温まらぬ懐に魔魚のお知らせ
女性達をウィシュカに連れ帰るために、幌馬車を急遽作成。それも三台。
魔女馬車の中に皆を入れるわけにもいかないし、入ってもらったとしてもスペースが足りない。
スピードも出せないからゆっくり帰るしかない。
幌馬車はお尻が痛くならないようにサスペンション完備。あとベンチもクッション性のあるものにした。幌の部分も寒さを通さないように厚めかつ防風のものに。
幌馬車に乗り込んだ女性達に声をかける。
「では出発しますね。途中休憩を挟みながら進んで行く予定です」
オークの集落で浄化と治療をした後、皆には着替えを渡した。あらかじめシルルに飲食物も用意してもらっていた。ギリギリ間に合ったから良かったものの、思った以上に集落の規模が大きかった。
一晩ここで休んでからウィシュカに戻るかと尋ねたら、皆ここにいたくなかったみたいで拒否された。そりゃそうだよね。一刻も早く去りたい気持ちは分かる。
フュリンガーで指名依頼を受けて村の殲滅と復興支援をした時は、フュリンガーの兵士達がそれなりにボロボロ状態の村人を連れて来るという(今思うとかなりの)暴挙に出てたのもあって、皆ボロボロだったから被害者が目立ちにくかった。
今後は遠距離でのゴブリンやオークの被害に遭った人達を救助した時用に色々と用意しておこうかな。
天幕や寝袋、食器類に衣服や化粧品や石鹸などなど。それ用のマジックバッグを一つ入手して馬車にのせておくのはどうかな。
正直懐は痛むけど、辛い思いをした人達を助けるのも、このチートに対するお礼ってことで。ペイフォワードって奴ですよ。
エレンに相談してみよう。
適宜休憩を挟みつつ、夜通し馬車を走らせた。ファゴットに人が少ない朝方に到着するよう速度的なものを調整してもらった。
ウィシュカ入り口の門兵さんに事情を話したところ、代わりにギルドに走ってくれた。ええ人や。
朝方なのに大人数のギルド職員がやって来て、被害を受けた女性達を何処かに連れて行った。
私達は昼以降にでもギルドに寄ってほしいといわれたので安堵した。移動中何度も起きたりしていたので眠い。
キャンプエリアに戻って寝たいのです……。
たっぷり寝て、目覚めたら夕方だった。お外が夕暮れで、え、今何時!? ってなったよ。
エレンは先に起きてて本を読んでた。
「おはよぉ」
「おはよー。よく寝れた?」
「寝たけどまだ寝れそう」
シルルが果実水を持ってきてくれた。
「ありがとうー」
眠ってる間に体内の水分が失われていたみたいで、果実水が沁み渡るったらないです。
「はぁ、生き返った」
「それは良かった。今日はもう遅いからギルドは明日にしよう」
「うん、ありがとう。ごめん」
「いやいや、私が起きられなかった時、キリエが対応してくれてたでしょ」
「それを言うならエレンだって」
お互いに笑い合う。
「そうだ、救助後に思ったことがあるんだけど」
「うん」
聞く体勢に入ったのか、エレンは手に持っていた本を閉じた。
「とりあえず幌馬車はマジックバッグに入れたけど、他にも救助して輸送する際に必要なものがあるなって思ったの」
「それは私も思った。衣服だけじゃなく、ブランケットとか食事用の食器、石鹸なんかもそうだし、休憩で馬車を止めても外でトイレできないし」
「そうだよねぇ」
野っ原でトイレをしろ、は無茶がある。
「幌馬車をもっと改造して、食事用のテーブルやトイレ、眠れる人用に、簡易ベッドも必要だなって思った。化粧品とか」
立ち上がって紙とペンを持ってきた。
思いついたものを書き記していく。
「化粧品か、それは思いつかなかったな。治療はするけど、街に戻った時にスッピンだと何かあったのかと思う人もいるかも知れないもんね。ベッドを用意だと二階建てだね」
「アレコレ入れるとなると、私達のマジックバッグが一杯になるから、救助用にマジックバッグを購入して馬車にのせておこうかと思って」
「そうしよう」
翌日、冒険者ギルドに向かった。
依頼完了報告を済ませ、報酬を受領。
それから次の依頼の下見。
人命救助後のアイテムを収納するためのマジックバッグに始まり、幌馬車も改良しないとだし、日用品やカトラリー諸々を揃えたい。
他のはいいとして、マジックバッグが高いんだよね。でもやむなし。それにファゴットのための魔道具も買いたいしカメラも欲しい。
結論、稼ごう! 毎回思ってるけど。
次はどんな依頼を受けようかなー。
エレンと貼り出された依頼書を見ていく。
「これは?」
エレンが指差した依頼書を見る。
なになに?
