recorrect 4
というわけで、俺らは問題の村にきていた。
村の中は思ったより荒廃はしていないが……、ところどころにやはり村人らしき石像があり、戦禍を思わせる。
ヴァネッタに連れていかれ、俺らは村の中央の通路を進んでいく。どうやらそこに、相手方のボスが居るようで――。今もなお、戦闘は続けられているらしい。
道が開け、中央に噴水がある。
奥側には頭から蛇をはやした化け物。
「イヅル、絶対に見るなよ。元の身体でもないお前が石化したら、
私でも治せないからな」
と言われて、俺はそれ以上の観察をやめる。
手前に居るのは、全身に白金の鎧を着込んだ兵士。兵士は左腕に手のひらサイズの盾? をつけており、時折それで顔をかばうようにして化け物と戦っていた。
「アイギスの盾、か。しぶちんの国家にしては、なかなか思い切った装備を渡したな」
「そりゃそうですよ。今戦ってるのは、かの英雄、ヒッポタイトですもの」
「さらに心眼持ちで、目を開けずとも相手を察知できる、か。
こりゃあ我々の出番は無さそうだな」
と、そんな話をしている間に。
ヒッポタイトの剣が、ゴルゴンの首を切り落とした。
ゴルゴンは血を吹き出す代わりに、黒い霧となり、風に吹かれてその存在を消していく……。
俺らは、ヒッポタイトに声をかける。
「増援か……? ありがたい」
「そうか? 余裕そうに見えたけど」
「一匹だけならな。なんせやつら、夜になると復活してくる。
キリがないんだ。俺一人で倒すことはできても……殲滅は難しい。
体力的にもしんどくなってきた。ありがたいよ」
「ふむ。退治しても、また生まれる。
……治癒しているのか? たしかに巨大な魔力の蠢きは感じるが……」
「あんたら魔導士だろ。俺には詳しくはわからないけど。
けど、夜になるとこの広場周辺の魔物が多くなる気がするんだ」
「治癒? 再生? ……それとも本物の「召喚」か。
どちらにせよ、現場を見ないことには分からないな」
そして俺らは。
とりあえず安全そうな場所にキャンプをはり、夜を待つことにした。
○
そして夜が深まり。
……人の気配よりも蠢く人外の気配が深くなってきたところで。
「俺ら」は斥候にだされたのだった。
メンバーは俺、そしてヒッポタイト、それからヴァネッタの使い魔である赤い竜、「ベレーくん」である。
「……召喚獣とヒッポタイトは分かりますけど。
俺は石化するんじゃなかったんでしたっけ?」
「うむ。気の持ちようだ。がんばれ!」
なんだか適当だな。
まあいいや、あえて師匠たちを危険な目にあわせる必要もない。
というわけで俺たち3人(?)は、再び村の広場を訪れていた。
……。
数メートル先も見えない、暗闇の中。
不快な空気――なぞの魔力の蠢きを、確かに感じる。
「何も居ないな」
ヒッポタイトのやつは戦士だから鈍いのだろう。この魔力を感知できずに、呑気である。
「気をつけろ。……何かが、生まれてる」
「そうかもしれないが。こう何も見えないのでは……」
その時。
ちらっ、と遠くで紅い光が瞬いたような気がした。
……まるで、巨大な瞳がまばたきをするように。
「ヒッポタイト! 防げ!」
「アイギスの盾!」
持ち主の呼びかけに応じて、盾が全身を包むほど巨大化する。
「赤い瞳」から放たれた無差別の攻撃は、盾以外のすべてに範囲がおよび。
草木。
土。
それに下手したら、空気でさえも。
「こりゃ、石化というより、時間停止だな」
俺は感嘆とともに、つぶやいた。
石化。停止。生きとし生けるもの。死せるもの。巨大な魔力はその概念すら超えて、「存在」すら停止させてしまう。
戦いにすらならないのだから、ある意味で最強とさえいえる。
……。
「おい、どうするんだ!」
盾に身を隠しながら、ヒッポタイトがこちらに問いかける。
「これじゃじり貧だ! 確かに今は有効打がないかもしれない。
けどゴルゴンの群れが襲ってきたら、もう無理だ!
あいつを倒すしか、打開策はないんだ!」
そんなことは。
……わかってる。
「おい! しっかりしろよ!
