SAN値のピンチ!
バステさんと別れた後、村の中を散策。
天狼達には大型犬サイズになってもらってる。街を歩く時には狼サイズで私達の安全を守ってもらってるけど、村だと威嚇しすぎることになるので大型犬サイズ。
散策といっても大きな村ではないから数時間で一周できてしまうし、屋台なんかもない。街と違って村に住む人は、自分達の生活に必要なものは自分達でなんとかするのが基本。
子供達は興味津々な様子で私達、というか天狼を見てる。皆もふもふ好きだよね! 気が合うね!
大人達はちょっと警戒した表情をしてる。今更なんだけどこの世界での双子ってどういう扱いなんだろ。一つの魂を二つに割ったのが双子とか、片方は悪魔が入りこんでるとか、そういうのだと忌避されそー。
でも魔族のバステさんが堂々と出入りしてるからなぁ。バステさんは見た目普通の人。耳が尖ってはいるけど、それ以外は人間と変わらない。クルックさんはホビットの血なのかちょっと小柄なんだよね。クォーターのリードさんのほうが背が高かった。年齢とかそういうのじゃなくて骨格的に。
目的の魔魚は、この村のそばを流れる川を更に遡上した場所にある湖にいるらしい。
コヴァルシャ領ではパイクという大型魚が魔物化したものを魔魚と呼ぶことが多いらしい。パイク自体が大型魚で、1.5mはあって、体重は軽く25kg超えだっていうんだから、それが魔物化したら一体どれだけになるんだ……。
……え? 私達それと戦うんだよね。どう戦えばいいんだろ?
よくラノベやコミックだと雷魔法かけてるけど、25kgに効果がある雷魔法なんか放ったら他の魚即死では? かと言って網で引っ張るのもねぇ、まず網を用意してないし……。村で買えるかな。いやでも25kgはある魔魚を引っ張れるはずがないな。馬車で陸に引っ張る?
「どうしたの?」
エレンに聞かれて、どうやって魔魚を倒せばいいのか考えてなかったと言ったら、大丈夫だよと言われた。
大丈夫ってどういうこと? だって捕獲だよ?
翌朝、村を出発。
お昼前には湖に到着する予定。
依頼されている魔魚は一匹。
バステさんが何匹買いたいのかは分からないけど、冒険者なら自分で獲れるんじゃ? なんとなくバステさんつよそーだから余裕そうなのに。
料理しないから捕獲しないのかな?
でもそれは私達から買っても同じだと思うんだけど、捌くのを誰かに頼んででも食べたいってことかな。食い付きよかったもんな。
エレンちゃんが魔魚攻略法を教えてくれないので、キリエは内心ハラハラしております。
気絶させてマジックバッグに入れて死んだりしないかな?
「エレンさん、そろそろ教えてくれませんか。気になって仕方ないです」
「えー、どうしようかなー」
エレンさんは時折こういった悪戯(?)をしてくるんですよ。いいけど。
「それは冗談として」
あ、教えてくれそう。
「パイク自体が大型魚だから、魔魚になると更に大きいんだって」
やっぱりそうなんだ、と思いながら相槌を打つ。
「ピリッとする部位は鮮度が肝心だから、しめるんじゃなくて捕獲したい」
「生け締めじゃ駄目なの?」
「知らないんじゃない?」
あー、魚の生食文化がなかったら知らないのかも?
「じゃあ、生け締めして納品するの?」
「依頼は捕獲だから、そのまま渡さないと駄目じゃないかなぁ。鯖みたいに生き腐れがあるのかもしれないし」
「確かに」
え? じゃあどうやって?
全く方法が思いつかない。
「あの旅行記で旅人がパイクの魔魚の肝を食べられたのは、賢者の力があったからだって書いてあったの」
「ほぅほぅ?」
「魔法で小さくしちゃうんだって」
「そういうやり方もありなのかー!」
小さくして、保存容器に入れて運ぶという寸法かー。
ぜんっぜん思いつかなかったよー。
話していたら湖に到着した。
秋の湖、趣きがあるーと思った瞬間、ザパァッと水が動く音がして、湖から巨大な影が飛び出した。
「あれがパイクの魔魚だよ」
「アレが!?」
大きさはね、魔物だから心構えができてたけど!