魔魚の捕獲?
魚も魔物になるのか。木は前世の知識からあるんだろうなと思ってたけど、魚もかー! 木が魔物になるなら魚もなるね、うん。
「エレンにしては珍しいチョイスだね」
「フュリンガーで買った旅行記に、魔魚はピリッとして美味しいって」
「……それヤバい奴なのでは?」
なにそのフグの肝みたいなの……。
「その旅行記では食べて倒れてたけど、ちゃんと処理すれば食べられるみたい。私は別にいいんだけど、高値で売れるって書いてあったの」
「やりましょう!」
気持ちとしては全滅させる勢いで捕獲したい!
我らにはマネーが必要なのです!
受付に行き、依頼を受領する。
明日にでも行っちゃうぞー!
……さっき流しちゃったけど、やっぱり食べると倒れるんだ……。旅行記出版してるし、生きてるんだよ、ね……?
川沿いの道を馬車が走って行く。
窓から見る景色は実に雅。黄葉の木々が美しい。
それにしても魔魚がいる川だからなのか、川幅が広い。
依頼を受けた日にエレンの持つ旅行記を見せてもらったら、しっかり倒れたと書かれてた。でも生きてたみたいで安心した……。
それにしてもやっぱりカメラ欲しいなぁ。せっかくの魔魚、写真撮りたかった。カメラの性能にこだわってないし、ウィシュカで買えないかな。
「エレン」
「どした?」
「カメラをウィシュカで買えないかな。私的には写真が撮れればいいんだよね」
「そっか、それなら買ってもいいかもね。性能にこだわらないならお値段もそこまでいかないかもしれないしね」
「うん」
安いのでいいんだよね。写真を撮って、キリエのなんちゃって旅行記に貼れればいいのだ。旅行記だって見るのはエレンとファゴットとシルルくらいだろうし。あー、お母さんには見せるかも。クルックさんとか。意外にいるな、と思ったけど、欲しくなったら高性能のを買おう!
などと、安物買いの銭失いみたいなことを考える。
「目指せ、魔魚で一攫千金!」
「そこまで高額じゃなかったと思う」
「分かってる。言いたかっただけ!」
「ならばヨシ!」
景色を眺めながら話をしていたら、馬車が止まってファゴットがやって来た。
どうしたんだろう?
〈もう少しで村に着くが、どうする?〉
なるほど、村の中で停泊するかどうかの確認か。
「ウィシュカほどじゃなくても、地のものがあるかもしれないから、行ってみよう」
〈分かった〉
ファゴットが座る御者台には馬車に繋がるドアがあって、今みたいに馬車を止めた時なんかはそのドアから出入りする。
私達もそのドアから馬車の進む先を見たりすることもある。横からと正面からじゃ見えるものが違うからね。
再び走り出した馬車は、ファゴットの言うとおりほどなくして村に到着した。
入村して、村の人から馬車を停めてもいい場所を教えてもらう。
うーん、なんとも程よい村感!
馬車を停めて、天狼を連れて歩く。
村なのでね、人混みもないし、天狼に乗らずとも平気そう。むしろ村の中を天狼四匹が闊歩するほうが騒ぎになりそう。
さてさて、何か面白いものないかなー?
「おや、ひよっこ魔女達じゃあないか」
このちょっと間延びした感じは!
振り返ると思ったとおりバステさんがいた。
「バステさん、どうしてここに?」
「暇つぶしに依頼を受けてねぇ」
「バステさん、冒険者もやってるの?」
「暇つぶしにね」
暇つぶしであることをやたら強調してくるな。
食材店を緩く経営していると思ったら冒険者だったのか。
「ひよっこ達も依頼かい?」
「うん」
「そうなの」
「パイクの魔魚を捕獲する依頼を受けたんです」
「おぉ! パイクの魔魚か!」
珍しい反応だな。
「多く捕まえたら売ってくれないか。あのピリッとが好物でねぇ」
「倒れるよ?」
バステさんがにやりと笑う。
「魔族には効かないのさ」
なるほど!
確かに毒とかに耐性持ってそうなイメージ!