現実逃避か? 戦うべき相手は目の前だぞ!」
俺は深呼吸をして。
運命?
……。
そんなものがあるなら。
いや、信じたくないが。
そんなクソみたいなもののせいで、苦しみ。メアリィが傷ついたのなら。
俺はそれを受け入れることなどできない。
けれど。
俺がここにきた意味。
魔法が使えなくなってなお、こいつと戦わなければならない意味。
それはきっと必然なのだと思う。
こいつの「時間停止」に対抗できる魔法使いは、この世界で唯一俺だけだろうから。
「ヒッポタイト。俺を「赤い瞳」の近くまで投げてくれ。
そのほうが早い。ああ、俺の逃げ出す方法なんて心配しなくていいぜ。
思い切り、的確に狙ってくれれば」
「お前……、何か策があるのか?
確実なんだろうな?」
うなずいて――、ああ今の俺には頭なんてなかったけど。
ヒッポタイトは何かを察して、俺を持ち上げて。
先の見えない暗闇の中に。
放物線上に俺を投げ込んだ。
その中で、俺はいろんなことを考える。
……少しずつ、分かりかけてきた。
どうして俺がこの世界にきたのか。
どうして俺が移動「できた」のか。
この世界には魔法は5つの属性に分かれるという。
それはつまり、火、水、風、土、……それに空を合わせたものらしい。
俺のだした仮説はこうだ。そしておそらく、間違ってないだろう。
属性魔法は、他にも存在する。
どうして分類されないか? ……それは認識できても、名前がないからだ。名前(定義)のないものは分類しようがない。
俺はそのもう1つの属性を、重力だと考える。
極限まで圧縮された重力は、時空を捻じ曲げ、異世界への転移を可能にする。
俺が得意な魔法は火ではない。もちろん、黒水晶にたよった他の属性でも。
俺自身に宿った、俺だけが使える魔法。重力を操り、時空を司る魔法。俺はその魔法を「零魔法」と名付けることにする。
「キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」
俺の接近に近づいて、紅い瞳が奇声を上げる。
その瞳が開かれると。
膨大な魔力が、俺を石化させようと押し寄せる。
俺はゆっくりと。
魔法の基本は思うことだから。
「グラヴィトン・ゼロ!」
俺の放った魔法は。
「赤い瞳」の時間停止を無力化、俺に放たれた魔力を無効化、さらには生み出されたゴルゴンの動きすら停止させて。
その隙をすかさずに、ヒッポタイトが紅い瞳を切り裂いた。
○
「師匠は、知ってたんですか?」
「ん? なんのことだ」
師匠の表情は、相変わらず仮面越しにはうかがい知ることはできない。
……ぜったい、何かを感づいていたはずだ。
でなきゃ。
「ま、お前のことだ。うまくやるだろうと思っただけさ。
その信頼の源泉を探ろうと思ったことはないよ」
「……ありがとうございます」
「ま、何にせよ。新たな力を手に入れたわけだ」
「言われたからやるけどぉ。気のりしないんですけど」
ヴァネッタは、口をとがらせた。
「なんで私がこんなやつの手伝いなんて」
「ダダをこねるな。今度おいしいスウィーツでもおごってやるからさ」
「本当ですかぁ? でも味覚が音痴だからな。おごりなら許せる……うーむ」
「早くしてもらえませんかい」
「炎の精霊よ!」
ヴァネッタは俺に両手を向けて、印を結ぶ。
すると瓶の中につまっていた粒子は、宙に飛び出し……それは徐々に人型を象っていく。
「リバース!」
続けて俺が叫ぶと。
じゅうううううううううううううううう、と。
俺の身体は元通りになっているようである。
「で、できた……」
「愚かなる弟子よ。まだ油断するでない」
「ま、また何かあるんですか」
「復活といっても、まだ不完全だ。魔力の入れ物に、魔力で蓋をしただけだ。
具体的にいうと、制限がある。
ヴァネッタが常に近くに居て、お前の身体を制御せねばならない。
それにヴァネッタが気を喪ったり死んだりして、コントロールを喪えば――すぐさま体は元通りになってしまう」
「ちょい待って、ということは」
「……そうよ、ついていくわよ。
不承不承。嫌なのはお互い様」
……。
……めんどくせえな。




