょうや」
ごんだの親父がクロイの後ろに回り込み、かと思えばクロエが千鳥足で前に進み始める。
クロイの脚をスベスベしながら押す、ごんだの親父が目に入る。
きめぇな……なんか見てて不快だけど、視界が動かせない。
首の後ろギュゥってされると、こうなるんだよね。
クロイもクロイで、自分で歩けばいいのに。
ゆっくりと進む中。その時間が暇で暇で仕方なく。首を掴まれた猫の格好のまま、ごんだの親父の方をジーっと見ていると。
不意に目が合い―――
「おいごんだ! いつまでも美少女といちゃついとらんで、はよぉ手伝わんかい!」
いやいや、おやじさん。2人がお似合いだからって。やめてよ。殺されちゃう。
「いちゃついて―」
「うぉ!」
ね? 言ったじゃん。
ぐるん。
景色が一周し、ごつごつした岩肌の天井が映り込む。
「なーーーーーい‼‼‼」
その後ジェットコースターのような浮遊感。
ぐるぐると回転する視界と思考。
あぁ、この感覚――。
この後は決まって。
ドン! グシャ!
「ぐへぇぁあ」
「「ギャァァァァ!」」
鈍痛の直後、緑の化け物が視界を埋め尽くし、悲鳴を上げてしまう。
直ぐに起き上がり、対峙する。
よく見ると、さっきの案内ジジイだ。
「貴様! ごんだ! わしを殺す気かぁ!」
「知るかぁ! んなことアイツに言えよ!」
てか、そんな大声出せたのかよ。元気満々じゃん。よかったね!
「何を騒いで――ってあら、ごんだ。今日もダイナミックな帰宅ねー。一度くらい、普通に扉を開けて入って来て欲しいわ」
あらあら、困った子ねぇ。って言いながら、ごんだ母は吹き飛んだ扉を持ち上げる。
扉が吹き飛ぶのが毎度のことなのか……。どんな奴だったんだよ、ごんだたけし……。
奇しくもその再現をしてしまったわけか。
「ただいまぁ! お母さん!」
「……低い家ね」
コイツのせいでなぁ!
「おい! 馬鹿力天使!」
「何よ」
キッと睨まれて声も出ない。
ぺこり。「ごめんなさい」
とりあえず謝っておく。
「……何で謝るのよ」
「いや、だって怖いし」
「失礼ね、あなた…………見た目通り」
おめぇのが失礼だろ……ま、自分の体じゃないからいいけど。
「おい、ごんだ」
そんなやり取りをしていると、後ろから怯えた様な声をかけられる。
振り返ると、ドワーフ3人。ごんだ一家が一塊に、プルプルと震えていた。
そこに先程までの様な元気な姿はない。
「その、人は。天使なのか? 人間じゃなく?」
「あ、うん。そいでコイツの名前はクロ――ウグゥ」
す、スリーパーホールド⁉ ほ、細い腕してなんて力だ‼‼
こ、呼吸ができないぃぃいい。
「失礼ね、私は人間よ」
「で、でもお父さん? よく見たらやけに煌びやかな服を着ていないかしら?」
「お、おう。確かにそうだ……この村に来るお偉いさんの人間よりよっぽど高価に見える……なぁ、親父」
「こ、ここはドワーフの――うん、めっちゃ高そう」
普通に喋れよ案内人。
「あのねぇ、こんな布っ切れが高価に見えるなんて、よっぽど貧相なのね……いいわ、ここで脱いであげる」
「「「えぇ⁉」」」
「バカッ!」
男3人最高潮で大興奮の中、僕の視界の先で、顔中真っ赤のごんだ母が2人をシバイていた。
つい声も出ちゃうよね。今ので肺の空気吐き切ったわ。
「そしたら、背中に羽が無いのも見えて満足でしょう? 天使には羽がつきものだものね? じゃぁ――」
「いいわよ人間さん! 信じてあげるから脱がないで! 高血圧でお義父さんが死んじゃうわ!」
「あら、そう」
絶対脱ぐ気なかったよね。弄ぶなよ、男の純情を!
