それぞれの願い。
普段からイチャイチャする案を即決した私。
恋人とラブラブと過ごす学園生活は、入学当初に懐いていた夢そのもの。私は緩む頬を両手で押さえた。視線を上げると、クラウは温室の花壇の縁に腰かけて、学園祭名物の星形照明を取り出していた。手のひらサイズのその照明に照らされた彼が柔らかく輝いて見える。
その光は、いつも愛らしい彼の凛々しい姿が、大人びて見せていた。
私も星形照明を取り出して、それを見つめた。
「嬉しくて顔が緩んじゃうな…。私にとって都合が良すぎて夢なんじゃないかと思えてきた。好きな人と婚約できただけでも嬉しいのに…。入学前から恋人のいるラブラブな学園生活に憧れてたから、スッゴク嬉しい。でも、文化祭名物の星形照明に書くことなくなっちゃった…」
「…もしかして我慢させてた?」
ふわふわと浮かれていたら、クラウがそんな私の様子を不思議そうに見ていた。婚約しても、クラウが貴族としての品位と節度を…みたいな事を言っていたから正直に言えば我慢していた。
「色々学ぶことが多くて、会う時間が少なかったのもあるけど…少し我慢した。」
「そーゆーの言ってくれれば良いのに。ボクはこれくらいの距離がリーシュにとってちょうど良いのかな?って…。」
私はそっと首を振った。
照れ隠しに床のタイルを見つめ、彼の肩にそっと寄りかかった。制服の生地越しに伝わる彼の体温が、じんわりと私の心を温める。温室の誰もいないこの空気が自然と私の行動を積極的にしていく。
「こんなに順調に夢が叶ってしまっていいのかな。」
「相手がボクでなければ…もっと早く夢が叶ってたとも思うけど。…こんなに…可愛い、から。」
言ってる途中で照れたように俯くクラウ。
「クラウって、社交的でスキンシップが多い印象だったけど、恥ずかしがりさんだよね。」
私は彼の頬にそっと指を這わせ、柔らかく触れた。クラウはジトッとした目を向けてくる。
「社交的だからあーやって積極的に話しかけたりベタベタスキンシップしてる訳じゃない。」
「そうなの?」
「そーなの。父上は、王家に仕える騎士として立派に役目を果たしてるじゃん?そんな父上が、自分の息子可愛さに騎士をさせない、なんて思われたくなかった。一目見て『騎士には不向きな息子』でありたかった。」
「伯爵様は家族を大切にしているのが滲み出てるからね。『息子可愛さにって』ってのは確かに疑われやすいのかもしれない」
「そー、父上はさ、家族に甘いんだよ。ボクが騎士にならない事も…思えば無理強いはしなかったし。女の子みたいな服を着ても『なかなか似合うな。』とか言ってた。」
「ふふっ、なんだか想像できるよ。」
「でしょー?だから、そんな父上に失望されたと思ってた頃は自分を責めてたし。負い目があった。せめて、父上の立場を悪くしたくなくて、どーしようもなく悪い息子でいたかった。だから、軽くみんなに絡んでさ…ダメ息子として広く認知されようとして…。途中からそれが自然になっちゃったけど。」
私はクラウと出会ったばかりの頃を思い出した。悪い息子?あれが?可愛いものに身を包んだ彼は、女の子のようで確かに騎士として不向きだろうと見える。けど、誰にでも話しかけて世話をやく彼が悪い息子?そう思うと笑いそうになってしまった。
「リーシュ、笑いを堪えてるのがバレバレなんだけどー。」
「ご、ごめん、ふふっ、ぜんぜん悪くなりきれてなくて、ふふっ。可愛くて。」
「もー!」
「でも、ソレがクラウの対話能力を鍛えさせたんだね」
「結果としてそうかも知れない。でも、ソレは…絡んだ結果、相手に嫌われても良いと思ってたからなんだ。どうしょうもない人間と思われるのは一応思惑通りだから」
「そっか。」
嫌われてもいい、という状態で他人に話しかけるのは無敵なのかもしれない。
「今までもその絡み方が嫌がられることはあった。ボクから離れるならそれで良いと思ってた…けど…リーシュが怒った時は凄く怖かった」
「ええ…ごめん。そんなに怖い怒り方してた?」
「違う。リーシュが友達じゃなくなるのが怖かった。離れていくのが」
「そう言えば…泣いてたもんね」
「…ぁー、そーだね。うん。今となると情けない姿だったけど…うん」
笑っていると、そんな私を優しい眼差しで見てくれるクラウに気がついた。
「そんなだからさ、君は、ボクを助けに来た女神か何かなのかな?って、本気で思った事があるんだ。ボクにとってリーシュの存在は都合が良すぎるし。」
