気まぐれ旅行記
冒険者としてランクアップするには当然ながら実績が必要。薬草採取が何故冒険者ギルドに依頼されるかといえば、城壁の外には魔物がいるから。実に単純明快な理由です。
猪の魔物だったり、鶏の魔物だったり、意外と遭遇するわけです。遭遇率高め。我ら依頼受けて二回とも襲われて返り討ちにしてるので。
そんなわけだから、戦えない人にとっては比較的安全とされる薬草採取も危険なわけです。
そして今回もまた襲われて返り討ちにしました。遭遇率100%じゃないですか。皆こんなに襲われてるの? それとも我らの外見で侮られてたりする? 我、魔女ぞ? 天狼も四匹もいるというのに。もうちょっと観察してから襲ったほうがいいよ! と教えてあげたいけど、やっつけてしまったからなぁ。南無。
「なんかこう、オーラっていうか、覇気とか出す?」
出そうと思って出せるものなのか分からないんだけど。
「うーん、でも魔物が襲ってくると、魔物が減って領都の人達が助かるし、私達の食料にもなるし素材もお小遣いになるよ?」
「確かに」
着々と熟成室にぶら下がるお肉が増えていってる。
食料に困ることがあるかもしれないし、あるに越したことはないです。駄目になる前にルーヒやトトが美味しく食べてくれるし。お小遣いも増えてる。
「それに売られたケンカは買わないと、後々面倒くさいことになるからね」
なんとまぁ力強いお言葉……。エレンってたまにアグレッシブになるんだよね。何のスイッチが入るんだ。
残念なことに今日も魔物に遭遇しました。なお牛の魔物です。牛丼食べたいな!(無理だけど!)
あぁー、伊勢の老舗和牛専門店の牛丼食べたいなー。旅の途中で甘めの醤油と米を入手せねば!
米が手に入れば炊ける! 圧力鍋は既にこの世にある。シルルも愛用してるから問題ない。魔女通販で米と醤油が存在することは分かってるんだ。取り寄せられるけど、せっかくの旅なんだから自ら各地の調味料や素材を入手するほうが絶対楽しい! 今回手に入れたマウル草は花山椒みたいな感じみたい。花椒とは違うらしい。春の短い時期にしか手に入らないから出回らないんだって。旅に出たからこそそういったものを手に入れられる。んー、これぞ旅の醍醐味!
…………あ。
「キリエ?」
「思い出した」
「何を?」
「前世、旅行好きだったこと」
犬は常に家にいたけど、家族がいたから旅行に行けた。その後自分の意思で犬を迎えてからは旅行といったら犬を連れて行ける先になった。それから何故か行こうとする先々で事件や災害が起きるようになった。何処とは言わないけど、地震が起きたり、火山が噴火したり、バスジャックが起きたり、内乱や他にも……。
呪われてるって思った。
そんなこともあって旅行に行かない、行けなくなった。さすがに気の所為にするには連発しすぎた。
だからといって犬を迎えたことに後悔は全くなかった。旅行とは違う楽しみ、幸せを得られたから。
でも今生は何処に行くにも連れて行ける。同じものを食べられる。幸せを分かち合えるんだって、今更ながらに思った。
「エレン、私、目標できたよ」
「おめでとう!」
その前に目標が何か聞いてください!
「旅を満喫する!」
「今までと変わらない気がするんだけど」
「違うよ。これまではこうしたら楽しいかな、だったの。今はこうやって楽しもうって思ってる」
「確かにそれは大きな違いだね」
「でしょ?」
目標が降ってきたー!!
