「皇帝との会談」
「もし、国家のために、そして社会のために、役に立ちたいというのならば
国家に忠誠を誓わないでください!
社会のために命を捨てないでください!
ただその代わり、
貴方方の大切な人を!
隣人を!
家族を!
いかに愛し、
その者達のために何ができるかを考えてください!
それは敵への”最大の攻撃”となり”和平”となります!
真の世界平和へと導くことになります!
私が言いたいのは、
どんな平和も、共存も、繁栄も、
私達自身の幸福なしでは成し遂げられないということです!」
―ジョン・ロード―
翌日
「やあ、おはよ、よく眠れた?」
「誰かさんのせいで全く……」
「ふむ? 俺、何かしたかな?」
「で、誰なんです? 昨日言ってた奴って」
「あ〜、うん、歩きながら話そう」
「どこに向かうんですか?」
「あっち」
「廃墟?」
「コクリ」
「どうしてあんなとこー」
「いいからついてきて」
「……はい」
「さてと、では話すか」
「はい」
「コンスタント大学、君はそこを目指すわけだ。
このコンスタントという名前に心当たりは?」
「全く」
「そっか……え? 本当に?」
「聞いたことないです」
「待て待て、ロードさんはまだしも、コンスタント帝でさえ知らないなんて」
「じゃ、じゃあ質問を変えよう。
教会に行ったことはある? 流石に風習としてあるだろ?」
「あ、それならあります。
あ〜……確か主アーバンがどうたらこうたらみたいな」
「そう、それ、あの長ったらしいやつね」
「それがどうしたんですか?」
「あれの、旧版の最後でアーバンが皇帝に神命を託す場面があるだろ?」
「ああ、その者赤き衣を纏いて……」
「それは漫画だ」
「で、その最後に受け継がれるのがコンスタント皇帝なわけ」
「へぇー」
「……イマイチピンときてないね」
「だってつまんないんですもん、教義なんて。
それに新の方は義務じゃないから殆ど読んでないし」
「まあね、昔は読まれてたらしいけど、今は色々あって新版は読まれにくくなった」
「でだ、聞いて驚くな?
そのコンスタント帝が今から会いに行く人物だ!」
「なるほど」
「君、ほんとにこういうの興味ないんだね」
「自分に関係ないことですし、それに、コンスタント皇帝ってことは今は退位してるんでしょ?
……ん? 待ってください、どうしてそもそも生きてるんですか? 銀河連邦って設立から結構経ってますよね?」
「そうだね」
「そもそも、アベルさんってロードカンパニーの二代目らしいですけど、社長室に代35代って……」
「ついたよ」
「……これは、大きな廃城……?」
「うん、進むよ」
——————
「気をつけてね、段差多いから踏み外さないように」
「長……」
「ケーン君、どうしてここに来たか分かるかい?」
「いや―」
「すぐに投げ出すな、考えろ」
「うっ、……確か、アベルさんはコンスタント(?)が道を踏み外したものと言ってました。
だから、僕に教訓として見せるため?」
「平凡すぎ、10点」
「じゃあなんなんですか? 何も参考材料ないじゃないですか」
「深く考えろ、コンスタントは道を踏み外した。
そしてそれは教訓として見るべきものだ。
それは分かるだろ?
でだ、じゃあ僕は何故、コンスタントについてそこまで話したがらないのだと思う?
普通、誰かを手本にしてこれはいけないとか指導するならば、それについて前知識がないとダメだろ?」
「……確かに……でも、アベルさんがそんなやり方する人とは思えない……」
「そう、俺はね、コンスタントを完全に否定するつもりはない。
でも、肯定するつもりもないし、したくない。
ただ、歴史を作った人物の生き様を知ってもらいたいんだ。
ケーン君、この知るはただの知るじゃないよ」
「……偉人を知る……」
「そう、知るんだ、ケーン君、君の正しい心でね」
「正しい、心?」
「意味がわからなくても、これを心に留めておいてくれ。
いずれ、分かる時が来るから」
「意味……分かりました」
「それと、一つ朗報がある」
「朗報? 何です?」
「コンスタントは女性だ」
「え」
「ついたね」
扉が目の前にあった。
アベルは何をしたかはよく分からないが、
たぶん、手をかざしただけだと思う。
そしたら扉が開いた。
「さて……」
「”切断”」
「!?」
アベルがそう言った瞬間、突風が大きく靡いた。
何か光る点を中心にして、
その点は膨張し、大きな円形になったところで、
卵が割れるかのように中から人が現れた。
「…………」
“それ”は見たところ、若い女性だった。
20代くらいだろうか?
とてもじゃないが、偉人というよりかは、
美人な女優に近い、そんな見た目だった。
「アベルさん? 彼女は?―」
「久しぶりですね、コンスタント様」
「……アベル、ですか?
見違えました……随分と穏やかになったものですね」
「ロードさんのお陰だ」
「私は彼に関していい印象を抱いていません。
彼の行動は大袈裟な偽善に偏っていました。
それに……彼はグロースだ」
「……グロース、まだ都市部以外の人間を差別するんですか?」
「差別ではありません、区別です。
グロースとアーバンの階級で分けるのは、
この広大な銀河を治める上で障害を避けるため。
彼のようにグロースが力を持つような近代の世の中はいずれ文明の崩壊をもたらすでしょう。
勿論、貴方のような者も例外ではありません」
「僕を恨んでます?」
「…………」
「……ええ、恨んでますよ。
ただ、逆に、必要であったと思ってもいます。
貴方が私を倒さなければ銀河帝国にあった問題は解決しなかった……しかし、それだけではない。
……何故でしょうか。
貴方に恨みのようなものがありません」
「恨みがない?」
「ええ……私はどうやら貴方を気に入っているようです」
「私を倒そうとした人間は600年間で何百人といましたが、貴方はその中で特別な人物です。
ラプラス以来というべきでしょうか……」
「……話がそびれましたね。
して、アベル、何の用ですか?
