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果てなき航路を進む為に  作者: 高災禍=1
19/23

第018話『ロリコン亭』

遅くなってすみません。

よろしくお願いします

 此処は一寸先も見えない暗黒の空間。この空間がどれだけ広いのかも分からず、ただそこに存在しているのみ。

 だがそんな空間の中に一つの気配が現れた。本来は強い気配を放っているのだろうが、現在は微々たる気配でしかない。


 『ふざけんな! 何だ、アイツ』


 彼は人の死を利用するのが好きだ。例えば死んだ人間の怨念を利用したりして、人を殺したりするのが。

 ただ今回は失敗した。彼自身も気付くのが遅れ、危うく自身の魂も帰すところだった。

 今回は死者の怨念を使い、死者を蘇らせる。そのうえ悪意のある加護を与える事で、その魂を乗っ取る。ここまでは完璧だ、ここまでは…………だ。

 まさかあんなイレギュラーに出くわすとは。

 イレギュラーといっても別に強いという訳ではない。『壁越え』したばかりだろう。

 だがアイツは勘が良すぎる。剣を振るおうとすれば事前に動いて妨害し、攻撃を受け流そうとすれば、それを加味した上で攻撃を加えてくる。

 

 『あ~、他の人にも言っておかないとな』


 そしてその気配は、その場から消えた。



 ♦  ♦  ♦  ♦



 「あぁ~、辛いのじゃ」


 この魔術は消費する魔力がかなり多く、加えて元々魔術が得意じゃない種族なので、レナ自身の8割近くの魔力が一気に持ってかれた。

 この場合に起きるのが、『魔力欠乏症』と言われるものだ。

 まぁ、レナ自身に急激な魔力の回復するスキルを持っているので、この辛さはそこまで長くは続かないのだろう。


 風が吹き、周囲の砂煙が辺りへと飛んでいった。

 レナは亡者の生死を確認する為にその場に行ったのだが、そこには何もなかった。あるのは、地面に刻まれた巨大な一筋の剣筋。


 「少し、やり過ぎた……………かのぅ」


 だが、レナはしょうがないといった表情をしつつ、現実から目を逸らそうとした。実際はもう少し被害が出るはずなので、今回はかなり被害が少ない……………はずだ。

 あと『気配感知』を行ったが周囲には目立った気配はないので、消し飛んだと思ってよいだろう。


 一見落着ともいえる決着なのだが、レナはある事を思い出す。


 「あれ? このままだと此方に誰かが来るんじゃないかのぅ」


 その事実に気付いたレナは、少し顔色を悪くした。

 この世界の支配層は、貴族や王族だ。そんな貴族の居所の近くでこんな戦いを繰り広げた訳だが、一般的にはすぐに処刑されてもおかしくない。

 という事でレナはさっさと『ファースト』の中へと入る為に隠れながら向かう事にした。

 


 ♦  ♦  ♦  ♦



 そんな訳でレナは、『ファースト』の中に入る為の門の近くに来た訳だが、そこで一つの問題点に直面する事になる。

 あんな事をして、簡単に通過出来るのだろうか?

 通過は出来るだろうが、かなり怪しまれるだろう。実際にそんなレベルの事をしたのだから。

 まぁ、もう日が暮れかけていて、夜になろうとしているので、さっさと中に入っておきたい。だから普通に入るしかない。


 中に入る為の門へと来た訳だが、そこで見張りをしている人に呼び止められた。

 

 「嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだい?」


 柔和な表情でそう話掛けられた。

 レナは嘘の受け答えをするのか、正直に答えるかで迷った。

 レティシア達が先に付いたので、何らかの抜け道は作ってくれたのだろう。レティシアは、そういう人だ。だからこそ下手な言い訳よりも、多少なりと暈しながら話した方が良いだろう。


 「旅の仲間と途中で別れてしまっての。何か連絡は来てないかの?」

 「その服装で、この喋り方。君がレナちゃんだね」

 

 如何やら、ビンゴらしい。ならば、そこを掘り下げた方が良いだろう。


 「そうじゃが、何かの?}

 「いやついさっき……………


 ♦


 『私が探しに行くんです!』

 『いや、もうそろそろ門を完全に閉めますんで…………』

 『あぁ、あの時はぐれなければ』

 『え~と、此処に来たら通しますので、何か特徴を』


 ♦

 

