第626話:ナディアのお世話
「マミヤ殿〜♡ ほらぁ、こっちこっち!
もっとお姉ちゃんに甘えてくれっ!」
「いやーはは…。アンタの体温べらぼうに高いんで、もう勘弁してください…」
時は戻る。
ひとまず豹変したナディアさんは、俺に引っ付かせたまま、リビングに落ち着かせた。
全然落ち着いてないけど。
「まさか私が買ったお薬を、ナディアが調味料と間違えちゃうなんてね…」
「瓶のデザインや中身までそっくりだからな。
ラベルが無いんじゃ、あれは分かんねえよ…」
改めて状況を整理してみると、今回は不運な事故という他ならない。
ナディアさんの買い物リストのなかに、今日フレイが買ってきた正直薬と外見が非常に似ている調味料が含まれていたのだ。
俺とフレイがそれに気づいた時には…もう遅かった。
「どうするレイト? 私、もう一回あのおじさんの店に行って、治せるかどうか聞いてきてみる?」
「いや、この時間だと市場がそろそろ閉まる。
露店も撤収してるだろうし、明日にしようぜ」
「そっか…うーん、困ったわね」
先ほどはフレイと罪のなすりつけ合いをしていたが、責任の一端を彼女も感じ始めてきたのか、表情を暗く曇らせた。
一応、薬の効能と使用方法が書かれた書類は一緒に貰ってきているが、今のナディアさんのクソ甘々ネキになるような旨はいっさい記載されていない。
恐らく、ミネストローネと合わさって変な効能が発生したのかもしれないな。
「そういえばレイトもあの薬入ったスープ口にしたのよね? あんたは平気なの?」
ふとフレイが聞いてきた。
たしかに、思いきり飲み込んじまったけど。
「俺は大丈夫。それより問題はナディアさんだ。
早く元の状態に戻してやらねえと可哀想だろ」
「そうね。ナディアは悪くないもんね」
「ちげえよ。俺がだよ」
「え?」
フレイが疑問符を浮かべると同時に、むにゅ…と、柔らかい感触が頭に乗せられた。
「ああっ!? ナディア、あんたまた…」
「む〜! 他の子とばかり話して!
弟はぁ、お姉ちゃんをもっと構ってやらないとダメなんだぞ!」
ボウッ!
感触の正体がなんだったのか確かめる前に、俺の頭髪はチリチリパーマヘアと化した。
「ほらね」
「な、なるほど…」
☆☆☆
「……というわけで、今日のナディアさんは俺の『姉貴』ってことになりました。各々、そのつもりで彼女に対応してくれ」
「「「………」」」
旅団メンバー全員が帰ってきたその日の夜 (オズベルクのおっさんだけまだ帰ってきてない)。
俺はリビングにて、フレイと一緒に今回の事案をみんなへ伝えた。
「いろいろと疑問は山ほどあるが…これだけは聞いておく。今夜の夕飯は無いのか?」
最初にルカが質問してきた。
穀潰しのヒモみたいな発言しやがって。
「作ってあるのはミネストローネだけだ。
…って、当たり前だけどそれは食うなよ!?」
「なんだと!? せっかく零人の世界の料理なのに…」
「安心しなァ、蒼の姉さん。オレが全員分のメシテキトーに作ってきてやらァ」
のっしのっしと、リックが部屋をあとにした。
そっか、アイツも料理できるっけな。
ひとまず晩メシはリックに任せよう。
「えっと…ちょっと確認なんですけど、フレデリカさんが買ってきたというお薬は、本当に認可済の物だったんですか?」
次にシルヴィアが質問。
さっき軽く彼女にも診察してもらったが、今のナディアさんは病気や呪いの類の状態じゃないため、専門外だと言われてしまった。
「一応、書類にはそれらしき判子は押されてっけど」
シルヴィアに処方せんを渡す。
「ふむ…たしかに。となると、やはりお鍋のスープ自体に原因があるようですね」
「それは俺も同意見だが、今はナディアさんの「お姉ちゃん!」あ、はい。お姉ちゃん。…の、お世話について相談したいんだよ」
グイグイと身体を引っ付けてくるナディアさんを宥め、みんなに訴える。
ナディアさんを治す云々を考えるのは、最悪明日でもいい。
目下の問題は、今日いつまで俺はナディアさんの『弟』を演じなきゃいけないのかだ。
「相談もなにも…ナディア嬢がそれだけレイトにくっついてるんだったら、お前しかできないんじゃないのか?」
テオがさも当然のように言ってきた。
なんて非情な奴なんだ。
俺が照り焼き零人になっても良いってのか。
「テオ君、そんなつれないこと言うなよー。
同じ貴族だろ? それにいかにも『弟』って感じの風貌なんだし…お前が引き取ってくれよ」
「後半遠回しにちびっ子扱いしてないか!?」
テオがダメなら誰か他の女性陣…そう言って、メンバーを見回すと、モネが首を振った。
「うーん、それは諦めた方がいいよマミヤ君。
今この人、キミから離すととんでもない不幸に見舞われるって『星』が教えてきたよ」
「不幸ならもう既に何発か食らってんだけど」
「それくらいは茶飯事の範疇でしょ?」
「なわけねえだろ! お前ら帰ってくるまで何回火あぶりにされたと思ってんだ!」
くうぅ…! 薄情者どもめ!
やはり俺がお世話するしかないのか!
「…ちょっと待ってレイト。あんた、今日どこで寝るつもり?」
フレイが訝しげに聞いてくる。
もちろんそんなの自室に決まって…あっ!?
「まさかウォルトも寝床に入れるつもりか!?
ダ、ダメだ! あれは私と零人のベッドだぞ!」
「ルカ子はいつもいつもマー坊を独り占めし過ぎだよ! たまにはワタシの部屋でもいいじゃん!」
食いしん坊のルカとカーティスが抗議の声を揃ってあげる。
二人ともまったくもって論点がズレてる。
「そういう問題じゃねえだろ!
えっと…お姉ちゃん! 一人で寝れますよね!?」
この状態で夜を過ごすってことは、ナディアさんと同衾しなきゃならんってことになる!
風紀的に非常によくありません!
「マミヤ殿、お姉ちゃんのことキライ…?」
「えっ!? 別に嫌いじゃないですけど…」
「ウソだ! お姉ちゃんのこと嫌いになったんだ!
だから一人で寝ろだなんて、そんな酷いことが言えるんだっ!」
わーっと、膝を抱えて泣いてしまった。
あ、あのナディアさんがここまで泣き虫になるとは…。
「レイト君、ひどいニャー。今夜くらい一緒に寝てやってもバチは当たらないと思うけどニャ?」
「そうは言うがなセリーヌ。今のこの調子だと、明日目覚めたら、俺が火葬済みの骨になってるかもしれないんだぞ」
「安心してください。神の僕である聖教士として、私が責任もって壺に入れてあげますから」
「なんでみんな今日こんな冷たいの!?」
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
お姉ちゃんナディアの世話は零人にしかできません。
何気に久しぶりに蒼の旅団が全員集合しましたね笑
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




