61.五代名家
「……なんでしょうか?」
面倒だと思いつつも振り返ると、護衛らしき男と、僕より少し大きいくらいの茶髪の少年が、小馬鹿にするような表情でこちらを見下ろしてきていた。
(うわっ、絶対に面倒なやつじゃん……)
「見たことない顔だが、どこの家のものだ?」
「……人に素性を聞くのであれば自分から名乗るのが礼儀だと思いますよ。」
その小馬鹿にしたような表情にムカついて、僕は少し棘を含んで言い返す。
相手はその言葉の意味を一瞬理解できなかったようだが、すぐに理解したのか顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。
「な、お前、カタヤル侯爵家の天才。
この俺、アウルを知らないのか!」
「はい、全く存じ上げておりませんが?」
アウルはその言葉を聞きさらに顔を真っ赤にして、今にも掴みかかってきそうなほどの殺気を放ってくる。
(そんな怒られたって、僕はこんな奴のこと知らないものは知らないんだけど……)
[カタヤル伯爵家は貴族の五代名家の内の一つですよ?]
(え、五代名家にカタヤルなんてあったっけ?)
貴族五代名家は貴族の中で特に影響力を持つ五つの家門のことであり、僕でもメモの補助なしでいくつかの家を答えられるレベルでは有名だ。
(カタヤル侯爵家ってどんな家門?)
[カタヤル侯爵家は火の魔法に優れた魔法師を代々輩出する家門で、過去に王都に襲いかかった災害龍を焼き払ったエピソードが有名です。]
(あー、確かにそんなのあったかも!)
「おい、聞いてるのか!」
そうしてメモと話していると、我慢の限界がきたのかアウルがこちらに向かってズカズカと歩いてくる。
「えーっと、なんでしたっけ?」
「だ、か、ら!
どこの家かは知らないが、ここまで私を侮辱した報いとして私と決闘しろ!
勝ったら今までの非礼を全て許してやるが、負けたら俺に地べたに手をつけて謝ってもらうぞ!」
「……え、嫌ですけど?」
「な!?」
何を驚いているのかは知らないが、こんなものを受ける奴はバカだろう。
「だって無礼を働いた覚えもないですし……こちらになんのメリットもないじゃないですか。」
「ぐっ……だ、だが、今ここで謝っておかないと後で後悔することになるぞ!」
「どうしてですか?」
「そ、それはだな……」
明らかに目が泳いでいるし、おそらく受けても受けなくても問題はないのだろう。
だが断ろうとした時、頭の中でメモが話しかけてきた。
[パパッと勝ってしまっても良いのではないですか?]
(ん?それはどうして?)
[ここで勝負を流して、後でイチャモンを付けられるのも面倒でしょう?]
(……確かに一理あるかも。面倒だけどしょうがないかぁ。)
視線をアウルに戻すと、仕方なく決闘を受ける。
「わかりました。
でもその代わり、後ろの護衛?の男の人は参加させないでくださいね?」
「そんなのは当たり前だろう!」
そうして決闘の話がまとまりかけた時、突如アウルの頭に木刀がお見舞いされる。
「この、馬鹿!」
「ガハッ!?」
「……え?」
状況がのみ込めず目をパチパチとさせていると、アウルの背後から見覚えのある桃髪の少女が現れた。
「アウル……あんたは何をやっているのかしら?」
「ふ、不意打ちなんて卑怯だぞレミー!」
「たった今権力を振りかざして強制的に決闘を行わせようとしていた人にだけは言われたくないわね。」
「ぐっ、そ、それは……」
本人にも自覚があったのか、アウルは罰が悪そうに視線を逸らす。
「まあ、こんな奴のことは置いといて–––––––怪我はない?
……ってレクト!?」
乱入してきた桃髪の少女はこちらを振り返った瞬間、信じられないものを見たような表情で固まった。




