38話 雪斎「芳菊よ、まずは寺での生活を思い出せ」
春である。草花が萌える頃である。
やはり異界でも春はあけぼのである。日の出が最高に綺麗である。
春と言えば、そう、前々から言っていた学園生活の始まりである。
帝都の東門から常歩の馬で僅か10分。絵的には出城のような感じになっている。
そもそも帝都ディバタールは北がオルレンス。南がイタルティバの中間に位置しており、バロエインの山脈から流れ出す川が生み出したとされる丘の上にあるようなもので、南北に延びる街道を中心に発展している。
西は海であり、大きな港がある。東は丘や森、さらに進めばバロエインまで続く山脈となっており、つまり東側は特に発展する要素はなく空いている。
そんな空スペースを埋めるかのように、まるで城かと思う程の水堀に囲まれた城塞こそが、私が今現在学寮で暮らしている『学園』である。というか『学園要塞』である。
正式な名前は『皇立皇都大学園』である。
しかしこの大学園とやらもここ『学園要塞』では入り口部分でしかない。
本殿には『皇立魔法大学』なる塔のような建造物がそびえ立つ。その脇を固めるように様々な学問所が併設されている。
文字通り、城丸ごと学園であると言える。
余程の酔狂でなければ、城を学問所にしよう等と考えまい。
学園要塞内には畑もあり、帝都へ繋がる橋も一本しかなく、これが落とされれば学園要塞は難攻不落の城塞となる。
事実、学園要塞は守護不入権が認められている。守護不入権とは前世の単語であるが、つまり現世で言う所の自治権である。
そもそも守護じゃないし。混乱する言い方をしてすまなかった。
皇帝ないし皇国への徴税は拒否権があり、独自の法が敷かれ、度を過ぎた者は退学という形で帝都の番兵に引き渡される。
もはや惣村である。豪族か何かである。あるいは高野山のような皇国とは別の独立した国か何かである。
こんな皇族の人間すら入れる高名な学問所である、皇国中から名門貴族から有象無象の金のある貴族達が入学させているのに、徴税しなくて良いとか有り得ないと思う。
否、そもそも教育方針を勝手に決められるとか危ないであろうに。
だが、帝都内の大図書館を凌ぐ程の蔵書量を誇り、城壁の整備などを考えれば高い入学料も頷けるものだし、やはり聞けば教育方針は皇国が口を出せるらしい。そりゃそうか。
……もはやスケールが大きすぎるし、例えが見つからないと言える。
それに一歳下のヴィヴィアーヌが居ない。ロジータも居ない。
もはやここには従者のクラリエルと御付きメイドのオレイユしか居ない。あの騒がし屋の妹がいないとずいぶんと静かなものである。正直驚く。
食事も今までの食事とは違う。当然質も幾ばかりか下がっている。
愚痴しか言っていないようだが、大丈夫だ、お師匠。だから幼少名で言わないで。
我が師である雪斎と出会った善徳寺および京での建仁寺での修行の日々に比べればここはまさに極楽浄土である。
質は幾ばかりか下がってるとか言うが、今まで高すぎただけであり、温かい食事が提供されるし、何よりも掃除しなくて良い!だが自室だけは少しやる。全部やりたいが、オレイユに止められる。
ともかく、寺でのあの修行の日々に比べれば本当にここは涙が出る位極楽浄土である。
「いや、そんな。寝てもいないのに師匠の雪斎の声が聞こえるとか、お主十分精神を病んでおるではないか? しっかり眠るが良い」
そう夢の中で『のぶなが』が言っていた気がするが、私は元気である。うん。
つづく。
次回は9月23日に更新します。




