何処の世界にもある大人の事情
無事(?)ゴブリンの巣を殲滅して領都に戻った私達。シュナとも勿論合流して、もふもふを楽しみましたとも!
わんこのもふもふしか体験したことないけど、お猫さまもさぞかしもふもふに違いない。
受付のお姉さんに依頼達成の報告しようとしたら、お礼を言われた。
「マルングリティの行商人から話は伺っております。ありがとうございました」
フレディさん達、無事でなにより。天狼のシュナがいるんだから無事なのは分かってるんだけどね。
「お二人はゴブリンの巣を……?」
探したのか殲滅したのか、どっち? と聞きたいのだろう。
「斥候ではなく攻撃部隊のようだったので、殲滅しました」
「ありがとうございます!」
マジックバッグからゴブリン達の耳が入ってる袋を取り出して渡す。私もエレンも見たくないけど、受付のお仕事をしているだけあって見慣れているんだろう。袋の中身を見ても顔色を変えなかった。すごい。
「これだけの規模の巣ができていたとなると、その……」
被害に遭った人達のことを言ってるんだろうな。自分のことじゃなくても苦しそうな表情になるよね。
「母に教わったとおり、皆さんの希望に応えました」
「ありがとうございます……!」
被害者だということを知られたくないということだったから、適当な布を渡してきた。布で身体を隠すくらいしかできないけど、何もないより絶対良い。それと領都に入るための補償金も渡した。これがあれば領都に入れる。それすら払えないと入らせてもらえない。
あんな目に遭っても生きることを選択した彼女達にできるのはこれくらいしかなくて、無力感に凹む。
「それでは、ギルドリングとブレスレットをこちらへ」
水晶にかざすと、またしてもシャリーンと支払ったみたいな音がしたけど段々慣れてきた。
「今回のゴブリンの巣の掃討は結構なランクポイントが付与されるはずですので、ランクアップまでもう少しかと思います」
「分かりました」
「ありがとうございます」
今回のでランクアップできるかと思ったのに残念。でもちょっとは良いことできたと思うから、良いんだ。ランクアップはまた目指すぞ。
ギルドを出て、馬車に戻る。
戦闘そのものは大したことなかったんだけど、メンタルがね、やられてます。
「私達は頑張ったと思う」
エレンがそう言って私の肩をぽんと叩いた。
「うん、そうだよね」
あの悪夢を止められたんだから、ほんのちょっとは良いことをした。
最期を迎えたいと言った女性達の表情が頭から離れない。
彼女達の絶望を、想像はできても完全に理解することはできない。同じ目に遭った人しか分からない拷問だから。
「シルル、あのね、お花を飾ってほしい」
ギルドから帰ってくる途中、花を買ってきた。彼女達に供えようと思って。
「……冒険者をやるってことは、こういうことがあるってことだよね」
頭では分かってるけど、感情が追いつかない。
シルルが私とエレンの頭を撫でてくれた。
「ありがとう」
この世界にはないかもだけど、お線香をあげたくなる。でもそんなのないから、供えたお花に祈りを捧げることにした。
来世は幸せになれますように。
数日後、憂鬱な気持ちを抱えながらギルドに向かった。
馬車の中にいてもうだうだしてしまうし、それなら何かできることをやったほうがいいとエレンちゃんに言われたから。そうだよね、今も辛い思いしてる人いるかもしれない。
「なんだ、おまえらか」
すっかり賢者くんには敵視されてる。いいけど。
「晴れてオレも冒険者だ。魔女のおまえ達より有能だってことを」
「おめでとう!」
この賢者くんならきっと、人助けに邁進するに違いない!
この際動機はどうでもいいんです。彼のように無双したい人が大変な思いをしてる人を助けてくれるのなら万々歳!
「きっと私達をあっという間に抜かして、色んな人を助けるんだと思う。頑張ってね!」
嫌味じゃなく、心からそう思う。
不純な動機でもなんでもいいんですよ。悲しい思いの人が減るなら!
「お、おぉ……」
先日とは打って変わった私の態度に賢者くんはぽかんとしてる。
エレンちゃんはチラと私を見た後、「無双、よろしくお願いします」と言った。
私達の態度の変化に首を傾げながら賢者くんはギルドを出て行った。
頑張れ賢者くん!
心から応援してるので、是非に無双しまくってくれたまへー!
今日はクルックさんのお店にお邪魔してる。シルル特製スイーツ持参で、本気でお邪魔しに来たの!
旅行記用の紙はまだ少しかかるみたいだけど大丈夫! 何故ならランクアップしてないから!