「そんな、大げさな。」
「剣の才があって、聖女様に気に入られて、ボクは女の子が好きなのに『男でも好き』と思うほど惚れさせて、ボクとの婚約をあっさり了承して、実は女の子で…これから伯爵家としてボクの代わりに王家に仕えるんだよ?凄腕の詐欺師か、女神なのかのどっちかでしょ?」
そこまでハッキリ言い切るクラウにまた笑ってしまった。
「どちらでもないよ、私はただのド田舎から来た世間知らずだから。」
「えー、急に自分を卑下するじゃん。」
私はクラウの可愛い悪息子っぷりを笑ってしまったから、自分の恥ずかしい過去を話して笑ってもらうのも悪くないと思えた。
「卑下とかじゃないよ。私が男装してた理由って…具体的に話していないよね?」
「…聞いてない。」
クラウが興味津々に瞳を輝かせるのを見ると、なんだか言いたくなくなってくる。なんも格好いい理由ではないから。でも、ちゃんと言うなら今しかない。話す必要があるのかは…疑問だけど、クラウが可愛い服を着ていた理由を知ってしまって、可愛くて笑ってしまったし。
「聖女様の本が流行ってたの覚えてる?同性の恋愛が流行って…。あの時ちょうど王都に来て学園の見学をさせて貰ったんだ。それで…流行りを真に受けて男装したの。」
クラウは一瞬ぽかんとした顔をして、首を傾げた。
「確かに流行ってたけど…男装する流行りなんてあった?」
「…学園の先輩方が同性の恋愛で盛り上がってるの見て『男の子と恋愛するには男になればモテるかな』って。それで…男装したら違和感少なかったのか…誰にも疑われないし、バレないし…わざわざ言うタイミングもなくてズルズルと。」
「そこまで行くと才能だねー。」
しかし、少し笑った後に、なにかを思い出したクラウはパッ!と表情を明るくする。
「1年の肝試しの時!!あの時、リーシュを女の子みたいだって思った、あれだ!…ううん、髪結う時も少し思ってたし。」
うんうんと頷きながら、自分は早い段階で気づいてたぞ!とでも言いたげに笑うクラウ。肝試しの時に気づいてたとしたら、マルーナさんより早いかもしれない。マルーナさんは気付かないふりをしてくれているけど。
「へー、でもそっか。それで男装…ははっ、ホント、リーシュって素直っていうか。」
「バカだったなー、って今でも思う。訓練してムキムキになりたくなかったから王都に送り出されたのに、女だってバレた時『動きやすいから』って言い訳したくて武術選択しちゃうし。」
「うっそ!?それであんな厳しい授業選択したの!?逆に根性あるんだけど。」
「武術の授業が結構楽しかったから。そのままずるずると。」
楽しそうに笑うクラウの表情を見ると、不思議と嫌な気分にはならなかった。自分の恥ずかしい過去も、好きな人が笑ってくれるならいいかと思える。
「ほらね?クラウにそこまで言ってもらえるような人間じゃない。」
「んー?人間味は増した。」
「最初から人間だよ。」
「涼しい顔して色事で頭いっぱいなボクの女神に変わりはないよ?」
「嫌だな…そんな女神。」
「ははっ」
そんな事を話していると、クラウは真剣な眼差しでこちらを見た。
「今までさ、ボクを助けてくれる誰かが現れないかなーとか、軽く考えてた…。」
「うん、私に全部任せて。クラウの役に立てるならいくらでも戦える。」
胸をトンと自信たっぷりに叩く。しかし、そんな私を見て困ったような顔をして首を振る。
「リーシュにはもっと傷付いて欲しくない。」
「…でも。」
「だから、ボクはボクに出来ることを全力でする。伯爵家として父上やリーシュと同じように揺るがない立場を作る。それで、リーシュが仕事嫌だってなったらいつでも辞めていい環境を作る。リーシュが続けたいってなったら別だけど…ほら、狩人は自由が認められた存在だし。」
クラウは苦笑いでそう言った。
「でも、私が伯爵家にいる意味が…」
「ボクの側にいてくれたら良いの。それに…ほら、子の母親として、あるじゃん?色々…。」
言葉が途切れ、頰が再び赤らむ彼。
恥ずかしがりな彼は、私に剣を扱う意外の役割をくれる唯一の人なのだと思う。
◇ ◇ ◇
評価入れて下さった方…本当にありがとうございます。「やっぱりニッチだよね…ごめんね。読んでくれる人たち優しい…」って思いながらリメイク編集してたので今凄く喜んでます。男の娘×女の子の組み合わせ、ニッチだけど好きなんです。