「魚なのアレ!?」
「魚の枠に止まっているらしいよ」
「え!? だって、足が生えてたよ!?」
パイクの魔魚、魚やめてるでしょ!!
認めん、私は認めんぞ! 足がある魚なんて!
ヒレを足のように使ってるとかじゃなくて、普通に足だったよ!?
あのまま放っておいたら陸地に上がってくるんじゃ!?
「……アレを捕獲するのはまぁ良いとして」
「うん」
「よく食べる気になったよね?」
「食べ物ってそういうの多いよね」
いや、エレンちゃん冷静すぎる。
前世でもウニとかナマコとか、その蛮勇を讃えたくなるものはあったけど、なんかこう、そういう次元じゃないような気が……。
あー、でもカエル食べるとかもあるし、イナゴとか蜂の子とかもあるから、アリなのか……?
一瞬で脳が疲れてきたんだけれども……。
ぽん、と肩を叩かれた。
「大丈夫。私達が食べるわけじゃないから」
「あぁ、うん、そう、だね?」
そういう話だったっけ?
脳の処理が追いつかないというか、拒絶しているというか、受け入れられないでいる私に、シルルがローブをかけ、帽子を頭にのせて着々と外に出るための準備をしてくる。
「行こっか」
いつもどおりに馬車を下りるエレンの後を、のそのそとついて行く。
お金のためとはいえ、なんでこんなメンタルにダメージを受けねばならんのだ。
ふるふると頭を横に振る。
振ると本当に頭から考えを押し出せそうな気になる。いや、出したい。
そう、これは全てお金のためです!
自分に言い聞かせて、キトラに跨る。
湖のほとりに立つ。
またしてもザパァッという音と豪快な水しぶきをあげてパイクの魔魚がジャンプした。
なんなの? なんでそんなにジャンプしたいの? 足があるから??
とっとと数匹捕獲して帰る。それしかない!
ここに来る前にエレンに教えてもらったとおり、奴を小さくすればいいわけなんだけど、近付くの難しいよね。かといってここから縮小魔法をかけたら完全に見失う。
「私が縮小魔法をかけるから、エレンは風魔法でこっちに飛ばして──」
私が持ってきたこのバケツで受け止める、と言おうとして言い淀んでしまった。
それが分かったのか、エレンが「私が縮小魔法を唱えるから、キリエは風魔法でこっちに飛ばして。私が受け止めるから大丈夫」と言った。
「うぅ……ごめん」
「大丈夫、私はダメージ受けてないから」
強いな、エレンちゃん!
バケツに湖の水を入れて、エレンの足元に置く。エレンは空のバケツを持ってる。
大変申し訳ないのですが、エレンちゃんから少し離れて立つ。
「次にジャンプしたら始めるね」
「ハーイ……」
言ってるそばからジャンプ音。さすがに水しぶきがかかる距離ではない。
「『縮小』!」
「『風よ運べ』!」
なんというかもう、自棄である。
ジャンプして湖から飛び出した魔魚がエレンの縮小魔法で小さくなり、それを風魔法で飛ばす。バケツに入ったのをエレンがすかさず足元のバケツに移す。
恐る恐るバケツに近付く。
上から覗くと魔魚はバケツから飛び出そうとジャンプしていた。でもバケツが大きくて深いのと、屋台の金魚より少し大きいくらいまで縮小されているので逃げ出せない。
「足……」
「カエルっぽい足だね」
「SAN値が削れる」
「さんちってなに?」
「メンタルにくるって意味かな……」
「なるほど」
また湖のほうで飛ぶ音がした。魔魚になるとジャンプしたくなるのか、パイク……。
「さっさと終わらせよっか」
「ヨロシクオネガイシマス……」
エレンがこのくらいでいいでしょう、と言うまで、縮小された魔魚をひたすら風で飛ばした。
見たくはないけど確認のためにバケツを除いたら、足のあるミニパイクが、ビッチビッチ跳ねてて思わずヒッて言っちゃったよ……。
「結構捕獲したね……」
そっと目をそらす。
「思った以上に数がいたのと、跳ねるものだからつい」
「そうね……」




