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白薔薇はかく語りき4

「久しぶりだな」


 ……俺が振り返ると。

 白いふりふりのワンピースドレスを着た、鉄仮面の女が一人。


 ……。


「師匠!」

「お前、今本気で忘れてただろう」


 いや、そういうわけじゃなくて。

 ……みんな仮面をかぶってたから、周囲に溶け込んでただけだ。


「うちの弟子と、お前の様子を見にやってきたよ。

 その調子だと、だいぶ腕をあげたみたいだな」

「お陰様で」

 俺は笑ってみせる。

「お前に教えた基本も忘れてないか?」

「魔法の基本は「想うこと」。

 忘れてません。大事にしてます」

「そうか。なら、いいんだ」



 そんな風にして、俺と師匠が旧友を温めていると。


「ねえねえお姉さま?

 この人は誰なの?」


 うしろからひょっこりと、紅いドレスを着た女――、いや、少女が顔をのぞかせた。

 白い髪に、白い肌。吸い込むような蒼い瞳。一種の独特な色気がーー。俺はロリコンではないが。


「ああ、こっちは昔の弟子だよ。

 この小さい少女がヴァネッタだ」

「どーも」

 ヴァネッタは、小さく頭を下げる。

「こいつは強いぞ。

 お前でも勝てないかもしれん」

「ええー、お姉さま、いつからお世辞を言うようになったんですか?

 こいつ、ちっとも強そうに見えない。魔法だって基本しか使えないんでしょう?」

「ははは、そういうな。

 お前と同じワイバーン狩りができたのは、こいつだけだよ」


 ヴァネッタはこちらを向き。


「べー、だ」


 と。



 イライライラっ!



 けど落ち着け。俺は大人だ。

 一つ、深呼吸。


「やあ、ヴァネッタちゃん。同じ師匠を持つもの同士、仲良くしようぜ」

「やだ。近寄らないで変態」

「ははは、手厳しいな。初対面の人に対して、そんなことを言っちゃいけないよ」

「変態セクハラじじい。だってさっきから、お姉さまの胸元ばっかり見てる!」


 ……。

 そりゃ俺はロリコンじゃないからな。


「ほら! 否定しないってことは認めたんだ!

 ねえお姉さま、やっぱり男ってこんなのばっかだよ」

「そういうな。お前が教わることも多いはずだ」

 師匠はすこし苦笑して。


「それじゃあな、えっと今は……」

「イヅルです」

「そうか、イヅルと名乗っていたか。

 イヅルもがんばれよ」



 俺は手をふってそれに答える。




 って。


 初戦でいきなりヴァネッタとか。


 ……。

 この大会は見合いの意味もあると、ディティールは語っていた。

 性別が女のヴァネッタは、なにを目標にしているのだろう?

 パスツールは名を上げるためだと言っていたが、同じ様なことだろうか。


 と、俺が思案していると。


「ファイヤーボール!」


 俺の顔面を、火の玉がかすめていく。


 ……。


 間一髪、直撃をまぬがれたのは。

 ひとえに日頃の行いがよかったから。

 ……言い換えれば、偶然にほかならない。


「ちっ、さっさと焼け死ねばよかったのに」

「おいおい、まだゴングも鳴ってないのに、早すぎだろう」

「うるさいうるさい!

 さっさと死ね!」


 少女の放った炎が、俺の視界を遮る。


「エグスプロージョン!」


 それを。

 爆発させて吹き飛ばす。


 少女は目を丸くして、その光景を眺めていた。


「ふーん。魔力だけは、人一倍ってわけね!

 でも魔法の使い方が下手くそ。男はさっさと死んで、私はメアリイお姉さまを取り戻すの!」


 ああ、こいつは馬鹿なんだ。

 男嫌いがこうじて、綺麗どころの女を集めたがる性癖らしい。

 ……まあ、思春期の女子なんてみんなそんなものかもしれないが。



「マグ・カルト!」


 俺が昔のことをぼけーっと、思い起こしていると。

 足元が。

 いや、会場が?

 ぶるりと鳴動し。


 俺の足元が、ぱっくりと割れた!


「エアリアル!」

 俺は風魔法を使い、瞬時に宙に浮いた。


 割れた地面から、真っ赤な溶岩が顔をのぞかせ……、それが一気に吹き出した。



 おいおい。

 なかなかやばいんじゃないの?


「私が本当の魔法の使い方を教えてあげる!」


 おいおい、そんなこと言っていいのかい。

 立派な負けフラグだぜ。


「エグスプロージョン!」


 俺は油断するのと……手を抜くことをやめ、全力で魔法を解き放つ。

 こいつはそんじょそこらの魔法使いじゃない。全力でぶつかるに値する。



 吹き出したマグマを、俺の魔法が吹き飛ばす。

「ディアボロス!」

 今度はこちらが先手。

 最速のレーザーを放つ魔法。俺の右手からに光が集まり、少女の体めがけて一直線に進んでいく。

「炎よ、防いで!」

 ヴァネッタが空中に五芒星を描きーー、その魔法陣が俺のレーザーを吸い取ってしまう。

「フレイム・ウィップ!」

 俺が息をつくのも束の間、こちらへ炎で作られた鞭が向けられる。

 ……それを横に避けようとして、俺の右足が掴まれる。

 一瞬にして衣服が焼かれて。


 ちっっ、めんどくさい。



 1と0を組み上げて。

 有か無いかを。

 続けて。

 魔法が。

 起きるように。



「エグスプロージョン! (連)」


「聖なる火の加護よ、我に力を。

 火炎獣の息吹!」

 ヴァネッタは両手を合わせて、祈るようなポーズを取ると。

 ……。

 おいおい、そんなのありかよ。



 背丈と同じくらいの、「炎でできた竜」を召喚した!


 竜は俺の「エグスプロージョン」を見て取るや、その巨大なアギトを広げ、一口に噛み砕いてしまう。


 ……。

 ま、確かにな。

 いかに強力な魔法でも。

 食われるとは思わねーもんな。


 俺は密かに、竜の胃の中で爆発が続いてくれないかな、と甘い考えを抱いていたが。

 ……。

 ま、そんなことは起こらない。

 おそらく俺の魔法よりも、魔力が込められているのだろう。






 あれ?

 ってことは詰んでない?

 俺の魔法は致命傷を与えられない。

 で。

 終わっちゃうわけ?


 ははは。

 そんなまさか。




 ぐるるるるるるる、と。


 炎の竜の顔が、こちらを向いた。



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