第624話:正直薬
言葉ってやつは、シンプルなものだ。
心の中で唱えたイメージを形に為し、目の前の相手へ口頭や文面で伝える。
それを交互に何度も繰り返し、時には片方が一方的に喋りたおすこともある。
『会話』…たったそれだけの行為。
生き物が生きていくのに、本来はそんな面倒なことをわざわざやる必要は無い。
けど、『人間』にとって言葉は生活を送る上で必要不可欠だ。
人が今日まで繁栄してこれたのには、言葉という魔法のツールがあってこそ。
だが、そいつは万能じゃない。
思いがけず、相手を悲しませたり、怒らせたりさせてしまう時もあるからだ。
言葉には、必ず責任が付きまとう。
そう、責任が…
「マミヤどの〜♡ お腹は空いていないかぁ?
あ! そうか分かったぞ〜、おネムなのだな!
ふふ…任せろ、『お姉ちゃん』が一緒に添い寝してあげるぞぉ」
「………」
俺の頭を、クシャクシャに撫でまくる赤髪の女性。
マミヤ邸の番人、ナディア・ウォルトさん。
王国警備隊に所属する、正真正銘の保安官。
昔は冒険者もやっていた凄腕の重騎士だ。
縁あって、ウチの給仕係となっている彼女だが…今のナディアさんはひと味もふた味も、ひゃく味も違っている。
「だー!! もういい加減離れなさいってば!
どうすんのよレイト! 早く戻しなさいよ!
こうなったのはアンタのせいでしょ!」
「んだと!? いつもいつも俺のせいにして…!
元はと言えばお前が露店で変なもん買ってきたからだろうが!」
「こんな効果があるなんて知らなかったわよ!
ていうかきっかけはアンタでしょうが!
男なら潔く非を認めて治しなさいよ!」
「てめぇこそゴリラならゴリラらしく、野山にでも行ってバナナなり薬草なり早く持ってこいよ!」
「いつまでゴリラ言うのよ! ぶっ飛ばすわよ!」
俺と口論をしている相手は、毎度おなじみフレデリカ・シュバルツァー。
俺たち3人がいるこの場所は、マミヤ邸の厨房だ。
そこで、今回のトラブルが起こった。
☆☆☆
「お塩と、卵と…うん、オーケー。
これで全部ね。会計しましょレイト」
「おう」
30分ほど前。
俺はフレイと一緒に、青天市場へ買い物に来ていた。
今日は俺とフレイの仕事が早く終わったので、ひと足先に家へ帰ったところ、ナディアさんからおつかいを頼まれたのだ。
「よっ、そこの若いご両人っ!
良ければあっしの商品も見ていってくだせぇ」
「「!」」
この市場は、大通りに露店タイプの商店が軒を連ねる活気あるエリアだ。
当然客引きも激しいわけだが…今声をかけられたお店は、暗幕で覆われた怪しげな雰囲気。
明らかにうさんくさい。
なんなら、店員のオッサンもうさんくさい。
「無視だ無視。ほら、とっとと行こ…」
「レイト、ちょっと覗いてみましょうよ」
「あっ、ちょ! フレイ!?」
ところが、フレイは吸い寄せられるように、お店へ入って行ってしまった。
ああもう、何やってんだアイツ。
早く帰ってゆっくりしたいのに。
「ここは…お薬屋さんかしら。あなた薬剤士なの?」
「へえ、お嬢さん。その通りでこざいやす。
しかし、あっしの作る『薬』は他の店の物とちょいと違いまさぁ」
店主とコンタクトまで取り始めた。
ハア…もう冷やかしもできねーじゃんか。
「どう違うんだ、おっちゃん?」
仕方なく俺も店へ入る。
店主はニヤリと笑うと、プレゼンを始めた。
「あっしの作る薬は、怪我や病気の治癒を目的としていません。主に『娯楽』でさぁ」
「フレイ。帰るぞ」
「決断早くない!?」
ギョッと目を開くフレイ。
んなもん当たり前だ!
娯楽が目的…ってことは、快楽をもたらす危ないクスリってなんじゃん!
関わっちゃダメだ、早く店から出よう!
「まあまあ、旦那。娯楽なんて言いやしたが、誓って違法性はございやせん。
なんなら、お上から認められた認定書もありやすぜ」
「む…」
店主はそう言って、額縁に入れられたそれっぽい書状を見せてきた。
うーん、でもなぁ…薬には苦い経験がなぁ。
「いいじゃないレイト。ほら、ハルートだってタバコ吸ってるんだし、これだってそんな危険な物じゃないわよきっと」
フレイがグイグイ押してくる。
「嗜好品と同列に並べられてもな…。
だいたい、なんでお前がそこまで興味あるんだよ?」
「べ、別に? ラムジーと会った時とか、ちょっとした遊び道具にでもなればなーって…」
「お前はあんな気弱な女の子に何やらせようとしてんだ!?」
ラムジーとは、フレイの幼なじみ。
ここの店主と同じく、職業は薬剤士だ。
ものすごく良い子で、とてもフレイの親友とは思えないくらい温厚な性格だ。
「なるほど。そういった目的でしたら、是非ともあっしに任せてくだせぇ。それじゃあ…コイツなんかいかがでしょう?」
すると店主は戸棚からひとつ、小瓶を取り出し、カウンターにコトンと置いた。
透明感のある、赤い液体が入っている。
「おじさん、これは?」
「『正直薬』という物でさぁ。このお薬を服用すると、ちょいとばかし素直になるんです」
「「すなお?」」
おっと、揃ってオウム返ししちまった。
「簡単に言うと『お喋り』になるんでさぁ。
いつもなら聞けない、あんな事やこんな事も快く答えてくれるでしょう。
コレをお友達とのご遊戯に持ち込めば、盛り上がること間違いなしですぜ」
「…なるほど。ちょっとした罰ゲームに使えるってことか」
言い方は悪いが、要は自白剤みたいなものか。
店主のプレゼンが本当なら、パーティーや合コンなんかに持っていけば、たしかにウケそうだ。
でも値段は…それなりにお高いな。
うーん、別に今すぐ必要な物じゃないし、今回は買わなくても…
「おじさん! 私コレ買うわ!」
「へい、まいど!」
「お前も決断早いじゃねぇか!」
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
様子がおかしいナディア。
次回、零人くんやらかします。
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




