嵐が夢3
とりあえず、仮眠を取り。
次の日、俺は村から抜け出せそうな裏道を探す。
主要な出入り口は封鎖。抜け出せそうな場所には、柵が建てられている。
……まぁ、こんなもの。壊してもいいんだけど。
だが、騒ぎをやはり大きくしたくない。
いたずらにことを起こせば、この村にも、むこうの村に迷惑がかかる。
どうしたものか。
と、俺が思案していると。
一人の兵士が、柵の手前でタバコをふかしているのを見つけた。
……。
足元には酒瓶が転がっていたりして。
……なるほど。
昨日の件といい、兵士の士気はそれほど高くないようだ。
物理的にはふさがっているが。
……心理的には、穴があると。
○
「よう兄弟、調子はどうだい」
俺は酒瓶を片手に、兵士に話しかける。
兵士はうろんげに俺を見たがーー、俺の手元にある酒に気づき、表情を緩めた。
「……この辺は立ち入り禁止のはずだが」
「硬いこと言いなさんな。
喉が渇いてるようだから、差し入れを持ってきただけさ」
「頼んだ覚えなどないが」
「村の好意さ。いつも守ってもらってるんだ」
こいつ、疑ってるな?
俺は酒瓶のふたをあけ、一口含んでみせる。
それを見て、安心したのか、兵士もそれに口をつける。
「やってられねえよ」
酒瓶も空になろうかという頃。
兵士の顔は赤く染まっていた。
「俺らの舞台は駐屯が仕事だ。
ってもな、要はかき集めなわけで。この周辺出身者も多い。
顔見知りに強くあたるのは気が引けるし、……ここも戦火にさらされる可能性があると思うと。
……こんなことなら、敵の顔だけ見える前線に居りゃあよかったぜ」
「大変だな。だが、なにをそんなに警戒してる?」
「黒水晶だよ」
ずきり、と。
頭がーー。
「この鉱山から、純度の高い黒水晶が採れたって噂が流れたんだ。
だが真偽は不明。もし本当なら、間違いなく戦争は勃発する。なんせ黒水晶といえば、ひとかけらあれば魔装機兵を10は操れるって話だからな」
なるほど。
現状、その怪しい噂に踊らされているだけだから。
互いに情報が行き来しないように交通を封鎖しているわけか。
おそらく、鉱山には帝国と商業都市の、両方のスパイが潜り込んでいるのだろう。……そこが地獄絵図になっているのは、想像するに難しくない。
「……ここを、通して欲しいんだ」
「ふん、どうせそんなこったろうと思ったぜ」
男は、瓶をひっくり返して、中身がないのを確認した。
「別にいいぜ。ただし、誰にも見つかるなよ。
お前が見つかったら、……俺まで「粛清」されちまう」
「粛清ってのは?」
「魔装機兵にされるってことだよ。
ほら、早くいけよ。俺はここで1時間昼寝をしてたことにする。
そのあいだになんとかしてくれ」
男は酒瓶を枕にして、その場に横になった。
「恩にきる」
それにしても。
魔装機兵とは?
あとで誰かに聞こう。
○
「ありがとうございます!」
俺が持ってきた材料を見て、ミーナは喜色を浮かべる。
ま、それはいい。
……。
だけど、フードも脱いで。
胸元が強調される制服を来て。
……おいおい、おっさんどもにちやほやされて。
お前自分の立場を忘れてねーか?
完全にいち店員になりきってませんか?
「……お前なあ」
「な、なんです。真面目に働いてたじゃないですか」
「働きすぎだ!」
「うう、なんで怒られるんだろ」
しゅん、とうなだれるミーナ。
まあ、いい。
「必要なものは揃ったろ。
さ、早く作ってくれ。時間がないんだ」
「その、非常に言いづらいんですが」
なんだ、まだ必要なものがあるのか?
「言え」
「作ってすぐ飲まないと、効果がないんです。
そのお方、だいぶひどいようですし。
煎じてすぐに処方しないと……。そのために私たち、現地に来ているわけですし」
「なんと!」
そんな後出しルールがあったとはな。
つまりこの……、なんていうか、……こいつを連れて同じことをせにゃならんわけか。
ひっじょーーーーに。
めんどくさいし、難解である。
「う……わかります。わかりますよ、言いたいことは。
でもしょうがないじゃないですか!」
逆ギレ気味に、ニーナがこたえる。
「俺に作り方を教えてくれ。俺が作る」
「はいはい……って、できるわけないでしょ!