私は廃人にはなってませんよ」
「コンスタント様、接続術式を一部使えるようにしたい。
勿論、貴方を殺そうというわけではない、だから一部です」
「……何故?」
「”アレ”です」
「なるほど……遂にですか。
いいでしょう、私の権能で一部を解除しましょう」
「助かります。しかし、随分と素直ですね。
新しいやり方は嫌いだったはずでしょう?」
「……”アレ”は私の計画です。
どんなに変化しようとも、それが望む結果に収束するならば、
……受け入れますよ」
コンスタントは自身の右手をアベルの前に差し出した。
アベルはその手に口づけをする。
従者がその主にやるあの儀式だ。
ただ、それはただの儀式ではなく、何かが変わったような、そんな気がする。
「確かに、承りましたよ」
「コンスタント様、他にしてほしいことはありますか?
本とかは?」
「まだ、読んでる本が山程あります。
貴方が私に会いたくないからと前に何千もの本を法域に入れ込んだのを忘れたのですか?」
「今は、思ってませんよ。
だから聞いたんです」
「本当に、変わりましたね……」
「…………思い出した」
「ん? そういえばその男は誰ですか?」
「ああ、こいつはケーン、僕の弟子で―」
「…………コンスタント、俺はお前が気に食わない」
「ええ、私が嫌われていることは自覚しています」
「ただ、気に食わないんじゃない。
気に食わないだけだったらどんなに良かったことか。
コンスタント、イーストストリートの飢饉にお前の支持者の残党が絡んでいた、そのことを知ってるか?」
「いえ、知りません。それで、私に八つ当たりを?」
「八つ当たり? その飢饉はどれだけ残酷だったか、
分かってるのか!」
「分かります、飢饉の残酷さは。しかし、その残党は私が絡んでいるものではありません。
ただの私の名を借りただけの悪党、それだけです」
「……っ!」
「お前は、知らないのか。それからだ、それから俺の人生は狂ったんだ!」
「……アベル、何故彼のような者を連れてきたんですか?」
「コンスタント様、逆に聞きますが、貴方は民の声に一度でも耳を傾けたことが?」
「……ありますよ、私は民のために……」
「とりあえず、ケーン君、落ち着いて」
「アベルさん! どうして、こんな奴と平気で話せるんですか!
さっきから聞いても、こいつは人のことなんてこれっぽっちも考えてないじゃないですか!
ただ、機械みたいに話すだけだ!」
「それは否定できないね。ただね、ケーン君、そのことをただ撒き散らすことで君の喪失は戻るのかい?」
「そ、喪失……それは……」
「そういうことだ、ケーン君、怒るなってわけじゃない。
ただね、君にはその悪党どもと同類にはなってほしくないんだ。
人のことを考えないような、そんな人間にはね」
「……分かりました」
「コンスタント様」
「話は済みましたか?」
「……済みましたよ」
「……アベル、言っておきたいことがあります。
私は間違いを犯しました。
確かに愚かで無駄な犠牲を払うような人間でした。
しかし、私のしてきたこと、
それを後悔することは絶対にありません。
全てが必要だったと信じているからです。
貴方なら……この意味が分かりますね?」
「……ええ、分かります」
「それならよろしいです。
では、閉じなさい」
「……”接合”」
すると、あの女は消えていった、光が収束するかのように。
「……アベルさん、なんで会わせたんですか?
あの女みたいに”必要だったから”なんて言いませんよね?」
「言わないさ」
「……アベルさん、仕組んだんでしょ?」
「……」
「……アベルさん、貴方の言うことは分かります」
「うん」
「ただ、僕は貴方みたいなことはしません。
嫌いだからです」
「……そっか」
「ケーン君、君には悪いことをしたよ。
ただね、彼女もかつては人のことを本気で救おうとしていた者の一人なんだ。
ただ、あのようなことを言ってしまうようになったけれど」
「結局、そういう人間だったんでしょ」
「いや、彼女は理想に殉ずる前に、皇帝という存在だったんだよ」
「……よく分かりません」
「君には、分かってほしい、でもまだ早いかな」
「ケーン君、君の言うとおりね。
人は人種や階級で決められるものじゃない。
皆平等で自由があり、
どんな人間にも”必要不可欠な価値”がある。
そのことは、忘れないでね」
「忘れませんよ、忘れるもんか」
「だといいけれど」
「ケーン君、自分を示したいなら行動しなきゃね」
「……」
「勉強」
「あ……」
「今日から始めよっか」
「……今日ですか?」
「今日だ」
「ひっ……」
「ふふ、いつものケーン君だね」
「分かりましたよ、やります……僕のためですもん」
「ふふ、その意気だ」
こうして、コンスタントとの会談は終わった。
僕はアベルさんに反抗心というものを始めて抱いたと同時に、
この人も完璧ではないのだと気付かされた。
そんな一日だった。




