白薔薇はかく語りき3
大会当日。
……。
ルールは簡単、自分の持つ魔法で相手と戦い、相手を降参させたほうの勝ち。生死は問われないが、過度に攻撃的な魔法は禁止。……過度ってなんだ?
「ルールは、この冊子に書いてあるとおりです」
俺は受付をすませ、緑色の女の子から渡された本に、目を通していた。
「仮面武装会に、つき……」
会場は円状になっており、……古代のコロシアムを思わせる。闘技場のまわりに席が設けられ、華美なドレスと仮面を身につけた紳士淑女たちが、優雅にこちらを見下ろしている。
……、なんとも言えず、嫌な気分。
「ね、ねえ。君もこの大会に出るのかい?」
俺に話しかけてきたのは紫色のローブをきた……、気の弱そうな男だった。
「僕はパスツールって言うんだ。東の地方からやってきたんだ」
「へえ、そうかい。がんばってくれ」
と、会話を終わらせてその場を去ろうとする俺。
がしっ。
と、肩をつかれた。
「ね、ねえ、仲良くしようと。
君も初めてなんだろう、この大会に出るの」
「……確かにそうだが、敵と馴れ合うほど暇じゃないんでな」
「僕のことも敵だと思ってくれる?
へ、へへ、へへ、嬉しいな」
別に褒めてないが、パスツールは鼻をかいてみせた。
「あ、そういう意味じゃないんだ。
……この大会じゃ、相棒ってのは大切なんだ。
第一試合の規定はみたかい?」
俺はパラパラと冊子に目を通し。
「……一対多数の試合」
「そう。胸元のタイを狙ってくる。自分以外はみんな敵さ。
ほとんどのやつが、誰かと連合って生き残るんだ」
……。
仮にそうだとしても。
負ける予感はなかったが。
「き、君は強いんだろ?」
「さあ」
「僕と組まないかい」
「……俺のメリットは?」
「ふ、そういうだろうと思ったよ。
僕は……」
パスツールは、俺の頭に指先をあて「メガパス」と魔法を唱えた。
「ラストリアス家の秘密を、君に教えてあげることができる。
もちろん、メアリィさまに関してもね」
「お前……、なにをした」
「待って、殺気立たないで。
僕の目標は優勝さ。けれどメアリィさまが欲しいわけじゃない。
うちの家系は「感作系魔法」。君らの使う「5大魔法」のようなメジャーどころと違って、地位が低いんだ。威力も弱いし。だからこの大会で優勝して、アピールしたい」
イライラするやつだ。
「……そんなことは聞いてない。
俺になにをした?
メアリィに手を出すな」
「な、何もしてないよ!
僕は相手の思考をほんのすこしだけ読めるんだ。
君の思考をすこし、読んだだけさ」
「開場でーす!」
通りから、元気な受付嬢の声が聞こえる。
会話を途中でさえぎられた。
だから俺は。
いいつも、悪いとも言わずに。
「邪魔するなよ」
といって、会場へと向かった。
○
参加人数は10人程度。
周囲を警戒しながら、互いの間を近づけていく。
「インペリアル・クロス!」
最初に口火を切ったのは、風の魔法だった。
中心に風が吹き荒れ、みなが顔を手で庇う。
……。
二人、か。
横目で、自身の魔法で風をさえぎっていつ人間を観察しておく。
一人は水色のフードをかぶった男。……もう一人は、紅いドレスを着た女。
おそらく、俺の相手になるのはこの二人くらいだろう。……、俺に話しかけてきたパスツールのやつは、すみっこでうずくまっている。おいおい、そんな調子で大丈夫か?
「エグスプロージョン!」
俺はいつもの魔法を放つ。中心に生み出された火球は、全身で呼吸をするかのように、膨らみ……いっきに膨張して、爆発四散した。
……。
煙がひいていく。
その後に、平然と立ち尽くすのは。
やはり、俺が目をつけた二人だけが、自身の前に防御壁を展開していた。
「半分以下にふるいおとされましたので!
これにて第一回戦を終わりマース!」
というアナウンスが流れて。
俺は会場を後にする。
通路にて。
「やあ。君も参加することにしたのかい?」
妙にキザったらしい言い回しで。
俺の前に立ちふさがったのは、金髪の上から白い仮面をした男だった。……おそらく、ディティール・ラストリアスだろう。
「メアリィのことが欲しくなった?」
「お前には関係ない」
「ふふ、関係あるさ。今はメアリィは僕のものだ。
君がどうしてもと頭を下げるなら、……譲ってあげてもいいよ。
僕のお古でいいのなら」
「プレドラド……(炎帝の鉄槌)」
「駄目です!」
我を忘れ、魔法を唱えようとした俺の左腕に、誰かがしがみつく。
……パスツールのやつだ。
邪魔だ。
「どけ、お前ごと吹き飛ばすぞ」
「駄目です。ディティールさまは、全ての属性魔法を使えるんです」
「そんなの、俺だって同じだ」
エアリアル、と俺が呟くと。
ディティールの身体を真空が切り刻む。
……はずだった。
ディティールは、悠然と笑ってみせた。
「そう。君は半端な属性魔法を使える。
黒水晶を持っているのが、自分だけと思ったかい」
ディティールが襟元を開けると。
……、そこには、俺が持っているのと同じようなネックレスが。
紅く怪しげな光を放っている。
「決勝で待ってるよ。
もっとも、どの魔道士もそこそこ強い。
半端な魔法じゃ……たとえ相手が単属性だといっても、舐めてかからないほうがいいよ」
ちっ。
その余裕はどこからくるんだ?
○
俺が控え室で仮眠をとっていると。
「や、やはりあなたはすごい人だったんですね」
と、パスツールがやってきた。
「……寝かせてくれ」
「僕も、二回戦に進出になりました」
……ホントかよ。
すみっこでふるえただけじゃなかったっけ?
「あのディティールさまに、食ってかかるなんて」
「あのって言われてもな。……そんなすごいやつなのか?」
「一人でワイバーンを倒したとか、一個師団を全滅させたとか。
護国の英雄と知られたり、魔剣を振り回したり。黒水晶と対をなす、「赤水晶」を持つ稀代の勇者だ、とも言われてますよ」
序盤は俺がやったことのような気がしたが。
……ぜんぜんやってない部分の噂は、おそらくディティール本人がやったことなのだろう。
そして赤水晶、か……。
まったく。
メアリィに会うのも一苦労だぜ。
俺は溜息をついて、身体をのばした。




