94.お祭り
「よっ!レクト。一緒に広場でやってる祭りにいこうぜ。」
「カイトさん?いきなりどうしたんですか?」
あれから2週間が経ち、夏の長期休暇はいよいよ終わりに差し掛かっている。
そんな中いつも通り依頼をこなして帰ってきた僕に、手を振りながらカイトさんが話しかけてきた。
「いやー、長期休暇なのにそれっぽいことひとつもしてないなって思ってな。
あ、アートも一緒だぞ。」
「そういうことなら……」
最近は依頼ばかりでなかなか休んでなかったから、案外ちょうどいいのかもしれない。
……それにまだ、お兄ちゃんにあのこと話せてないし。
「それじゃそういうことで。
俺はアートを呼んでくるからすぐに出れるように準備しておけよ〜。」
「はーい。」
その後お兄ちゃんが来ると、僕達はお祭りへ出発した。
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広場に着いた時、僕は思わず感嘆の声を上げる。
「す、すごい……」
「流石王都のお祭りだな。」
「ま、こんくらいは当然だろ。」
広場には屋台が並び、あちらこちらが輝くカラフルな装飾で飾られている。
僕達が着いた時にはすでに遅い時間帯だったのにも関わらず、屋台は人で溢れていた。
「とりあえず一緒に回ろうぜ。どっか行きたいところはあるか?」
「僕はないな。レクトは?」
「うーん……じゃあ、射的に行ってみたい!」
実は僕自身はお祭りが初めての経験なのだ。
お祭りについてはメモの記憶でなんとなくは知っているが、せっかくなら自分でめいいっぱい楽しみたい。
「シャテキ、かぁ……ま、レクトなら問題ないか。」
「そうだな、レクトほどの実力があれば怪我することなく楽しめるだろう。」
(ん?射的って怪我するような要素あったっけ?)
お兄ちゃん達の不穏な言葉に疑問を覚えたりもしたが、メモの記憶によれば安全な屋台のはずなので、まあ大丈夫だろう。
「それじゃ、出発!」
「レクトー、そっちじゃないぞ。」
こうして僕は人混みの中をはぐれないようにと3人で手を繋いで歩きだす。
こうやって3人で動くのも久々だったので、少し懐かしく感じた。
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「ほら、着いたぞレクト。」
「おお!これが射的………シャ、シャテキ?」
「そうだぞ、これが射敵だ。」
着いたのは"射敵"と書かれた看板を掲げる屋台。
だが、僕の想像していた射的とは少し––––いや、かなり違う光景が広がっていた。
『オラァ!火球!』
『風刃!っやっぱり簡単には倒れてくれないわね……!』
行われているのはどちらとも一歩も引かない魔法戦。
今のところは女の魔法使いが一歩リードして相手の出方を伺っているといったところ……
「って、そうじゃなくて!これ、なんなの!?」
「ん?レクトが来たがっていた射敵だろう?
言い換えれば物を賭けた魔法戦だな。」
「ほら、この宝石でやってこい。宝石の代金はお前の兄に請求しとくから。」
「……この世界の射敵って、一文字違うだけなのにこんな物騒なものなんだ……」
つまりここは自分のお金か所持品を賭けて戦い、勝った方が負けた側の賭けたものを全て貰えるという、一種の賭場らしい。
……来たいと言ったのは僕なのだが、明らかにここは子供が来るようなところではない気がする。
だって周り見ても僕しか子供がいないもん。
「ほらレクト、空きができたぞ。頑張ってこい!」
「お兄ちゃん、ここで応援してるからな!」
(うっ、ここまで言われると今更やっぱりいいやとは言えないし……)
「わ、わかった。行ってくるね……」
言われた通りに屋台に設置されている結界で囲まれたステージに足を踏み入れると、周りでどよめきが起こる。
『おい、なんだあの子供?』
『さあ?迷子じゃないか?』
『おい!?次の相手は冒険者の中でも上位の狂人である、【血狂い】のザグラだぞ!?
いたぶるのが趣味らしいし、助けに行かないとあの子供死ぬんじゃ……』
ステージに上がり、とりあえず賭けるための宝石を時空バッグから取り出そうとする。
しかしそれより先に、前から僕の2倍はあるんじゃないかと錯覚するほどの大男が歩いてきた。
「坊主、ステージに立ったってことは、戦いに来たってことでいいんだよな?」
「––––?はい、そうです。」
そう言うと大男は嬉しそうに顔を歪め、鍛えぬかれた拳を『ガンガン』鳴らしながら言った。
「よぉし、なら参加費はいらねぇよ!
もし坊主が勝ったら今ここで、俺が今持っているもの全てをお前にやろう。もちろん坊主は何も払わなくていいぜ!」
「わかりました、それでお願いします?」
勝手に出てきて勝手に条件を決められたわけだが、別にこっちにはなんの不利益もないので了承する。
なぜこんな条件を出したのかは謎だが……
「僕が子供だからかな?」
[……ある意味ではそうでないでしょうか。]
メモは何か呆れていたようだったが、どうせそういう時は考えても理由なんてわからない。
ともかく、勝てばいいのだ。
「それでは両者合意の上なので、これより"射敵"を開始します!では、始めっ!」
「写鏡!」
「まずは一発目––––っな!?」
まず使える全ての身体強化系統の魔法を使い、強化された身体で相手の拳をスレスレでかわす。
そしてそのままの流れで懐に入り込むと、挨拶代わりの一撃を放った。
(まずは小手調べ––––)
「グファ!?」
「––––え?」
相手は思ったより吹き飛ばされ、結界に叩きつけられて動かなくなる。
さすがに演技だよね?とまだ警戒を続けていると、審判が宣言した。
「この勝負、レクトの勝ち!次の挑戦者はいませんかー!」
「……え?」
『おい、あの子供なら行けるんじゃないか?』
『よし、俺の全財産でぶっ飛ばしてやるよ!』
状況理解が追いついていない本人を置いて、観衆は煽り煽られヒートアップしていく。
(お祭りって、こんな物騒なものだったんだね……)
[レクトがおかしいだけですよ。]
その後レクトへの挑戦者は列をなして押しかけ、解放されたのは30分後のことだった。