「ねぇ、私が天使って言わないでよ」
耳元で何か囁かれたが、それを聞き取る程の余裕はない。
だから、コクンと適当に頷く。
もっとも、丸い顎に二重顎作るくらいしか動かせなかったけど。どうやら伝わったらしい。
そこまでやり取りしてようやく解放された。
「だああぁああぁぁぁぁあああぁぁぁあ! 殺す気かぁアあぁぁ!」
「何を興奮しているの? まさか――」
「ちゃうわぁあ! 誰がお前の裸なんか見たいもんか!」
「ふんっ、当り前よ。あなたに見せる程安くないしね」
「っくぅ」
めっちゃ見てぇけどね! 悔しいよ、俺…………。歯がキリキリ鳴ってるよ。割れちゃいそう。
「ほら、2人共! いつまでそうやって――鼻血なんか流しているんじゃないわよ!」
「「っで!」」
と、まぁ。そんなこんなでようやく落ち着けたのが20分後って所か。
丸テーブルを囲って、僕とクロイ、ごんだ父母が座っている。
それにさっきから背中に視線を感じて仕方ない。
「…………ねぇ。何、これ」
「あら、ごんだの大好物じゃない……あ、もしかして!」
グイっと緑の化け物が――ごんだの母が、額に手を当ててくる。
「爆発で記憶でも飛んじゃったの?」
「いや、違くて―」
その手を避けると、ごんだ母は寂しそうに身を引いた。
そんな事より、だ。
目の前に置かれている、丁寧にお皿に盛りつけられた……これは――
「岩じゃない。どうやって食べろっていうの? というか、食べ物なの?」
「あぁ、うめぇぞー? これがこの村名物の爆弾岩の丸焼きってやつだ! 人間社会でも人気って聞いたが……違うのか?」
「えぇ……こんなの只の岩じゃない」
コイツ、マジで遠慮とか無いよな。ズカズカとモノ言える女。カッケぇね。まぁ、でも。
「あの顔見てモノ言えよお前!」
「はぁ?」
クロイの脚を叩き、囁くと、また睨まれる。
でも、しゃあねぇよ! 見てよあの2人の顔! 滅茶苦茶落ち込んでるよ⁉ 絶対高価な食べ物なんだって!
「じゃぁ、食べてみせてよ」
「え?」
「お手本、見せてもらえる? 私、食べ方が分からないのよ」
煽るような表情と声。
ぐぬぬぬぬ…………。
真っ黒なこぶし大の塊を見つめること数秒。
ぺこり。「ごめんなさい」
「えぇ⁉ 食べないの⁉ せっかく朝一のぷりぷり爆弾岩なのに!」
「……ははは」
何? 朝一ぷりぷりの爆弾って……これに鮮度とかあるの?
「――ま、いいわよ……だってたけしちゃん、これからその女性と夢のランデヴー――いえ、最恋のヴォヤージュ――いえいえ、深愛の――」
キランッ。
気がつくと、横に居たはずのクロイが居なくなっていた。
頬を染め、両手をあてがっているごんだ母の背後に回り込み、短剣を喉元に――。
「ぎゃきゃあぁぁあぁぁああああ」
「君‼ 何をするんだ!」
「何じゃ! 何が――」
「ややこしいから親父は寝ててくれ!」
「はい――」
スーっと扉が閉まる。
見てて心が痛いよおじいちゃん。二度と顔を出さないおくれ。
「――いいわね? 分かったら――二度と気持ちの悪いことを言わないで」
儚げな扉に夢中で前半部分を聞き逃したが、どうやら解決したようだ。クロイはごんだ母の喉元から短剣を離して、僕の隣に戻ってきた。
「ねぇ、何を話してたの?」
「別に?」
「マジで?」
「えぇ、マジよ」
「絶対噓だよね?」
「うるさいわね」
ぺこり。「ごめんなさい」
でもさ。ごんだ母の顔、蒼白なんだけど。元々緑だったよね? 誰か色素抜いた? 絶対クソ怖なこと囁いただろ。
「ま、ままっま、まままままま、まぁいいいいわ――あ、そうだ! たけし、これを持って行きなさい!」
最大限距離を取ったごんだ母からの剛速球を何とか受け止める。
それは小さな巾着袋で、不思議と温かかった。
「職業カードとか、いろいろ入っているから――さ、さぁ早く行ってらっしゃい」
「身体には気を付けろよ、たけし」
「うす」
僕とクロイは、腫れものに触れるみたいに、慎重に家を追い出された。
……何言ったらこうなるの? ごんだたけし……ごめんな。
帰る家、多分なくなったわ。




