37.5話 何者なのですか。私の主は?
遅くなったお詫びのものです
その日の暮れ。誰も居ない廊下にて
「なあ。オレイユ。オドレイが言っていたあの本って……」
「私の記憶が正しければ、あの本には『スキル・精神統一』について書かれていた本だったと記憶しております」
マウテリッツとオレイユが、静かに。それでいて深刻そうに会話をしていた。
「肩とももに乗せるとかいうふざけた描写で思い出したぜ。 これでも斉の国の文字は読めるんだが、あの本に書かれている記述が理解できなかった」
「でしょうね。あれはこの国の人間には理解できないと師匠が言っておりました。」
別に読まなくても別の方法で習得できるし。と小さくつぶやくオレイユ。
「……あと、あのガストビ商会のバイラスが持ってた遺物あっただろ。教会の方にツテがあったから調べさせたら、大分不味い奴だったらしい」
「……」
二人は歩きながら、それでいて顔を合わさず、それでいて口も動かさずに歩いている。
刺客や諜報関係の人間が行う技であり、まさか会話しているとは通常では気づきにくい。
「人を洗脳させる魔法が入っていた。可能性が高い。だとよ」
「……あのミシェルという小娘が言っていた状況と一致していますね……」
ミシェルの証言。それはバイラスの遺物を見たオドレイが力を失った。というものである。
「だが、嬢は動いた」
マウテリッツはそう眉間にシワを寄せている。
「……精神統一による精神力の一時的な上昇による無効化。と考えるのが普通ですね」
オレイユは静かに分析し、答える。
「だが問題は、あの遺物は『精神力無効化』も入ってるシロモノだった。らしい」
「えっ」
そのマウテリッツの言葉に、冷静である筈のオレイユは驚いてしまった。足も止まってしまった。
「なんですかその凶悪な遺物は。ならその遺物を見せられたら如何なる者も屈してしまうじゃないですか」
精神力、それは魔法を使う上で重要なものであるとされる。そうでなくとも、メンタルの強さ・スキルの威力にも関わっているとされている。
魔法の効きもその精神力に左右されるとされており、現に殺す気で放ったファイアーボールを無力化させた例が過去に……最近の例だと30年程前……あるにはあった。
その精神力を無効化させる特性を持つ、魔法の遺物……それは即ち文字通り『世界を征服できるアイテム』と言っても過言ではなかった。
それなのに、オドレイは『動いた』のだ。否、『そいつの腕を切り落とした』のだ。しかも『剣の腕は中堅級のミシェルの目を以てしても見えない程の剣裁きで』。
「一体、どんなスキルや契約があればそれを防げるというのですかっ」
「おいどうした。オレイユ、お前らしくもない。落ち着けよ」
珍しく声を荒げたオレイユに、マウテリッツは驚く。
思わず、人気のない小さい通路の方へ連れ込む形でオレイユを誘導する。
「……すみません。過去に仲間が似たような物で死ぬより酷い事になったので……」
「そうか。それならまぁ分からんでもないが、とにかく落ち着けよ」
「申し訳ありません。マウテリッツ様」
オレイユは謝罪を行い、かつ深呼吸を行う。
それを見届けると、マウテリッツは口を開く。
「……正直、一体どんな手を使えばそんな凶悪な代物相手に叩き切る事ができるのか、わからん」
そして一呼吸するように、言う。
「だが、正直、俺はあいつが何者だろうが、どんなスキルや契約を持とうが、俺はお嬢を護りたいし、愛すつもりだ」
それは告白であった。
「俺はお嬢に情が移っちまったんだよ」
そう自嘲するようにマウテリッツは苦笑いを見せる。
だが、その顔は覚悟を感じ取る事ができる表情であった。
「……噂とはまるでちがうのですね。貴方様は」
「ヤキが回ってるんだろうな。 初めてだったさ。 こんな俺が女から顔を褒められるだなんてな」
オレイユの言葉に、そう答えるマウテリッツ。
そんなやり取りをして、再び二人は歩を進める。
オドレイが何故、精神貫通の洗脳を食らっても無事だったのか。それは分からない。正直得体が知れないというのが本音である。
だがそれでも、主人である事。愛する者である事を、二人は決意を新たにしたのであった。
……余談であるが、後日、マウテリッツが配下のメイド(オレイユ)に壁密会をしていた。という噂が城内で出て、ちょっとオドレイの機嫌が悪くなったのは秘密。
そして一部始終をこっそり見てたロジータはオレイユに「二重人格とかそういうオチなんじゃ?」という案を出し、「いや、貴方二重人格者に会った事ないからそんな事言えるのよ」と一蹴されるのも秘密である。
つづく。
次回は9月16日に投稿します