前世で日記なぞ書いたこともなかった。家をこよなく愛し、愛犬が家にいるのにわざわざ出かける必要があっただろうか、いや無い! 書いたとしても"今日もうちの愛犬は世界一!"の一行で終わる。増えたとしても今日あげたおやつへの食いつきが良かったので次回も購入せねばくらいのものだろうなー。
ただの面倒くさがりだったというのあるけど、人混みが大の苦手で……見た目が大人しそうに見えるらしくてぶつかりオジ(若くてもぶつかってくるリーマンもいたなぁ……)の被害も遭ったし、老人(性別不問)に道を聞かれたり愚痴を聞かされたり(何故!!)することも多かった。犯罪に限らず、誰もが人を見た目でロックオンしてきやがるのですよー。
でも今はね、見た目こそ幼女だけど、魔女だし天狼連れてるしで、そういうのもないと思うんだ。賢者のことは知らない(興味がない)けど、魔女を自分の支配下に置こうとした国がいくつも滅んだという話は聞いた。よっぽど愚かな王じゃなければ手を出してくることはないだろう。とかいってフラグ立っちゃったりして。もしそうなったら、やっつけちゃうぞー!(好戦的)
先生に見せて採点されるわけでもないから好き勝手書けるし、せっかくの長旅、こういうことをしたって記録するのも楽しいかなって思った。そうなると欲しくなるのが写真!
魔女通販のカタログを取り出し、カメラを探す。……おぉ、本当になんでもあるな。魔道具か。それならこの後向かう魔道具都市マンルグリティでも買えるかも?
値段はどのくらいなのかなぁ。えーと…………たっか!!
え、ちょっと、薬草採取とかのんびりしてる場合じゃないかも! 手持ちのお金で買えるけど、何があるか分からないのが旅というもの! そういう時のために取っておいて、今すぐに貯めていったほうがいいに決まってる。
カタログで値段を確認し、最低金額は決まった。
ギルドでは二つのポイントがある。一つはランクを上げるのに必要となるポイント。これはランクポイントと呼ばれてる。それとは別に魔物退治で得られた素材を売るのでもランクポイントが加算される模様。少ないけど。
・依頼をこなす
・うっかり遭遇した魔物を退治し、その素材を売る
「ちょっと買い物に行ってくる」
立ち上がった私をエレンとファゴットとシルルが見る。
「私も行く」
エレンが立ち上がる。
本屋目当てだね?
〈私もだ〉
ファゴットも立ち上がる。
地図作りたいんだね?
シルルは慌ててウォークインクローゼットに向かう。ちょっと出かけて来るだけなんだから、そんなちゃんとした格好をしなくてもーと思わなくもないけど、シルルの楽しみの一つなので着せ替え人形になろうと思います。
小一時間程かけてエレンと私は着せ替えられ、いざ出陣。
馬車を出ると、周囲は最低限の人数がいるくらいで、キャンプ場はがらんとしていた。お昼過ぎだから、留守番係を除いて冒険に皆出かけているんだろう。
「何を買いに行くの?」
人が少ないのもあってエレンとお話しができる。というか最近は普通に話してる。魔女っぽくするのが面倒になっただけなんだけどね、戦闘や依頼なんかでバラけた時用に、トランシーバーならぬ通話機をイヤーカフタイプでマルングリティで作ってもらう予定でいる。魔女通販にはなかったから特注になるだろうし、作れるかどうかも分からないけど。
「日記を書こうかと思って」
「旅行記だね」
旅行記好きのエレンの目がキランと光る。
「そうなるね」
「そのために手帳とペンを買いたいんだ。それとマルングリティでカメラを作ってもらって、日記に貼りたい」
「いいね!」
「あとその時にはファゴットの地図も参考にさせてもらいたい。あ、ファゴット用のカメラも買いたいね」
〈勿論だとも! ところでカメラとは何だい?〉
その場の景色を画像にすることができるものだと言ったら興奮していた。
「あ、それとファゴットの地図用の紙とかペンも補充しようか」
〈有難い!〉
第二防壁内に入ったらエレンは本屋に行くのかと思いきや、一緒に雑貨屋に来た。
「本屋さんはいいの?」
「あとで行くから平気」
なるほど。
「お願いがあるの」
真剣な表情のエレン。な、なんだろう……?