 ……………という事がありまして」

 「申し訳ないのぅ」

 「本当にですよ。では、通行料として銀貨一枚を」


 この通行料は一種の税金らしく、冒険者はこの税金は払わなくて良いらしい。払うのは、旅人や行商人の類らしい。

 そんな訳でレナは銀貨を一枚払う。ただレナの財布が段々と軽くなってきて、その重さが心許なくなってきた。


 「では、お気お付けて」


 こうして何とか『ファースト』へと入る事に成功した。





 「主、大丈夫でしたか?」

 「大丈夫ぞよ」


 こうしてレナとレティシアは抱き合い再会した訳だが、これは辻褄を合わせる為の行為に過ぎない。片が心配していたという事実が欲しいからだ。

 ただ、そう思っているのはレナだけであって、レティシアは本当に心配していたのだ。

 本当に生きていて良かったと。


 話を戻すが、如何やら女の子が二人で抱き合った為、かなり周りの人達の視線を集める事になってしまった。


 「おい、お前話し掛けてみろよ」

 「はぁ!? お前が行けよ」

 「小さい子、可愛いなぁ」

 「……………ロリコンが居るぞ」

 「ロリコンで何が悪い!」


 そんな小さな話声も、レナの地獄耳は逃さない。

 離れろと言わんばかりに背中を叩くが、レティシアは気付いていないようだ。ならばとレナは小声で「注目されているぞよ」と言ったところ、少し恥ずかしそうに離れてくれた。

 ただレナとしては、もう少しこの胸(クッション)の感触を味わいたいが、ここは自分に対して鬼となって諫めた。


 「ごほん。それで何処までやっておいてくれたかの?」

 「え~と、『蜃気楼』という宿は取っておきました」


 その言葉にレナは、「ようやった」といわんばかりに指を鳴らし、宿へと向かおうとする。対してレティシアは、そんな光景に幸福感を感じつつ、その後に付いていく事にした。



 閑話休題(とことこ)



 「今更じゃが、この町は文明レベルが高いのぅ」

 「そうですね、幾つか見慣れない物が在りますし……………」


 レナにとっての元の世界からしてみれば、この世界はあんまり文明が進んでいないように見えるだろう。

 しかし、此処には明らかに文明が進み過ぎている物が幾つか見える。

 例えば、あの明かりだ。まだガス灯だったら分かるが、あれは火ではなく光だ。直に燃やしているわけではない。

 その他にも色々とあるが、一部だけ文明が進んでいるという事だ。

 そんな珍しそうに見ている二人に、客寄せをしていた男が話掛けてきた。


 「お嬢ちゃん達、この町に今来たばかりか?」

 「そうじゃ」

 「私はほんの少し前です」


 その二人の返答に男は、つまらない仕事の息抜きになりそうだ、といった表情をしていた。


 「あれを知っているか?」

 

 そう男が指を指したのは、先ほどレナ達が話ていた街灯だ。


 「知らないぞよ」

 「あれはなぁ、『魔力灯』っていうんだ」

 「魔力でもエネルギー源にしているのかの?」

 「知っているじゃねーか。まぁいい、実はあれを作ったのは、此処の領主様なんだぜ」


 その言葉にレナの瞳が、少しだけ大きく開かれた。ただ凄いと思った訳ではなく、予想外な出来事に遭った感じだ。

 レナの知っているメルキアは作戦の立案は得意としていたが、何かを作成するなどの事は得意ではなかったはずだ。

 

 (もしかしたら別人かものぅ)


 そんな考えをレナは、頭の片隅に置いておいた。

 そんな時、いきなり黙ったレナを心配に思って、レティシアが話し掛けてきた。


 「何かありましたか?」

 「大丈夫じゃ」


 そんな中で客寄せをしていた男が仕事の事を思い出し、こちらに向けてセールスを始めた。


 「今なら此方の宿が10%引きだけどどうかな?」

 「もう宿を取ってありますので」

 「……………という訳ですまんのぅ」


 客寄せの男は残念だと言いつつ、再度客寄せを始めた。

 そしてレナ達は自分達の宿へと足を進め始めた。



 これは余談だが、丁度その近くに居た男の知人がその出来事を羨ましく思い、その知人が他の人達に話し、その宿の別名が『ロリコン亭』となるのは、まだ先の話。


ありがとうございました。

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