自由へ道連れ
-しばらくしてジュンは何食わぬ顔で帰ってきた。
「おかえりなさいませ、ジュンさん!」
子分達が頭を下げる。
子分達の大きい声を林檎は自身の部屋で聞きながらタバコに火をつける。
しばらくすると、何やら廊下で徳永とジュンが話している。
「徳永さん、総長のスケジュールを知りたいんですけど」
「どうしたいきなり。総長に話でもあんのか?」
「頼みたいことがあるんですよ。」
「お前・・・総長をこき使う気じゃねえだろうな?」
徳永の眉間にシワが寄る。
「ちょっと、そんなわけないじゃないですか。そんなことじゃないですよ。
もっと簡単なことです。簡単だけど、俺にとっても総長にとっても大事な話なんです」
その言葉で徳永もなんとなく内容を察する。
「・・・お前な、まだ浅いよ。あせぇ。その歳で色々考えてるつもりだろうが、
この世界はその年齢じゃ生きていけねぇ。分かってなかったのか?」
「俺は年齢なんて関係ないと思ってます」
「その言葉があせぇっつってんだよ。考え直せ、出直してこい。」
「・・・・」
「出直してこいって言っても、1日2日の話じゃねぇぞ。
後10年生き延びて見せろ。話はそれからだ」
そう言い残して徳永は自分の部屋に歩き始める。
自身の部屋のドアを少し開け、話を聞いていた林檎は何かを思いつめるように1点を見つめる。
今ジュンが総長にしようとしている話は、"計画"の事ではなく私の事だろう。
総長に話し、断られたらあの"計画"を進めようと言う考えなのだろう。
ジュンは本当に青い。
徳永の言っていることは全て的を得ていると思った。
ただ、ジュンの性格からしてこの回答では納得がいっていないだろう。
いざと言う時に感情を抑えきれない奴ほどヤクザには向いていない。
林檎はこの日にある覚悟を決めたのだった。
その日からジュンは組に帰って来なくなった。
冷静になろうとして出ていっているなら良いが、
あらぬ"計画"を進めている可能性もある。
ジュンの"計画"は100%成功しないだろう。
だが人を殺す事は誰にだって出来る。
どれだけ経験を積んでいても、死ぬ事だって容易いのだ。
気づいたら林檎はドンドンとドアを叩いていた。
「ヤス、起きてるか?話を聞いてくれ」
-返事はない。
2,3日前にここに来た時も返事がなかった。
組の幹部の部屋には全て鍵が付いているので、開けることは本人しかできない。
この日もきちんと錠はかかっていた。
嫌な予感がした林檎は急いでコートを羽織り始めた。
早歩きで廊下を歩く林檎を、廊下の奥から徳永が見つける。
林檎の雰囲気がいつもと違う事に気づいたのだ。
「おい、林檎。どうした」
林檎の肩を引き寄せる。
「ヤスがいないんだ、2,3日前にもドアをノックしたのに返事がない。」
林檎は珍しく曇った顔をして言う。
その表情を見た徳永は一瞬うろたえる。
「・・・心当たりはない訳じゃない。
準備が必要だ、子分も連れて行け」
それを聞いて林檎もハッと気づく。
まさかジュンの"計画"に関係があるのではないか。
「・・・総長のスケジュールは?」
今まで総長のスケジュールなんて気にしたことがなかった林檎が呟く。
徳永はそれを聞き、黙って総長の部屋に向かう。
林檎は徳永の後を歩きながら、太ももに付けた銃に弾をこめる。
コンコン、と徳永がノックをする。
総長の部屋だ。
「徳永か、入れ」
中で総長の声がし、徳永がドアを開ける。
「失礼します」
林檎はドアの横で止まっている。
「おう。・・・林檎もいるのか。入れよ」
さすが総長だ、視界に入らなくても分かっている。
黙って林檎も部屋に入る。
「どうした、二人とも顔が暗いな」
口に出さずとも、徳永と林檎の想いは同じだった。
総長には迷惑をかけたくない。
心配もして欲しくなかった。
黙る徳永に、林檎が口を開く。
「ヤスとジュンがいないんだ。組を開けるから総長のスケジュールを教えて欲しい」
「おう・・・そうみたいだな。」
部屋から出ていないはずの総長は分かりきったような口調で言う。
「俺は明日、荘子の見舞いに行ってくる」
荘子組の総長、荘子は一命を取りとめたらしい。
むしろ、総長は荘子を殺す気ではなかったのかもしれない。
ただ荘子は総長にとって永遠のライバルだ、味方になることはない。
常に気性が荒い荘子は病院でも何をしでかすか分からない。
「は!?なんであんな奴の見舞いに行くんだよ!」
林檎が声を荒げる。
「総長、寿命を縮めるだけですよ」
徳永が言う。
「俺に寿命なんかねーよ」
総長はそう笑う。
「お前、私にあれだけ、・・・」
私にあれだけ言っておいて、そんなの自分で死期を縮めているだけじゃないか。
そう言おうとして林檎は口をつぐんだ。
「運命は運命だ、俺が死んだらそれは既に決まっていたことなんだよ。
大丈夫、ジュンとヤスを探しに行くんだろ?見舞いくらいどうってことないさ。行ってこいよ。」
そこで林檎は気づいた。
もしかして私が総長より先に死ぬのが怖くて、
死期を探しているのではないかと。
実はその恐怖が自分が死ぬ事より怖く、
早く死にたいと思っているのではないかと。
「このヘタレがぁ・・・」
林檎は誰にも聞こえないような小声で呟く。
何かを察したのか察していないのか分からないが、徳永が口を開いた。
「そりゃあ総長が死んだ時は死んだ時です。
でも俺は尊敬できるような、綺麗な死に方を総長にはして欲しいです。
きったない死に方になるような道に歩み寄ってもらっては困ります。」
林檎は自分が言いたいことの何割かを徳永に代弁してもらったような気がして、
ハッとして徳永を見る。
「おいおい、待てよ。荘子がそんなにこえーのか?俺はそんなことじゃ死なねえよ、アホか」
確かにそう言われてみれば、ビクビクしすぎていたのは自分たちかもしれない。
と徳永と林檎は思った。
「ジュンとヤスがいれば一人ぐらい幹部を付けたのに・・・」
徳永は悔しそうに言う。
それを見て林檎が言う。
「いいよ、ジュンとヤスは私が探すから。徳永は総長に付いていけ」
それを聞いて徳永は慌てる。
「おい、それは危険だ。あの二人だって他の組に人質に取られてる可能性だってあるんだぞ。」
「分かってるよ。」
その二人のやりとりを聞いて、総長は1点を見つめる。
「うちの子分が数人いれば大丈夫だ。うまくやるよ」
林檎は今まで戦いで負けたことがない。
更に林檎は頭も冴えている。負ける戦はハナからしないだろう。
何か勝算があるのだろうと考えた徳永は渋々承諾した。
今は総長を一人で行かせる方が心配だ。
荘子とのやりとりで何か裏がある可能性もある。
俺が仲介すべきだ。
徳永も色々な覚悟を決めたのだった。




