プロローグ デモン喰らいの最強おっさん、最果ての地より帰還する
カクヨム・イケオジコン応募作です。(6万字以内の中編コンテスト)
カクヨムの方が1話更新が早いです。
目前に横たわるは巨竜の亡骸。それを屠りしは我が魔剣。魔剣は巨竜から[デモン]の力を吸い上げ妖しく輝き、やがて巨竜の消滅をもって短い食事を終えた。
ちょうど間の悪いところに[デモン]が現れてしまい、客人の歓迎が遅れてしまっていた。
「よう、雁首揃えてこんなところまでどうしたのかぃ?」
背後を振り返ると、少し離れた岩場に豪華なブロンドの女盾槍使いと、若く精悍な両手剣士が立っていた。
「デモンをこうも軽々とぶっ潰しやがって、相変わらずデタラメなセンコーだ……」
彼はタンケルグ・ブウェ。あれから3年ほどが経ったが口の悪さは何も変わっていない。見返すほどに迫力のある仁王のごとき男に育った。
「お久しぶりです、セイウス教官。本日こそ色よいお返事をいただきたく、タンケルグの首に縄を付けてお尋ねいたしました」
彼女はミネルヴァ・ルズィファ。季節が変わるたびに手土産を抱えてこの辺境の地を尋ねてきてくれる。白塗りの大盾と鎧姿が女ながら堂々としていて美しい。彼らは3年前まで俺の教室の生徒だった。
「単刀直入に言うぜ、センコー。テメェへの土産は俺が全部食ったっ、もうねぇっ!!」
「なん、だと……?」
ミネルヴァは甘いブロックチョコレートを毎回1キログラム差し入れてくれていた。それを全て食べたと野蛮な方の弟子が言う。
「食いたきゃ自分で買いに行けよ!! テメェが帰るべき場所、レガリスによぉっ!!」
「セイウス教官、タンケルグは本気です。貴方にお帰りいただくために、大嫌いな激甘チョコを、わたくしの前でペロリとどか食いしてのけました」
「それはまた、壮絶というか……豪快なお前らしいねぃ、タンケルグ」
記憶より少し背が伸びたタンケルグの目の前に立った。力強い信頼の眼差しがこちらを見つめ返した。こんな好男子が俺の教室から生まれただなんて未だに信じられない。不器用ではあるが気持ちの良い男に育ってくれた。
「帰ってきて下さい、教官。貴方の力がアカデミーには必要なのです」
「早くしやがれ、クソセンコー」
「訪ねてきてくれてありがとよ。しかしそうは言うが、世間が許さないんじゃぁないかぃ?」
3年前、うちの教室で大きな不幸があった。シルヴィオと呼ばれるアルトゥリアス王国の第二王子がアカデミーに襲いかかったデモンに敗れ、昏睡状態に陥った。昏睡の原因はデモンに呪いをかけられたためだった。
彼の不幸は突っ走ったシルヴィオ自身のせいであったが、身分が身分だ。スレイヤーアカデミー・レガリス校を守るためには、誰かが[責任]を負わなければならなかった。
「へっ、いつの話をしてんだよ、タコ」
「ええ、こんな西の果てに引きこもっているから朗報一つ届かないのですよ、教官……」
タンケルグは爽やかに笑った。ミネルヴァもまた安らぎに満ちた微笑みでこちらを見た。彼らの中にはもはや少しも『共に成長するはずだった友シルヴィオ王子への心残り』が見て取れなかった。
「まさか……」
「おぅ、あのバカ野郎ならとっくに目を覚ましてる。もう誰も責任なんて取らなくていいんだ」
元生徒の手前、あまり感情的な姿は見せられない。背中を向けて熱い涙を拭い、なんでもない顔で振り返った。
「今は弱った身体を少しずつ動かして、復学の準備をされているそうです。教官、貴方がアカデミーにお帰りになれば、王子殿下のリハビリもさぞやはかどることでしょう」
「男らしくスパッと決めろ、グズグズしてんじゃねぇぞ、センコー!」
2年間、この地でモンスターとデモンを狩り続けたのはシルヴィオを呪った個体を探すためだった。そのデモンの眷族を少しでも減らせば、呪いの維持を放棄するかもしれないという算段もあった。
「そうか、ならば帰る!! もう一度、若い跳ね返りにセンコーと呼ばれるのも悪かぁないねぃ!!」
「ああっ、よかった……。これで元通りですね、セイウス教官……」
「テメェが責任取らなくてもよかったのによ、めんどくせーセンコーだぜ」
タンケルグに乱暴に肩を突かれた。少しの無邪気さの混じる豪快な笑顔がかわいいものだ。無論こちらも同じように肩へとやり返した。それを見てミネルヴァはまた涙ぐみ、目元を擦って化粧を台無しにしてしまった。
「ハハハ、百のデモンを滅ぼした最強のセンコーのお通りだぁ!!」
「調子に乗り過ぎです、タンケルグ!」
「センコー、またあの話をしてくれよ! センコーとセンコーの師匠が旧都レガリスでレコンキスタの軍勢を迎えるまでの、あのバカげた話を久しぶりに聞きてぇ!!」
チョコレートを1キログラムもどか食いしたとなれば気が高ぶってこうもなろう。我らレガリス校の一期生たちとその担当教官は、些細な昔話を語らいながらかつての学び舎への長い帰路についた。




