↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それとこれとは別世界  作者: やまさん
第十四章
PR
60/60

「これ」 矢崎

◆異世界コード『NGY1180』

・通称「それ」世界

・田島と亜実がいる側の平行世界


◆異世界コード『NGY1150』

・通称「これ」世界

・矢崎と望美がいる側の平行世界

 望美と鍋島が本物の警察官でない点ぐらいは、世間知らずな子供の目でも明白だ。教室の子供たちは、警官コスの不審者二人組が侵入してきたとしか思っていない。万事休すの厄日である。

 さらに矢崎と中野は、この二人が何目的で来たのかを知っている。詳しい事情はわからずとも、矢崎の身柄を確保したいのだと。二人が教室で暴れる理由は、それで説明がつく。ただ巻きこまれただけの担任教師は不憫だが。

「探してるのは俺ですよね? 矢崎賢一なら俺のことです」

 自ら矢崎はそう言い、両手を挙げた。片手じゃなく両手を挙げた理由は、二人に観念した様子を見せ、少しでも早く、中野たちクラスメイトに危険が及ばないようにするため。眼前で射殺された担任教師の後を、クラスメイトに追わせる理由はなかった。矢崎と中野が、望美たちを縛る「紳士淑女規定」をもし知っていれば、学級崩壊クラスの子供よろしく、横柄に振る舞ったかもだ。

「勇気あるねえ」

 感心する望美の隣りで、鍋島はスマホでターゲット対象との整合性を確かめる。スマホ画面を一目見ただけで、申し出た矢崎本人だとわかり、鍋島はひとまず安堵した。教室内を歩き回り、男子の面々を見て回る手間は省けた。陽動は成功したものの、現地警察が急行してくるまで長くかからないだろう。銃声は学校中に鳴り響いている。

「それじゃ、オレたちについてきて。荷物は何もいらないからそのままで」

 鍋島はそう言い、矢崎に起立を促す。その時、中野が鍋島に「そいつをどこへ連れてく気だよ」と問う。

「たいした用じゃない。用が済んだら、すぐここへ戻せるから」

 鍋島は中野にそれだけ答えると、矢崎に再度起立を促した。

「俺は平気だ。中野、俺は大丈夫だから」

 明らかに平静を装いつつ、矢崎は立ち上がる。彼は覚悟を抱き、望美たちに身構えていたわけだが、いよいよとなれば空回りに……。本番の舞台が、訓練や机上と大きく異なる理由は空気感だ。いざ直面する空気や範囲は濃厚で、まだ小学生の矢崎には重かったらしい。自宅を望美たちに襲われた際は、現地警察がそばにいたため事情が違う。担任教師が殺され、自らの一挙一動にかかっている点も大きい。銃声のため、他の教室からすぐ助けが来る気配はない。

「他の坊や嬢ちゃんは、代わりの先生が来るまで大人しくしてなよ。自習でいい、自習で」

 望美はそう言い放ちつつ、矢崎の方へ歩み寄る。湿っぽい長時間を防ごうと、矢崎を連れ出しにかかった。動きが鈍ければ、ピストルかバタフライナイフのどちらかで小突く気だろう。

 ……矢崎が諦めモードで自席から離れた時、女子の一人が突如立ち上がり、ドアへ駆ける。廊下側の列の一番前にいた女子だ。矢崎が連れて行かれた後で、残された自分たちは皆殺しと勘違いしたらしい。あるあるな展開だが、今回の望美たちにそのタスクは無い。

「おいコラ! まだ動くんじゃない!」

 鍋島は即座にピストルを抜くと、ドア上の欄間窓を撃ち抜いた。ガラス片が廊下に散らばり、音を立てる。貫通した銃弾が、廊下の柱に穴をこしらえた。隣の教室からこっそり顔を出していた男子は、すぐさま引っこむ。

 逃げようとした女子は驚き、ドアの前で無惨に転ぶ。尻餅をつき転んだ女子は腰をぬかし、割れた欄干窓をただ見上げていた。

「いいか、今のは最後の脅しだからな」

 鍋島は女子の頭頂部をポンッと叩き、立ち上がり席に戻るよう指し示した。「女の涙」付属号泣を懸念するも、幸いにも女子は淡々としている。泣き喚こうがムダと理解し、諦めたように見えないこともない。

「そいつから離れろ!」

 今度大きく動いたのは中野だった。鍋島が離れ、矢崎のそばにいるのが望美だけという点を好機に捉えたらしい。そうして、教室最強クラスの厄日が確定した……。

「ハアッ? ちょっと何すんの」

 中野は望美のことを、銃を持った大人でも女性だからと甘く考えたに違いない。彼は望美に精一杯のタックルを食らわせた。見事な不意打ちを与えられたと彼は確信しただろう。最初の三秒間程度は。

「はい、ジャマジャマ」

 望美は中野を両肩から押し戻し、教室のどの辺りへ蹴り飛ばそうかと考えられるほど余裕だった。初等レベルの軍事教練を習得しても、経験者にまず敵わないのが現実だ。

 中野は決してバカじゃないため、自身が圧倒的敗北を喫しつつあることを早くも理解した。この正体不明の女に負け、親友矢崎をどこかへ連れて行かれるのだと。連行については勘違いだが、彼や矢崎に知る術はない。生死を問わず、二度と再会できないと思ったらしい。

「逃げれるだけ逃げろ!」

 中野が矢崎に叫ぶ。彼はほとんどムダと悟りつつも、両手で望美の体を掴んでいる。

「そ、そんなことは」

「逃げろ! 行けよ!」

 親友が躊躇するのを中野はわかっていたが、それで逃げ損なえば二人してバカを見るだけ。逃亡未遂女子を席に戻らせた鍋島が、こちらに戻ってくる。矢崎と中野からすれば一大事だが、望美と鍋島からすれば一悶着でしかない。二人とも「こんな面倒事はさっさと済ませちゃおう」という調子で、慢心してもいた……。

「ウヌゥ」

 中野は力を振り絞って頭部を動かし、望美の左の二の腕に噛みつく。生え変わりたての永久歯で、子供ながら力強く噛んだ。

「イタタッ」

 さすがの望美も腕に痛みを覚え、中野を睨みつける。教室の安普請の壁に叩きつける程度で済まさないことが決まった。

 望美が中野の撃退にかかる隙をつき、矢崎は駆け出す。即座に鍋島が彼の足を狙い発砲するも、ギリギリ当てられなかった。発砲と跳弾により、子供たちは悲鳴を上げた。恐怖に堪え切れなかった数人の子供は必死の様相で、教室外へ逃げていった。

「汚いし痛いわクソガキ!」

 望美は怒鳴るなり、中野を投げ飛ばした。彼はクラスメイト二人分の体と机にぶつかった後、床に仰向けで倒れこむ。

 彼女の二の腕には、前歯を示す歯型と噛み傷ができている。彼は団地児童だが狂犬病持ちじゃない。

「いい度胸だけど、クソ生意気でムカつく! ああムカつく!」

 見事に怒り狂う望美。矢崎と任務の件を脇に置き、中野への報復にかかる。

「オレ、あの子を追いますから」

 リーダーの望美を止めるよりも、鍋島は矢崎の確保を優先した。彼は彼女が例の一線、紳士淑女規定違反の一線を越えないよう祈りつつ、ターゲットの矢崎を追い始める。正しい選択と言えるかは、今も賛否が分かれる点。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。