そんな簡単なものじゃないですよ……」
「だよなぁ」
俺とミーナがドナータ村へ帰る方法を模索して、頭をひねっていると。
「マスター! 店を閉めろ!
商業都市のやつらがきたぞ!」
いきなり、店に男がやってくる。
「……どういうことだ?」
「ええとですね、小競り合いが起きるってことじゃないでしょうか。
たぶん帝国に因縁をつけたんでしょうね。ことが起きずにじれったいのは、どっちも同じはずだから。……向こうの指揮官に気が短いのがいたみたいで」
ふむ。
……。
チャンスだな。
「行くぞ」
「え? 危ないんじゃ……」
「馬鹿、今ならたしょうの異変は見逃される。
今しかない」
俺は椅子にかけられてたフードを、ミーナに投げてやる。
「わふ」
「それ、上に羽織っておけ」
「はい。……どうして?」
胸元が気になって集中できないからだよ。俺が。
○
「敵襲だ!」
俺は叫び、松明を野原に投げ込む。
……人が居たら、すまん。
「レイ・ウィンド!」
俺のはなった魔法が、松明の火を上空に巻き上げーー。
さも火災が起きたように見せかける。
「敵はどこだ!」「あっちに行ったぞ」「こんな街中で火を使うだと!」
遠くから、甲冑を着込んだ兵士たちが、駆けつけてくる。
俺はそれを横目に、住宅地の裏道へと逃げ込む。
おそらく、穴があるとしたら。
昼間の抜け道に違いない。
ガードが薄いってことは、敵に見つかりにくいってことだから。
俺が指揮官なら、あそこの余分な兵力を割かない。
そう思い、駆け出す。
「ぜえ、ぜええ、ディティさん。……すこし、はやいです」
うしろで息絶えだえになりながら、ミーナがついてくる。
「急げ。こんなチャンス二度とないぞ」
「私ってば運動は門外漢で……。
子供のころから体力なかったし……」
揺れる胸元を見て、何かを納得してしまう俺である。
そうしてる間に。
俺とミーナは昼の抜け道に行き当たる。
……周囲を確認して。
誰もいないことを。
いや、居た。
遠目から居ると、男のようだった。
武装はしていない。……左手に鉄鋼の小手をはめている以外は。
男の顔が、こちらを向いた。
俺は思わず、後ずさる。
顔面に血管が浮いている。視線はたえまなく泳いでいる。……けれどその表情は笑みを浮かべている。とても、幸せそうに。
「なんだあれは!」
「……魔装機兵のできそこない、ですね」
「魔装機兵を知らん」
「ええとーー。改造人間みたいなものです。
黒水晶、もしくはブースターを体内に埋め込んだ、人工の魔法使い。
適応者には無類の魔力を与えますが……、大抵はあんな風になっちゃいます。
送られる魔力と、コントロールの力が釣り合わず、廃人に」
男の視線が、こちらを向いた。
……。
あれが粛清ってやつか?
もしこの男が昼間のやつだとしたら。
申し訳ないことをしたな。
「あいつは危険だって認識でいいんだな?」
「おそらく。理性が残ってるとは思えませんが……」
「○✖gggg」
足元が、ぐらりと揺れる。
俺はとっさに、ミーナをかばって、後ろに飛びずさる。
俺が居た場所には、地面が隆起し、地形が変わっている。
勝てない相手ではない。
……だが、ここで余計に時間を食えば、兵隊たちが駆けつけるだろう。
「逃げるぞ!」
「はい!」
「レイ・ウィンド!」
俺の放った突風が、男の体勢を崩す。
……が、完全には崩しきれない。
理性がないぶん、筋力もアップしているのだろう。
あちらこちらから血を噴き出しながら、男が口を開くーー。
「トルネど(風よ、凪げ)!」
俺は風魔法で追撃する。
今度は横ではなく、縦横無尽に吹き狂う竜巻である。男は為すすべもなく、体勢を崩し、その場に倒れる。
俺とミーナは脇を通り抜け、村の外へと走り出た。
ふむ、なるほど。風魔法は威力は低いが、発動時間が長く、重ねがけが可能、と。
……俺は心のメモ帳にそっと走り書きをする。




