だったら男装すればいい?
他サイトに投稿中の物語を【全年齢版】に編集・加筆したものです。編集で削る分、より甘い日常に出来たらいいなと思います。
「うん、なかなかいいね。悪くない。」
鏡の中に映るのは、どこからどう見ても凛々しい少年。我ながらよく仕上がっているな…と、つい自分を褒める声を出してしまった。
長い黒髪はシンプルなリボンでまとめ、胸元は胸揺れ防止の装備でしっかり締めて平坦にならしている。普通サイズの私なら簡単に程々に筋肉のついた胸板になった。
簡単にスッキリしてしまう胸に関しては、多少…悲しい気持ちがあるけれど、私の野望の為には仕方ない。
私は鏡の中の自分に向かって、声に出さぬ溜息を吐いた。
どうして、私が「男装」などしているのか。
すべては、聖女様から始まった。
◇ ◇ ◇
この国に聖女様が現れたのは、十数年前のこと。
異世界から降臨した聖女様は、輝く聖なる力で魔物を王都から遠ざけ、今もなお人々を魔物の脅威から守るため奮闘している。彼女は当時の王子様、現在の国王陛下と結ばれ、華やかなお城で幸せに暮らしているという。
その聖女様が、最近力を入れているのが「創作活動」だそう…。その価値観には国全体が衝撃を受けた。
彼女が紡ぎ出した物語は「自由な愛」や「個性の尊重」をテーマに、人々の心を掴んだ。特に「BL」や「百合」と呼ばれる新しい愛の形は、瞬く間に王都で流行となった。
「男女の愛は、命を繋ぐ尊いもの。ですが、同性を愛する心もまた、魂が惹かれ合う純粋な愛の形。どちらも等しく素晴らしいものなのですよ。」
その聖女様の言葉は、思わぬ方向へ進み若者たちの心をくすぐった。
「同性との恋は『魂の恋』!?カッコいい!それって『高貴な愛』じゃない!!」
そうして脚色され、王都の若者たちの間で新たな流行りを巻き起こした。
そんな、ただの流行りだとも知らず。
聖女様の加護も届かぬ国境近く、魔物の溢れるド田舎から進学の為にやってきた私。その日は、王都立学園の見学と案内を先生がしてくれる日だった。
そんな私の目の前に広がるのは、ブームの影響を存分に受けた生徒達の光景。私は言葉を失っていた。廊下を歩く生徒たちは、同性の友と親密に笑い合っている。
「あの…、先生? 先輩方は同性と…まるで恋人のように仲睦まじいのですね?」
手を繋ぎ、肩の触れ合う距離で微笑み頬を染める。その様子に、私は思わず案内してくれる先生に尋ねていた。
「ははっ、リーシュさんも驚きましたか。ひとつの価値観が染み付いていると、どうしても慣れないかもしれないがね。同性を愛する者には良い時代になりました。私の友人も、同性を愛した一人でね?恋人との関係を公にできず悩んでおりましたが報われました。聖女様のおかげですな。」
そう話す先生の笑顔に、私は無表情で頷いた。
表情を作るのが元から得意ではない私は、愛嬌に欠ける…とその事を欠点に思っていた。しかし、今、この瞬間に動揺が表に出なかった事には感謝する。
頭では理解している。
自由な愛が受け入れられる時代になったのだ、と。だが、異性が恋愛対象の私には、目の前の光景がまるで別世界のようだった。
(… 男の子と恋をしたい私は、このままじゃ恋の機会を逃してしまうかもしれない。)
混乱したまま、先生の背中を追う。学園の廊下を歩きながら今も得意の無表情を張り付け、平静を装った。……けれど頭の中は整理がつかない。
ぐちゃぐちゃは、ぐちゃぐちゃなりに、頭をフル回転させていると、ふと閃く。
(同性との恋が主流なら、男装すればいい! 男として振る舞えば、男の子と仲良くなれる。恋仲になった後で、女だと打ち明ければ…思い描いた最高の青春が待っているのでは!)
聖女様が説く「愛の美しさ」は、魂の惹かれ合う愛。ならば、内面を愛してもらえれば問題ないはずだよね!外側なんて入り口に過ぎないよ、きっと!
…愚策にも程がある。
こんな愚策を、当時は本気で名案だと思っていた。
制服は、学園に来てから好きな組み合わせを選ぶように言われたので、従来であれば男物とされる制服で整えた。靴にクッションを入れて、背も多少高く見えるようにする。足の保護にもいい。
(これで大丈夫。待ってて青春!素敵な男の子との恋!!)
この時の私は、もちろん知らなかった。
王都の流行が、想像以上に速く…
移ろいやすいことを。
◇ ◇ ◇
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