第617話:コンプレックス
「モグモグ…うん、これなかなかうめぇッス。
いいんスかパイセン? ゴチになっちまって」
「おう。俺から誘ったんだしな。たんと食え」
カップルの仲裁をした俺たちは、繁華街の一角にある居酒屋へ足を運んだ。
客はそれなりに多いが、個人室が設定されてあったため、ゆっくり腰を落ち着けられた。
窓をのぞくとすっかり帳が下りている。
「お待たせしましたー。ビッグエールひとつ、果実酒ソーダ割りです」
「お、どうもどうも」
店員さんがおつまみと一緒に、注文したお酒を運んできてくれた。
これでやっと本格的に箸を進められるな。
「んじゃ、乾杯しようぜリベルタ」
「うッス。さっきのバカップルが長続きすることを願って、カンパーイ」
「なんだよその口上…」
カン! と、差し出されたグラスに俺のジョッキをぶつける。
俺はビール、リベルタはチューハイを頼んだ。
「ぷはぁ…。いやーひと仕事終えたあとの1杯は最高ッスねマミヤパイセン」
「はは、いい飲みっぷりだな。
俺はあの姉ちゃんから話聞いただけだから、さっきのはリベルタのお手柄だぜ」
適当に褒めつつ、おつまみを当ててエールを勢いよく流し込む。うーん、美味しい。
「『姉ちゃん』スか…パイセンはあの人、ちゃんと女の子に見えてましたか?」
まだ飲み始めたばかりだってのに、唐突に変な質問がきた。
「ん、もちろん。普通に女子だったと思うぜ」
「ふうん…」
そう答えると、リベルタは何か言いたげに視線を外へ投げた。
もしかして、リベルタにはあの子が女の子に見えなかったのかな?
「両性族と話したのは今日が初めてだったけど、すごく不思議な種族だよな。
男にも女にもなれる…仕事の選択肢がいっぱいありそうでちょっと羨ましいかも」
「そうでしょうか? 僕は逆に思えますよ。
自分が好きになった奴の性別によって、その後の人生が強制的に〝選択〟されんスから。
たとえば、子供の頃から憧れてた仕事を恋人のせいで諦めた奴とかたくさん居るんじゃないスかね」
やや投げやりというか、少し荒み気味。
…てか、なんかコイツ怒ってないか?
そんなにさっき仲裁したのダルかったのか。
「ゴホン…そういやリベルタは、なんで警備隊になろうと思ったんだ?」
このまま空気悪くなったらやだし、とりあえず話題変えよ。
「僕が警備隊やってるのなんて、別に大した理由じゃないッスよ。
公務員は金払いが良いんでね、自分の将来を案じてこの仕事をしてるだけッス」
リベルタらしい、リアリストな答えだった。
公務員の給料が安定してるのは、異世界でも一緒か。
「あ、もしかして『この世の全ての犯罪者を根絶やしにしてやる!』とか『まだ見ぬ強者を求めて!』とか、ウォルト総隊長みたいな回答を期待してました?」
「いや、別にナディアさんと同じ理由だとは思っちゃいないけど…って、お前のナディアさんのイメージってそんな戦闘狂なの!?」
「え、違うんスか?」
「おう! もちろん違……ん?」
ナディアさんとの最初の出会いを、頭に思い起こした。
初期のナディアさんって、かなり荒っぽかったような…?
彼女に出会ってまもなく、いきなりタイマンさせられたし。
「……なんてこった。完全に否定しきれねえ」
「あはは! そらそうスよ!
あの人、上司や王サマに臆せず歯向かうことですげえ有名な騎士なんスから。
うちのセバス隊長ですら苦戦するくらいッス」
あ、笑った。ナディアさんでツボったみたいだ。
でも、たしかに言われてみれば、俺と闘ったとき、王様の命令をガン無視して『召喚』使ってたっけか。
うーん、家でのナディアさんはすごく優しいし、ふつうに温厚なんだけどなぁ…。
仕事モードの時の彼女はかなりハチャメチャらしい。
「でもま、自分の性別に自信が持てずにウジウジ悩む両性族に比べたら、総隊長の破天荒な性格の方が百倍マシッスね。
いつも難儀してますよ、奴らの対応には」
「……」
話を戻された。
仕方ない、もう思い切って聞くか。
「あーもしかしてリベルタって、両性族きらい?」
「ええ。大嫌いッスね」
そ、即答ですか! しかも『大』とな。
「連中、外見とか見た目はわりと整ってるじゃないですか。なんでか分かります?」
「え、うーん…男と女、両方の性別に受け入れられるように、とか?」
「イイ線いってますけど、それだけじゃ不正解ッスね」
リベルタはグラスを傾け、ふう…と、息をついた。
「正解は連中全員が自分の外見にコンプレックスを抱いてるからッス」
「コンプレックス?」
容姿が整ってるのに?