「キリエの書いた旅行記、読みたいの」
「いいよ」
「いいの? ありがとう!」
「いいけど、クレームは受け付けないよー?」
「勿論そんなことしないよっ」
「それならオッケー」
書き散らかすのでね。
〈僕も読みたい〉
ファゴットまで!
「いいけど」
気が付いたらエレンとファゴットに補足されたりメインの書き手が変わったりして、ヴォイニッチ手稿みたいになったりして。それはそれで楽しそう。あっちは絵で、私のは写真だから全く別物か。
雑貨屋さんに行く前にクルックさんのお店に行く。錬金術で作ったもののほうが雑貨屋さんに置いてあるものより丈夫だったり、便利なものがあるかもしれない。
いつも使ってるペンでもいいんだけどね。ここからファゴットとは別行動。シエを連れたむくつけき男になって、ニヤリと笑って去って行った。あの見た目、かなり気に入ってるよね、ファゴット。
ドアベルを鳴らしてお店に入る。カランカランという心地良い音。
今日は珍しく(訪問二回目だけど)先客がいた。人間の男性だった。年は私達より少し上に見える。私達を見ると、嫌そうな顔をして舌打ちされた。なんでさ。
「……魔女か」
まさかの先制パンチ!
たとえ他の魔女に嫌な思いをさせられたとしても、別魔女にそれはないんじゃないの!
「うちは代々魔女様にご贔屓いただいている店ですので、そのような態度をなさるのであれば、今後のお付き合いはご遠慮させていただきます」
リードさんが先客にぴしゃりと言い放って、先客は言葉に窮しているようだった。
「……もう言わない」
もう、じゃなくてそもそも言うな、と思いながら冷ややかーに見つめちゃう。
クルックさんが手招きしてくれているのでそっちに向かう。
「せっかく来てくれたのにすまないね。今日はどうしたんだい?」
「旅行記というと大袈裟なんだけど、日記を書いてみようと思ったの。クルックさんのお店なら珍しいノートやペンがあるんじゃないかと思って」
「クルックさんとリードさんにも会いたかったし」
なんて卒のないことを言うんだ、エレンちゃん。さすが人生三周目。
「旅の日記か、いいねぇ。錬金術でノートは作らないが、インクは作るよ」
「インク?」
そうだよ、とクルックさんが頷く。
「決して書き換えることができないインクだよ」
書き換えができちゃうの!? あっ、魔法とか?
「欲しいです、依頼できますか?」
「勿論さ。どんな色が好きかな?」
「瑠璃色が好きなんだけど、こちらの世界でも難しいですか?」
「錬金術でウルトラマリンを作るからね、天然物よりは安く済むが、そこそこするね」
日常使いするものだし、色として好きなだけでこれじゃなきゃ嫌だってものでもないから、黒でもいいかなぁ。
「黒ならどうですか?」
「それなら安価で済むよ」
「じゃあ、ノート作成に挑戦してみるかな」
思わぬ発言に驚いていると、クルックさんがにやりと笑う。
「魔女が書く旅行記だ。普通の紙に書くんじゃ勿体ないじゃないか」
「大変じゃないの?」
「なに、永久に存在できるものを作るわけじゃないからね。インクが錬金術で作られたものなら、水や油で滲むこともないし、耐火性や裂傷耐性の付与したものを作るぐらいで済むよ」
錬金術のことはよく分からないけど、それ、大変な分類に入らないのかー。凄いなぁ。
「完成するまでは申し訳ないんだが、普通の紙とペンで書き始めていてくれるかい?」
「うん、分かった!」
「ありがとう、クルックさん」
話し終えた私とエレンが店を出ようとした時、背後でリードさんと失礼な少年の話し声が聞こえたのでちらっと見た。使い魔の卵を前にしてなんか話してた。内容は分からないけど。ま、関係ないし、いっか。願わくば二度と会いませんようにー。




