第610話:出不精
「キャン! ワンッ!」
「あふっ! も〜こらこら落ち着くッスよ。
焦んなくてもご飯はちゃんとあげるッス」
「………」
甘ったるいコーヒーとお菓子の匂いが香る、小さなお店。
その店内を縦横無尽に走り回る、これまた小さな生き物たち。
俺と…〝チャラ男〟は、そこにいた。
「クゥン〜」
「ほらパイセン。その子甘えたそうにしてる。
イジワルしないで膝に乗せてあげてください」
「…リベルタ」
「はい?」
「なんで俺たち、犬カフェにいるの…?」
☆数時間前☆
「ごちそうさまでしたー。食器洗っときます。
それ終わったら出ますね、ナディアさん」
「珍しいな、マミヤ殿。もう出かけるのか?
いつもなら休日は昼時までだらけているだろう」
「だらけてんじゃなくて身体を休めてるんすよ!
それに出不精だって動く時は動きます。
あ、今日夕飯は外で食ってくるんで」
「同じように聞こえるが…? まあ、分かった。
あまり帰りが遅くならないように」
理の国、王都レガリア。マミヤ邸。
今日はオフ。いわゆる休日だ。
だが、忘れてはならない大切な用事がある。
こないだの冒険で知り合った、とある騎士との約束の日なのだ。
朝一番で朝食を作ってくれたナディアさんに礼を言い、自室に戻って、いそいそと身支度を整える。
「ンン…? 零人か。おはよう、ふわぁ…」
「ぬわっ!?」
さっきまでベッドで毛布にくるまっていた、蒼髪の女性が眠そうに身体を起こす。
俺の相棒、宝石のルカだ。
くっ! いつもより頑張って早く起きたのに!
こっそり出かけようと思ってたのに!
今日に限って目覚めるの早いんだもんなぁルカさん!
「む、なんだ着替えていたのか。
まだ朝…君にしては珍しいな。
もしや、どこかに出掛ける予定なのか?」
「ま、まあ…うん」
まずいな、行き先をルカに知られるわけにはいかないぞ。
なんてったって今日向かう場所は、世の『男』が喜ぶお店。
ルカっつーか、旅団の女性陣各位にバレたら大変なことになる。
こんなとこで俺の計画の邪魔はさせない。
どうにか切り抜けないと!
「んっん…今日はリベルタと遊びに行くんだ。
こないだの仕事のお礼をしようかと思ってな」
「シェパードとだと?」
眉をピクリと動かすルカ。
こんなとき、決して嘘をついてはダメだ。
できる限り真実のみでごまかす。
…このテクは、ウソ発見猫のセリーヌと付き合っていくうちに自然と身についた。
「そうそう、たまには野郎同士で羽を伸ばすのも悪くないだろ?」
「やろう…? 零人、君は」
「おっといけね! 待ち合わせに遅れちまう!
じゃあまたあとでな、相棒!」
☆☆☆
「来ねえ…」
王都レガリア2区、繁華街エリア。
商業王国でも有名なこの国で、ひときわ賑やかな街区。
主に娯楽を中心としたお店が軒を連ねるエリアだ。
「よう、おはようさん。お前ら聞いたか?
賭博場に新しい種目ができたらしいぞ」
「なに!? よし、すぐ行こうぜ!」
「負けたヤツが今日の奢りな!」
爛々と降り注ぐ陽気に当てられ、大通りを次々と行き交う人々。
そんななか、俺はポツンと一人…街灯に寄りかかってさびしく突っ立っていた。
あの野郎…まさか約束をすっぽかすつもりじゃないだろうな?
「あっ、やっと見つけた! マミヤパイセン!」
「!」
疑惑を抱いたその直後、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、若い男がぜぇぜぇと、苦しそうに息を切らしていた。
「はあ、やっと来たか。ドタキャンすんのかと思ったぜ」
「しょうがないでしょ、マミヤパイセンどこにいんのかぜんぜん分からなかったんスから〜」
そばかすが特徴的なチャラ騎士、リベルタ・シェパード。
以前、『白の洞窟』の冒険で、助っ人として俺たちのパーティーに参加してきた、王国警備隊の人間だ。
今回は、俺と交わした約束を叶えてもらうべく、呼び立てた。
っていっても、互いのスケジュールを調整して、やっと今日都合がつけられたんだけどね。
「おろ? パイセン、なんスかその帽子?」
「これか? 仲間からもらったおさがりだ。
『隠色』の効果かかってるんだ。いいべ」
「だから見つからなかったんじゃないスか…」
まだ一日が始まったばかりだというのに、もう疲れた様子のリベルタ。
さすがに今日の彼の格好は、仕事着の騎士鎧ではなく、普通のおでかけ服だ。
青灰色のシャツを腕まくりし、ボタンひとつ開けられた襟元にはオシャレなチョーカー。
端正な顔と相まって、ものすごく画になる。
なんかモテそうでムカつくな。ちくしょう。
「え、ちょ…なんでガンとばしてんスか?」
「今日のリベルタの服が似合ってるからだよ」
「あ、あざス。ここまで言葉と表情が一致してないのは気になるッスけど」
少しだけ照れくさそうにはにかむリベルタ。
ガタイのいいワイルドなエドウィンとはまた違う、人懐こい照れ笑いだ。
言動はチャラいが愛想じたいは良いし、きっと警備隊で可愛がられてんだろうなぁ。
「ま、今日は頭空っぽにして楽しみましょう。
僕も久々の休日なんで、存分にリフレッシュさせてもらうッス」
「おう! 早くかわい子ちゃんとこ行こうぜ!」
「…逆に今日のアンタはギラついててキモいッスね」
こんにちは、黒河ハルです。
貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!
リベルタ・シェパード、久々の登場!
二人の間になにやら齟齬がありそうですね。
「続きを読ませろ!」と思った方は、ぜひブックマーク、並びに下の☆を『5つ星』お願いします!
何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!