「おや、じゃあこの前の少年はやはり賢者だったんだね」
「そうなの。この世界で無双するんだって」
「頑張って無双してねって応援しておいたの」
ライバル視(?)していた魔女に応援されて、複雑そうな顔をしてたけど。
「魔女も賢者も、時折そういった気質を持った者が現れるとは聞いていたが、彼もそうなんだね」
「うん。でも"オレ、もしかしてやっちゃいました?"ってタイプより"やってやるぞー!"のほうがいいなー」
「そうなのかい?」
「だって、"やっちゃいました?"はあざとくない?」
「これは手厳しいね」
クルックさんとリードさんが笑う。エレンは横でうんうん頷いてる。ね、そう思うよね?
ラノベあるある、やらかしまくっておいて、やっちゃいました? っていう奴。
そういうのが好きな人もいると思うけど、私はあんまり。一回二回くらいならいいんだけど、頻繁だとうわぁってなる。これわざとだよね? わざとやって見せつけてドヤァしたいだけだよね? って思っちゃって読むのやめちゃってたなぁ。私には、"オレは無双する!"のほうが潔くて好感度高いです。
ルバーブジャムがのったクッキーを頬張る。んー、美味しい!
「それは、驚いていたんじゃないかい?」
「うん」
「驚いてた」
「それにしても、ゴブリンは狡猾だからね、二人が巣を殲滅してくれて良かったよ。近頃移住者が増えているからね」
それですよ。
「領主は何もしないの?」
小さな村の一つや二つ、って考えだったら最悪だなぁ。それにあの感じだと一つや二つでは済んでないよね。
「ここの領主様は良い方なんだがねぇ」
なんかあるんだ、大人のじじょーって奴かな。
「王家に目の敵にされていてね、全く関係ない領地への防衛に兵を駆り出されているのさ。王命だから逆らうわけにもあかない。その所為で領内のことまで手が回りきらないのさ」
王家と領主が仲が悪くても、被害に遭うのは結局民草なんだよねぇ……。全く、権力者っていうのはどうしてこう……。
「でもそろそろ嫌がらせもできなくなるんじゃないかな」
「どうして?」
「二人がここにいることが王都にも伝わる頃だろう」
エレンと顔を見合わせる。
私達が魔女だからって、王家が脅威を感じるはずもないし……となると考えられることは限られてくる。
「もしかしてお母さん、王都でも有名なの?」
あとはまだ見ぬ姉達とか?
「とてもね」
あんなほんわかしてそうなのに、若い時はやんちゃだったのかな。あー、でも指鳴らすだけで炎の柱とか出しちゃうしなー。
「そのアナベラ様の双子の娘が領都にいるとなればね、何が逆鱗に触れるか分からんからねぇ」
逆鱗て。お母さんめっちゃ劇物扱い。
「私達は私達のペースでしか行動しないよ?」
「領主様も無理は言ってこないから安心するといいよ」
「まだランクアップもしてないし、お金も貯まってないからしばらくここにお世話になるし、いるだけで役立つならいいことなのかな」
エレンにポンと肩を叩かれた。めっちゃ良い笑顔。
「賢者様が頑張るから大丈夫!」
「そうだった!」
頑張って賢者様!
