79話 あれ、俺また何かやっちゃいましたか?
やっちゃってます。胸糞注意です。
「マ ウ テ リ ッ ツ ウウウウウウ!!!!」
それは怒りに満ちた咆哮であった。
「ちっ。バレたか。構わねぇさっさと飛ばせ」
マウテリッツは指示を出し、御者役の部下は馬に鞭を打って走らせる。
それを追うように数人の黒装束の兵士が馬に飛び乗り駆けだす。
怒号の飛び交う逃走劇となった。
マウテリッツ側はボウガンで追っ手を攻撃するも、追っ手は剣でこれを防いだりよけたりして数は減らない。
そんな中、ふいに追っ手の一人が荷馬車に接近する。
「おっと危ない」
そう言ってマウテリッツは隠し持っていた『物』で追っ手を攻撃する。
「鉄砲!?」
接近した追っ手が最後に見た『物』。それは紛れもなく鉄砲であった。
「あばよ」
そういって引き金を引き、火縄が落ちて爆音が響く。
「鉄砲!!?」
「おちつけ。再装填はそう簡単にできる筈がない」
「しかしあのサイズは」
崩れ落ちた追っ手だったモノが前から落ちてくるのを、長とその部下達は避けながらマウテリッツが使用した鉄砲を思案する。
あれは紛れもなく鉄砲である。しかしサイズが小さいのだ。
「拳銃タイプと言ったな、これ。案外悪くねぇな」
そう言って小型の鉄砲を再装填しながらマウテリッツは言う。
「しかし連中はマウテリッツ様を知っているようですが……」
「ああ? 名前ぐらい知ってるだろ」
揺れる荷馬車の中でマーティアスの言葉にマウテリッツは答える。
「その割には殺気が凄かったのですが……」
「知らん。俺の事だからどこかで恨みも買ってるんだろ」
それよりも、と続ける
「三角チーズ様はご無事かよ?」
「ええ、丁度我々が囮になってる形なので無事です」
「そうか、そいつは……」
マーティアスの言葉にマウテリッツは答える事ができなかった。
何故なら、真横から飛びついてきた追っ手によって荷馬車から落とされてしまったのだ。
「マウテリッツ様!!?」
「俺にかまうな!行け!!!」
うまい具合に落ちた為に指示を飛ばせる程度には無事だったマウテリッツ。
「お前達は追え!マウテリッツは俺だけで十分だ!」
追っ手側もそう言って追跡の手を緩めるなという指示を飛ばす。
「マウテリッツ……お前を殺す」
襲撃者の長格の男は、遠ざかる部下達の足音を聞きながらそう静かに剣を抜く。
場所は狭い路地。それでも一騎打ちをするのは十分なスペースであった。
「おうおう。随分と俺に夢中なんだな」
マウテリッツもそう言ってニヤ付きながら剣を抜く。
「そのニヤつき顔、昔と変わってないのだな」
「昔?」
会った事あったか?と言おうとするも、襲撃者の激しい剣戟に阻まれる。
強いなこいつ。
マウテリッツはそれを防ぎながら思案する。
また同時に「行けと言ったのは間違いだったかもしれない」と後悔してきた。
周辺にこいつらの仲間が潜伏しているのは明白であり、この騒ぎで集まりだしているのは確定だからである。
んにしても。と思案。
「20年だ」
「は?」
それにしてもこいつは一体何者だと思案していたら、向こうから口を開く。
「20年前、貴様は俺からあの人を……愛する者を奪ったんだよ!」
恨み憎しみが籠った重い一撃が放たれる。
「20……? うん? あれ、ひょっとして俺、また何かやっちまったか?」
「馬鹿にしてッ!!」
襲撃者の重い一撃が振り下ろされ、激しい金属音が響く。
マウテリッツはその猛攻を防ぎながら考える。
さて、20年前、何かあっただろうか? と。
「ああ!? ひょっとしてお前、マーティアスか!?」
その言葉に、襲撃者はピクリと反応を示す。
「覚えてくれていたとは驚きだな」
「ああ。俺も驚きだ。まさか」
ピクリと反応を示した隙を狙い、マウテリッツは攻撃に転じる。
「まさか、あの時のヒョロヒョロのガキが一端の暗殺者になってるとはなぁ!!」
攻撃は防がれるも蹴りを入れて襲撃者をノックバックさせる。
だが、マウテリッツはもう笑うしかなかった。
20年前、マウテリッツはコルシャーズとかいう年寄り坊主に、マルジョリーを寝取られた。
そのショックにより、彼は学園を休み、逃げ出したのだ。
その逃げ出した先の宿場町で知り合った町娘と意気投合し、愛しあった。
町娘は婚約を控えていたが、マウテリッツは実家の金と地位を利用し、無理やり婚約を破棄させ、奪い取ったのだ。
それが20年前の顛末であった。
そして、今目の前にいるのが、その時奪い取った婚約者、婿になる筈だった男がいるのだ。
もう笑うしかないのである。
「……お前が……!お前さえいなければ!」
襲撃者は息を整えて反撃をしようとした。だが……
「マウテリッツ様!」
そう言って先ほどの護衛、つまりマーティアスが助けに入り、襲撃者に襲い掛かった。
「おう、マーティアス。三角チーズ様は無事なんだろうな?」
「はい!どうにか屋敷の者が助けに来まして……時期に屋敷の兵がくるそうです!」
「だ。そうだ。どうする襲撃者?」
マウテリッツはそう嫌味そうな笑顔を襲撃者に向ける。
「なんで、そいつが俺の名前なんだよ……?」
襲撃者は震える声で尋ねた。
「それはこいつが俺とあいつとの子供だからだよ」
「なにッッ!!?」
その言葉に、襲撃者は衝撃を受ける。
「そいつが……お前の……ロッテとの子供……だと?」
「え? 一体どういう状況ですか、これ」
唐突に始まった『何か』に戸惑うしかないマーティアス。
「ふざけるな……ふざけるなよ……<加速><一撃必殺>……!!」
襲撃者がそう呟いた瞬間、マウテリッツは刺された。
あまりにも速い動きにマウテリッツは急所を外すぐらいの動きしかできなかった。
「ガ。ハッ!!」
恐ろしく速く飛び込まれ、マウテリッツもマーティアスも動けなかったのだ。
「随分と悪趣味なんだな。お前」
肩に冷たい剣を刺しこみ、冷たく言い放つ襲撃者。
「俺が付けたんじゃねえ!!!!!」
だがマウテリッツは襲撃者を再び蹴飛ばして叫ぶ。
「あいつが!ロッテが付けてくれって頼んだんだよ!!!!」
がはっと吐血をしながらそれでも叫ぶ。
「ふざけ……!!!!」
襲撃者は叫ぼうとした。
だが、できなかった。
「死ねえええええええ!!!!!」
そういってオドレイがミスリルの刀でもって、襲撃者の頭に鬼気迫る一撃を振り下ろしたからである。早い話が『頭をかち割った』のだ。
「なん……だと……?」
そう言って、彼は絶命した。彼の復讐劇は終わったのだ。
彼の愛する者を奪われた悲しみの物語は、皮肉にも、彼を愛する者の手によって、あっけなく、幕を下ろしたのであった。
つづく。
オドレイ「今北産業」
また遅くなってしまいました。
次回も1週間後の予定です。




