13
ドドドドン―――――――――ッ!!
宇宙空間の静寂を暴力的に噛み砕く、内臓を直接揺さぶるような極大の重低音が船体を揺らした。
「きゃあああ!?」
「うわああああっ!?」
イカロス翼号の通路で、乗客たちの悲鳴が交錯する。
人工重力制御が一瞬途切れ、天井と床の概念が上下左右に吹き飛んだ。手荷物、合成樹脂のシート、そして『夢の辺境クルーズ! 安心と信頼のイカロス翼トラベル!』と両面に印刷された色鮮やかな観光パンフレットの束が、無重力空間に紙吹雪となって宙を乱舞する。
「ぐ、ああっ……!」
アキラは壁面に強く打ち付けられ、絶叫しながら床を転がった。
衝撃の元凶は、まさにアキラが「致命的な不整合が存在する」と見抜いていたイカロス翼号の左舷(ポート側)――応力集中が限界に達していたキール構造の真横だった。
デンプンと油で固めた安物の壁面装甲が、まるで煎餅のように容易くへしゃげる。
そこへ外側から突き刺さったのは、海賊船エントロピー号の無骨な鋼鉄フレームだった。
ガツン! ガリガリガリガリッ!
凄まじい金属の削れ合う悲鳴が響き渡る。
双方の船体を繋ぐ外壁エアロックとドッキング用ハッチが、逃げ場を失った莫大な運動エネルギーによって、粘土のように押し潰され、歪み、ねじれ合っていく。
厚さ数十ミリのチタン・カーボン合金が、最悪の角度で互いのフレームの隙間に食い込み、折りたたまれ、二度と解けない「金属の知恵の輪」となって固く噛み合わさった。
二隻の欠陥船が、物理的に分離不可能な「一隻の巨大な複合ジャンク船」へと変貌を遂げた瞬間だった。
――ン。
激突の余波が収まりかけたコンマ数秒間、船内に不気味すぎる「完全な静寂」が訪れた。
だが、その静寂はすぐに、冷たい死の気配によって塗り替えられる。
シュウウウウウウ――――――……。
「――ピーッ! ピーッ! 警告。ポート側第3バルクヘッドの構造的完全性が消失。隔壁に剪断破断を検知。気圧低下中!」
けたたましい高音の警告ブザーと赤色灯が、薄暗くなった通路を点滅で染め上げた。
ひしゃげた左舷の壁の亀裂から、船内の空気を凄まじい勢いで外の真空へ吸い出していく「シュー……」という不吉な吸気音が響き始める。
「いたたた……。まあ、船内で花火でしょうか? にぎやかですね」
アキラのすぐ近くで、エリは何事もなかったかのようにすんなりと立ち上がった。
彼女の足元では、三百キロのキノコ台車が床の固定金具をブチブチと引きちぎりながら横転していたが、エリ自身は頭のプラチナブロンドの髪一本乱れていない。美しい体幹が、あらゆる衝撃を逃し切っていた。
「花火なわけ……あるか……ッ!」
アキラは激痛に顔を歪めながらも、倒れた弾みに放り出されそうになった魔改造タブレットを、命綱のように必死で胸元に抱きかかえていた。
起き上がりざま、アキラは血走った目でタブレットの画面を起動する。
『Oasis-CAD』のリアルタイム応力解析モニターが、目まぐるしい速度で数値を再計算していく。
画面に映し出されたイカロス翼号とエントロピー号のワイヤーフレーム。
二隻が合体した「左舷キール接合部」の位置が、見る見るうちに禍々しい暗赤色――【許容限界超過(即時破断領域)】を示す「赤ゲージ」で塗り潰されていった。
(最悪だ……! 左舷バルクヘッドの構造強度が完全にゼロになった! 二隻の重量が最悪の支点で連結されたせいで、イカロス翼号の不整合キールに、設計値の三倍を超える曲げモーメントがかかり続けている……!)
アキラは額から冷や汗を流し、絶望に歯を食いしばった。
「知恵の輪みたいに噛み合いやがった……! 離れられないどころか、このままだと、あと数分でイカロス翼号のキールが根元からへし折れて、両方まとめて宇宙のチリになるぞ!!」
自分たちの船が抱えていた致命的な構造欠陥が、海賊船の突撃によって最悪の形で起爆した。
もし面白かったと思っていただけましたら、下部の【☆☆☆☆☆】から評価や、ブックマーク登録で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!




