【オマケ】魔術師の花①
初等部の授業を終えると、俺は違うクラスにいるクーシュと合流した。今日は、ある作戦を決行する日だ。
教室から出てきて、こちらに気がついたクーシュはニコリと微笑んだ。俺はただ小さく頷く。
「シュルク兄さん。協力してくれてありがとう。頼りになるね」
「そういうお世辞はいい…兄弟なんだから」
「前世の記憶があっても?」
「関係ない」
その言葉にただ頷く。
クーシュには前世の記憶があるそうだ。その前世で共に生きた想い人を、花を渡すフリをして今生でも探していたと言う。その想い人を見つけた今『特別な花』が必要だと言いだした。それは高等部の敷地内にある花らしい。
俺達は、高等部まで急いだ。早く帰らなければ父上が家庭教師の仕事先から帰ってきてしまい、俺らが帰らないことを心配するから。
ガッ
「うわっ!?」
「!」
後ろで何か音がした瞬間に振り返り、躓いた弟をキャッチする。もう少しで地面に着くところだった…危ない。受け止められて良かった。
「怪我はない?」
「ぁ…ありがとう兄さん。この体…どんくさい…」
そう言って恨めしそうに自分を見つめるクーシュ。その肩に手をポンと置いた。
「大切な体だ。労れ」
「…分かってるさ。でも、どう考えても身体能力を全て兄さんに取られたとしか思えない」
「悪いな。全て貰った。」
「言ってくれるね」
無事を確認してから歩き出すと、後ろから付いてくる足音がする。
そうしてやってきた高等部校舎。
本来なら、僕たちは立ち入り禁止の場所だ。だから俺は、壁に背を向け、両手を前に構えて腰を落とした。
「本当にその方法で越えるの?」
頷くと、俺の正面から少し離れた位置に立つクーシュ。軽く足踏みをして走る体勢を整える。そして、コチラに向かって一生懸命走って来た。これは父上に習った壁を越える為の技だ。クーシュの足が、俺の構えた手に乗った瞬間。思い切り上に押し上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「よし」
問題なく壁を越えたのを見届ける。声を出さなかったのは偉い。弟はなかなか根性がある。俺は近くの木と壁の間に手をついて登った。
「僕も木を登れば良かったんじゃない?」
下からそう聞こえてくる。怖かったのか腰を抜かすクーシュはコチラを見あげた。しかし、弟が木を登るのは難しかっただろう。
「行こう。花を探しに」
「うん」
俺たちは両親とのやり取りで培った、逃げて隠れる能力をフルに活用した。だから学園の裏庭へは楽にたどり着く事が出来た。
俺らを見かけた学生が「可愛い」と見逃してくれたお陰でもあるけど。
「あった…この花だ」
「…見つけられて良かったな。綺麗な花だ」
「自信作だからね。僕はこの花に願ったんだ…『次は婚約者と平穏な生活を送りたい』って。生まれ変わるならそうなれる環境を…と思って見定める役割をこの花に託したんだ。『恋が叶う花だ』って噂を流して。」
「そうか…それで俺達の所に。見る目あるな…この花は」
「自分でそれを言うんだ?」
花を眺めながら頷くと、クーシュも満更でもなさそうに笑いながら言う。
「僕らが生まれた事で『養子にしては似すぎているから、どちらが女性なのだろうけど…』なんて周囲に困惑される両親だよ?」
「結果、みんな『父上が実は女性なのでは?』って疑うんだよな。」
「影で『魔王』とか言われるほど強い母上だからね。そんな魔王を掌で転がす父上なんだけど。」
思い出したのか、楽しそうにクーシュは笑う。俺もクラスメイトに『どちらが母上なんだ?』と聞かれて『秘密』と言ったのを思い出した。
「父上は…手懐けた母上に加え、一声かければすっ飛んで来そうな『優秀な教え子』がゴロゴロいるんだからね。ボクからしたら父上の方が怖い。だけどその分、多くの人の加護がある家だ」
「俺だっている」
「そうだね、騎士として将来有望だけどよく溝に落ちる兄さん」
弟に将来有望と言われて胸がホクホクとした。クーシュは指先で花に触れた。
「婚約者にコレを渡して、もう一度僕と人生を歩んでほしいって言うんだ。この花を見たらきっと、前世を思い出してくれる。」
「クーシュの婚約者に、前世を思い出させる意義はあるのか?今のお前と幸せそうにしているように見える」
「それは…」
今にも摘もうとしていた指先を離してしまうクーシュ。前世の記憶があるクーシュにとって…その思い出を婚約者と共有したいのだろう。その鍵となるのがこの花なのだと説明は貰っていたが…。どうしても気になったのだ。
「お前は今、お前の人生を歩めているか?」
弟は前世の記憶があるせいで心配になる。さっき「この体はどんくさい」と言ったように、どこか他人だと言うような言葉が出るのだ。それは兄として…少し寂しいものがある。転生したとは言え、俺の弟なのだから。母上のお腹にいる頃から何度も話しかけた俺の弟だ。
「僕の人生…か」
花の輪郭に指先で優しく触れ、何か迷っているクーシュ。
「僕は、前世でとても優秀な魔術師だった。だからこそ周囲から期待され、仕事ばかりで…愛する婚約者…妻の元にもなかなか帰れなかった。」
そう語るクーシュの表情は辛そうで、胸のあたりの服をシワになるほど握った。
「蔑ろにされたような気持ちだったのではないかな。辛い事を思い出させてしまうだろうか。記憶を取り戻した瞬間、散々な目に合ったと怒るだろうか」
前世を思い出し、婚約者への罪悪感で頭をいっぱいにしているようだ。
◇ ◇ ◇




