第620話:竜騎士ウェスカー
☆ウェスカー・モリッツsides☆
「こ、来ないで! きゃあああ!!!」
「うああ! た、助けてくれ!!」
「落ち着いて! 避難誘導に従ってください!」
国境沿い国道16号線、2番交差点。
パトロール中のダン一等兵からの応援要請を受け、僕は愛竜セナと共に現場へ急行した。
「モリッツ兵長! ああ、やっと来た!
アンタどこほっつき歩いてたんですか!」
「ゴメン! こっちも少し忙しかったんだ!」
「言い訳なんて聞いてませんよ!
まったく、これだから貴族あがりは…」
交差点の中心で市民の避難誘導をしているのは、竜騎士ダン・グレイス一等兵。
彼は僕が所属する第8空挺部隊の後輩だ。
ダン一等兵のいる現場にいちばん近かったのは僕たちだったため、必然的に最初に駆けつけられたようだ。
「ウウ…オオオ!! みんナ、ミンな殺しテやる」
「ガウウウッ!!」
そして、件の警戒対象…魔獣ミノタウロスを確認する。
無惨にひっくり返された馬車の残がいの中で、つんざく雄たけびをあげ、暴れ回る牛魔獣。
ダン一等兵の飛竜がこれ以上の被害を防ぐため、必死に敵を押さえつけている。
人語を操りこの狂った暴れ方…なるほど。
奴は〝はぐれ〟だったか。
「ふう、また魔族か…最近多いな。
ダン一等兵、ひとまず君の竜を下げてくれ!
奴は僕とセナが制圧する!」
「りょ、了解です! 気をつけて!」
ダンに指示を出し、セナから降りて腰の軍刀を抜く。
なにもはぐれを相手にするのはこれが初めてじゃない。
周りで市民も見ているんだ…竜騎士の名誉のためにも、一瞬でケリをつける!
「虫ケラが…貴様も捻り潰してヤル!」
「ほう? 威勢だけは一丁前だな、魔族。
ここは僕たち人間が暮らす国だ。
お前たちのような殺人鬼どもが来るところじゃないぞ」
「グオオオオオ!!!」
バゴン、バゴンと、鈍重な脚で舗装された道路を蹴り剥がすミノタウロス。
今お前が踏んづけているのは、国民たちが納めた税で造った道だぞ。
それを壊した罪の重さを分からせてやる!
「セナ! 挟み撃ちで迎え撃つぞ!」
「了解。僕ハ敵ノ背後ニ周リマス」
素早く両翼を羽ばたかせ、急速上昇するセナ。
その行動に合わせて、僕は真っ直ぐ刀を構えた。
「『竜式廻撃』!」
「ギィッ!?」
ミノタウロスの胸元へ攻撃を叩き込む。
これでこいつはしばらく僕を注視するはずだ。
「小癪ナ!」
「甘い!」
激昂したミノタウロスは僕を捕まえようと、躍起になって何度も腕を振り回す。
だが、その全ては空振りに終わっていた。
あいにく僕ら竜騎士は、厳しい訓練の日々を、偉大なるドラゴンと共に送っている。
半端な腕力だけで、この僕に適うと思うな!
「『竜式重刃』!」
「グアアッ!?」
次いで竜属性の魔力を絡めた斬撃をミノタウロスへ打ち込む。
攻撃属性としては破格の威力を誇る、僕たち竜族だけの〝血〟だ。
まともに食らったミノタウロスは膝をついた。
「今だセナ! トドメをさせ!」
「了解、ガオオン!!!」
そして、敵の死角に回った愛竜セナの爪牙がミノタウロスを引き裂く。
激しい血しぶきをあげて、ミノタウロスは地面へ倒れ込んだ。
「状況終了。よくやったねセナ」
「ハイ。貴方モオツカレサマデス、モリッツ兵長」
帰ってきたセナの頭を撫で、お互いに労う。
ふふん。他愛もない。
見たか、王国竜兵隊の実力を!
「まだだ! モリッツ兵長! 後ろ!」
「へ…?」
ダン一等兵の焦った声が聞こえた。
その瞬間、僕たちの傍に新たな影が落とされる。
振り返ると、たった今仕留めたはずのミノタウロスが大きく仁王立ちしていた。
「お前、その腕は…ッ!?」
それだけではなく、ミノタウロスの片腕が歪に変形していた。
鞭のようにしなり、腕の先端には3つの鉤爪が生えている。
な、なんだコイツは…?
「言ったハズだ虫ケラ…捻り潰スと!」
「くっ!?」
驚異的な速度で奴の鉤爪が迫る。
まずい、回避しないと!
「危ナイ、ウェスカー!」
ドン!
咄嗟にセナが僕を体当たりで突き飛ばす。
な、何を!?
「ギャウッ!」
「セナぁぁ!!!」
ピピッと、顔に赤い液体が飛んできた。
セナが…僕の身代わりに!?
「フン、焦るナ。次はしっかり殺してヤル」
「そ、そんな…! 立て、立ってくれセナ!」
胸部を突かれ、ドサリと崩れ落ちたセナ。
なんてことを…! 僕の、愛竜が…!
「シャアアッ!!!」
入隊した時からずっと一緒だったセナ…。
たった一撃で沈んだことにショックを受けた僕は、さらなる攻撃が迫っているにもかかわらず、呆然と彼に寄りかかってしまっていた。
「モリッツ兵長!」
ブンッ!
その時、ひと凪の風と蒼い粒子が舞い込む。
見上げると、そこには剣と盾を構えた黒髪の男が立っていた。
「ずいぶん手こずってんな、お巡りさんよ。
あんた、悪魔の相手は初めてか?」
「き、君は…!?」
先ほど僕が取り締まったばかりの若き竜使い、マミヤ・レイト君だった!
いつの間にここへ…というか、デ、デビル!?
「ゴミがまた増えタか…貴様も屠っテくれル!」
「あーはいはい。最初はみんなそう言うんだ。
お前ミノちゃんじゃないな、安心したぜ」
マミヤ君は両手の装備を構える。
ボディチェックを行った時、武器の所持は確認していない…もしや、あのガントレットが?
「きみ、何をしている!? あいつは魔族だぞ!
竜兵隊の私たちに任せて早く逃げるんだ!」
その様子を見ていたダン一等兵が慌ててこちらに駆け寄る。
すでに市民の避難は済んだようだ。
「心配するな。俺は冒険者、ランク堅だ。
所属する国が違かろうと、治安維持の義務はあるはずだぜ」
「なに…?」
「いいからあんたらは引っ込んでろ。
よし…援護してくれ、カーティス!」
「待ッテマシタ!」
大空に向けて叫んだ彼。
僕らの頭上に、巨大な赤い竜が舞い降りた。
こんにちは、黒河ハルです。
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ミノタウロス戦です!
次回、零人sidesに戻ります。
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