「美意識過剰すぎてニキビひとつ出てきただけで大騒ぎする奴。男の身体になってきたのに身長が全然伸びなくてギャン泣きする奴。髪の毛が天パで何度もストレートヘアにしてくれと理髪店で駄々こねる奴…あげたらキリがないッス」
軽い舌打ちをするリベルタくん。
今言った人達って、全員リベルタが対応したのだろうか?
警察の仕事は大変そうだなぁ。
「そして、なにより…奴らは同族の不細工をぜってえ許さない種族なんスよ。
僕的にそこがいちばんウゼーとこッス」
「ふーん、ブサイクねえ」
仕事の愚痴にしては、ずいぶん強めの怒気を感じられるな。
両性族に相当なストレスをもらってるようだ。
「…って、さっきから一人で熱くなっちまった。
アンタにゃどうでもいいッスよねこんなん。
さーせん。勘弁ッス、マミヤパイセン」
「いいよいいよ。さっきのカップル相手になんで厳しい口調だったのか、やっと腑に落ちたよ」
リベルタはやや気まずそうにぺこりと頭を下げると、再びおつまみに手を付け始めた。
「…僕、昔からそばかすが目立ってましてね。
ガキの頃、それを両性族に『ブス』って、からかわれたことがありまして。
だからアイツらが気に入らねえのかもしれないッス」
やや小声で、自身の鼻筋に指をなぞらせた。
なるほど、そんな過去があったのか。
幼いリベルタってどんな感じだろ。
「子どもはなんでも言っちゃうからなぁ。
ブスだなんて失礼しちゃうよなー。
そばかすはチャームポイントなのにな」
「え?」
リベルタの箸がストップした。
「俺の世界じゃ、顔にそばかすがあると周りから可愛いって思われる国があるんだ。
お前、その国じゃモテモテになれるぜ」
「……」
リベルタはひと言も発さないまま、ずいっと、俺の近くへ顔を寄せてきた。
「僕、可愛いですか?」
「え」
すごく真面目な口調で聞いてきた。
あ、いけね。なんのフォローにもなってない。
『可愛い』って、男相手に言うもんじゃない。
…ま、いっか。リベルタだし。
「可愛いぜ。ちとナマイキが勝ってるけど」
「……」
あえて余計な文句も付けてそう言ってみると、彼は表情を変えないまま離れた。
また自分の顔をペタペタ触っている。
「マミヤパイセン」
「ん?」
「アンタは…どちらかと言えば不細工ッスね」
「ぶっ飛ばすぞ!」
☆☆☆
「ゴチになりました、パイセン。今日はすげえ楽しかったッス」
「俺もだ。家まで気をつけて帰れよ」
居酒屋を出た俺たち。
酒の入ったリベルタとのお喋りは、思いのほか盛り上がった。
また誘ってみてもいいかもな。
「マミヤパイセン。奢ってくれたお礼に、ひとつ忠告してあげるッス」
「忠告?」
「両性族…奴らの嫉妬深さに気をつけてください。
アイツらを惚れさせたら、ガチでママゴトじゃ済まなくなりますよ」
また両性族?
どんだけ引きずってんだお前は…。
「惚れさせる予定なんかねーよ!
知り合いにすらいないんだから!」
「うん、それなら良いッス。
絶対に…絶対に両性族とだけは、恋愛しないでくださいね?」
時折、言葉のフチに闇が差すリベルタだが、その言葉は…何故か重みが感じられた。
俺がその理由を知ることになるのは、もう少しあとだ。
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
リベルタお出かけ回、終了です!
何気に長くなってしまいました!
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何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




