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『極限設計の救難船』 〜クビにされた一級技術者、宇宙ヤクザのポンコツ船を理論値限界で駆動する〜  作者: 端野ゼロ


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【Day 1 / 14:00 ―― IHI星間造船総合開発本部・特別査定室】


「――アキラ・トヤマ。君の設計思想は、我が社の新たなコストカット指針に著しく反している」


完璧に温度管理された査定室には、生命の温もりを一切拒絶するような無機質な空調音だけが低く鳴り響いていた。

ガラス窓の向こうには、等間隔に、ミリ単位の狂いもなく並べられた無機質な円筒形コロニー群のシルエットが、漆黒の宇宙空間に浮いている。それらは効率化と規格化を極限まで突き詰めた、現代宇宙工学の『正解』そのものだった。


だが、アキラの耳の奥では、それとは異なる音が鳴り響いていた。


――シュイン。


それは彼の脳内シミュレータが、目の前の設計データの整合性が不連続に破綻した瞬間に鳴らす、不吉なエラー音(幻聴)だった。


「安全マージンを既存の百八十パーセントから百二十パーセントまで削減する……だと?」


アキラは、デスクに分厚い紙の束を叩きつけた。総ページ数、実に二百ページに及ぶ『キール構造接合部における安全率是正報告書』である。

その表紙には、彼が極限までチューニングした数理モデルが美しく印字されていた。


「正気の沙汰じゃない! 設計基準を安全率一・二まで落とせば、キールは特定の外的極限環境において『特異点』を形成する。私のシミュレーションによれば、ポート側の主構造に作用するねじりモーメントは、局所的な重力勾配との干渉によって、ある座標で致命的な破綻を迎える!」


アキラは激昂し、宙に浮かぶホログラフ・ディスプレイを引き寄せ、数式を書きなぐった。

光の文字で描かれたのは、ねじりモーメントと重力勾配の干渉を示す、美しくも恐ろしい方程式だ。


「見てくれ! 特定の重力勾配空間に進入した際、この方程式の分母――重力勾配の閉曲面積分からシステム補正定数を引いた値が、完全に一致する座標が存在する! その瞬間、分母は極限的にゼロへと収束するんだ!」


黄金比で構成された対称極まりないアキラの端正な美貌が、恐怖と絶望によって不格好に歪んだ。

彼が恐れているのは、自分のキャリアの破滅ではない。完璧であるべき数理的論理が、資本の都合という醜い暴力によって強制的に『バグ』へと書き換えられようとしているその歪みに対して、生理的な嫌悪と恐怖を抱いていたのだ。


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