一週間も経たないうちに、領都内は賢者くんの噂で持ちきりになった。
無双するんだと豪語していたとおり、依頼を片っ端から受けまくって達成してるんだって。でもさ、そうなると困ることがあってさ。
私達と賢者くん、ランク同じなんスよ。
案の定、賢者くんはギルドから注意を受けたようだった。そりゃそうだ。
この世界は賢者くんのためだけに存在するわけじゃないんだから。賢者として生まれて既にチートなんだから、そんなにアクセル全開じゃなくても、と思ってしまうけど、なにかしらやりたいことがあるんでしょう、きっと。
「なんで皆してオレのこと邪魔すんだよ! クソッ、これも宿命か!?」
ヤバ、賢者くん面白キャラかも! 中二病キャラは適度な距離から見守る分には楽しい。身近にはいたくない。
「邪魔してるのはどちらかというと賢者くんのほうです」
「他にも同ランクの冒険者がいるのは当然というか……」
エレンちゃんが手厳しい。
「ってかなんでおまえらまだFランなんだよ」
ハッと何かに気付いた顔をしたかと思うと、ニヤニヤし始めた。
「魔女さまのくせに弱っちすぎねぇ?」
「うん、そうそう、賢者さまより弱いんです」
なにをー!? と言い返したりなんてせんのです。
「それなのに何処かの強ーい賢者さまが他のFランク冒険者の依頼まで奪ってしまうんです」
やり返すと決めたらしく、エレンが皮肉を言う。
ギルドから注意されてるのもあってか、バツが悪そうか表情をする賢者くん。
ところでさ
「勝手に相席しないでいただけますか」
テーブルについて、受付が空くのをエレンと待ってたら賢者くんが許可なく座ってきてからの、会話スタートなんだよねー。
同じ転生者だからって仲間扱いは止めてくれたまへ。初対面で暴言吐いてきたの、地味に忘れてないからね。
「しょうがないだろ、他に空いてないんだから」
「そうじゃなく、相席の許可を取らないのはマナーが悪いと言っているんです」
「はー? 幼女に興味ないけどー?」
いやだからそうじゃないんだけど、伝わらんな。
エレンが指をパチンと鳴らした。シエが賢者くんの襟首を噛んで持ち上げる。
「わっ! 何すんだ! 横暴だぞ!」
シエはのっしのっしとそのままギルドの外に賢者くんを連れて行って、ぺっと捨てて戻って来た。
「シエは偉いねー、良い子良い子」
「偉い偉い」
エレンと私でシエの頭を撫でまくる。
折よく受付も空いたようで、おねーさんが手招きしてた。
「こんにちはー」
「こんにちは」
「お待たせしました」
掲示板にあった依頼書をゲットしていたのを、おねーさんに渡す。
「こちらですね。では登録します」
リングとブレスレットに依頼内容を登録させる。これ便利。受領後に必要な薬草がいくつだったか記憶が曖昧になった時、確認できるから。
うん、この仕組み作った魔女もしくは賢者よありがとう、大変助かってます。それはそれとして、ゲームとか好きだったでしょ? と言いたい。
「お二人に指名の依頼があるのですが」
指名! 私達に?
こんな駆け出し冒険者に!
不思議に思っていたら、おねーさんがふふっと笑った。
「お二人が採取してくださる薬草は丁寧に処理されていて、薬剤師がとても喜んでいるんです。可能であればお二人に受けていただきたいとのことなんですが、その……報酬は増やせないんです」
報酬の部分について触れる時は申し訳なさそうな様子だった。
「大丈夫です」
「ご指名ありがとうございますとお伝えください」
賢者くんも薬草採取依頼受けていたと思うんだけど、ランクアップを急ぎすぎて雑にやっちゃったのかな? なんというか、不器用な人だなー。関わりたくはないけど応援はしてる。
二件の依頼を受けてギルドを出る。
まずは薬草採取。それからもう一件はトレントモドキの討伐。
トレントは樹木の魔物で根付いた場所から動かないんだけど、トレントモドキは動けるんだって。
根っこがズボッと土から抜けて動く姿を想像する。実際目にしたら脳がバグりそー。
で、トレントは動かないから発見されたらギルドに報告される。結構強い魔物だからランクの低い冒険者が被害に遭わないように情報共有される。枝をムチみたいに周囲にビシビシ当ててくるんだって。こわっ。
それはそれとして、トレントがいるとその周辺の土壌が良くなるらしい。上位ランクの冒険者へトレントを眠らせて土中から掘り起こし、土壌が悪い場所に植え替えてもらうという依頼をすることもあるそうな。なんでトレントの周辺の土壌が良好になるかといえば、トレントの実の匂いに引き寄せられた魔物をトレントがしばいて栄養にするから。うーん、弱肉強食。
ちなみにトレントの実は美味しいらしい。いつか強くなったら食べてみたい。
そんなわけだから人間達からするとトレントは近付きたくはないけど、勝手に魔物しばいてくれるし、土壌改善してくれるから共存したい存在。
対するトレントモドキは弱い。低ランクでも倒せるくらい弱い。トレントと同じように実を付けるし、良い匂いらしいんだけど、美味しくないんだって。しかも周辺の土壌を悪化させるらしくって、嫌われてる。
そりゃそうなる、っていう生態。
トレントモドキを見かけたという報告を受けたギルドから領主に報告が上がって、依頼が貼り出されるらしい。
土壌を悪化させるモドキは、領主からしたら倒しておきたい魔物だよね。
ちなみにトレントとトレントモドキを見分けるには、石を投げつけてその反応を見るという、大変原始的なもの。
本物ならその場で枝をブルンブルン振るけど、偽物なら襲ってくる。弱い癖に好戦的なモドキ。小動物なんかを誘き寄せて捕食してるとかなんとか。
森の中では見たことなかったからなー、トレントもモドキも。楽しみ!




