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スター・スフィア-異世界冒険はおしゃべり宝石と共に-  作者: 黒河ハル


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第102話:闇医者《ブラック・ドク》

裏医者(ブラック・ドク)』こと、シトロンさんに俺たちの作戦を伝えているうちに、俺の小間使いになった男がカバンを抱えて戻ってきた。


その中身は変装用の警備の装備だ。

…ほとんどシトロンさんが着用してるヤツと変わりないな。


装備を受け取り、急いで服を着替え始める。



「「(ジー…)」」


「…2人とも。あんまガン見しないでくれない?」



次のラウンドが始まるまであと15分。

着替える場所を探すヒマなんてないので、女性陣がいるこの場で脱いでるのだが…。


フレイとアシュリーが俺から目を離さない。



「やはり冒険者なだけあって、ちゃんと筋肉があるんですねぇ…。

動かない仕事ばかりしてるからか、私食べるとすぐ太っちゃって…。

その体型、羨ましいです」


「あんた…意外と着痩せしてたのね。

ね、少しだけ触ってもいい?」


「だー!! 時間が無いっつってんの!

あと15分以内に戻らねぇといけないんだから!」



野郎の裸を見て何が楽しいのか、二人は興味津々で凝視してくる。

普段の俺なら恥ずかしがるだろうけど、切羽詰まってるこの状況ではそんな余裕なんてない。


そしてなんとか着替え終わり、子分に目的の部屋まで案内させようとすると、シトロンさんが肩を叩いてきた。



「シトロンさん?」


「私が同行する。魔物の首輪の鍵だが…。

過去に一度、ジョナサンが使用するところをこの目で見たことがある」



マジか!?

それなら確実に鍵を手に入れられるじゃん!

棚からぼたもち!



「それならぜひ頼む!

俺もできることなら、騒ぎを起こしたくないからさ」


「分かった。看守室は西エリアだったか。

なるべく他の警備に鉢合わせないように進むぞ」



☆☆☆



シトロンさんの先導に従って通路内を歩く。


途中同じ格好をした警備とすれ違ったが、俯いて顔を伏せていれば特に怪しまれずに済んだ。


兜があって助かったぜ…。

俺の黒髪は目立つからな。


…まあ俺の基準からすれば、前を歩くこのピンク髪のお姉さんの方がよっぽど派手だけど…。

文化の違いってやつかね。


そして人気が無くなったタイミングで、俺はある事を彼女に質問した。



「なあ、さっきは急いでたから聞かなかったけど、なんでアンタまで俺たちに協力してくれるんだ?

このクラブってアンタの職場だろ?」



正直、俺はまだこの人を完全には信用できていなかった。

ここにシルヴィアが居たら話は別かもしれないが、居ない以上信じられるのは俺のカンだけ。


今のところ、彼女がこちらに協力するメリットは無いはずだ。

シトロンさんは前を向いたまま静かに答えた。



「私とて、好きでこのクラブで働いているわけではない」


「え? そうなの?」


「あの子から…シルヴィアから聞いていないか?

私が無免許の『回復士(ヒーラー)』ということを」



そういやそんなことチラッと言ってた気がする。


前にシルヴィアから聞いたことがあるが、俺やフレイの職業(ジョブ)と違って、人体を治療する魔法を扱う『回復士(ヒーラー)』と『聖教士(クレリック)』は、厳しい訓練と試験に合格しないと、その二つの職業(ジョブ)を名乗れないそうだ。


そう考えると、実はシルヴィアってすごい魔法使いだったりする。

魔族のイザベラも消し飛ばしたしね。



「…まあ軽くは。元々『聖の国(グラーヴ)』に居たんだって?」


「そうだ。

あの国は貧しい国だが、医療分野に関しては他の国を抜きん出ている。

そして、私もかつては正式な国教である『グリード教』へ仕える『回復士(ヒーラー)』だった」



『だった』か。

その先を聞いても良いのだろうか?

いや、ここは聞くべきだな。



「…その口ぶりだと何かあったんだね」



シトロンさんはこくりと頷き、淡々と喋り始めた。



「ある村に巡回診療で滞在していた時のことだ。

私は村の外でケガをした子供を発見し、回復(ヒアル)を掛けた。

すると、その子供はすぐ元気になるやいなや、お礼を言ってそのまま駆け出して行った」


「…? 良い話じゃない」


「まだ話は終わっていない。

村へ戻ると、その子供は村には居なかった。

少々不審にも思ったが、あまり深く考えずその日は仕事が終わった後、宿屋で一泊した」



…なんかものすごく寒気がしてきたぞ?

この展開ってまさか…。



「真夜中、焦げ臭いでふと目覚めた。

窓から外の様子を見ると、村は炎で包まれていた」


「……!」


小鬼(ゴブリン)の奇襲を受けたのだ。

それも軍の一個中隊規模のな。

そして、そいつらを束ねていたのが…私が助けた子供だった」


「うあ…」



聞くべきじゃなかったかも。

想像以上にヘビーな話だった。



「子供は人化魔法で化けたゴブリンの上位種、『小鬼長(ゴブリン・エース)』だった。

あとで聞いた話では、そいつは村の戦士が仕留め損なった魔物だったらしい。

村は一晩で壊滅、村人は半分が殺され、残りはゴブリン共に捕まって慰みものにされたか、どこか遠くへ逃げた」


「……あんたはどうなった?」



恐る恐る質問すると、シトロンさんは手で自身の腕を掴み、僅かに震えさせながら答えた。



「…私も、陵辱された。

小鬼長(ゴブリン・エース)』直々からな。

幸い、子は孕まずに済んだが…」



そんな地獄みたいな光景、想像したくない。

小鬼(ゴブリン)は男を殺し、女を犯す。

前に闘ったことはあるけど、力を持たない人間からすれば恐ろしい魔物なんだ…。



「一晩が明け、ゴブリン共は次の獲物を探すために村を引き上げた。

そして私は…生き残った村人たちを治療した。

その後、『聖都ヴァーチャー』へ帰還。

グリード教本部へありのままを報告した」


「あ、ありのまま!? なんで…」


「仕事の報告は全て懺悔室で行われる。

そこは如何なる虚偽をも見通される、『真実の部屋』と呼ばれる場所だ」



それって…嘘がつけない部屋ってこと?

そんなのアリかよ…。



「報告が終わると私の免許は即剥奪され、グリード教から追放された。

自らの魔法で自らの居場所を失った私は…。

アテもなく国内を彷徨い続けた」


「…………」


「しかし皮肉にも、そのお陰で私は自由に商売を行える立場にもなっていた。

そこで私は路銀を稼ぐために、非合法で『流浪診療』を開始した。

相場より高い料金で治療を請け負い、表の診療所へ出向くことが出来ない悪人や罪人へ、回復魔法を掛け続けたんだ。

いつしか私は…『闇医者(ブラック・ドク)』と呼ばれるようになった」



俺には彼女を非難することなんてできない。

これも一つの生き方なんだろう…。

メシの種を奪われた人間は、腐って死ぬか泥を啜ってでも生き延びるか。

彼女は後者を選んだわけだ。



「それから少しばかりの財産を築いた私は、より貧しい地域に出向き、無償で病気やケガをしている人達を助けた。

そうすることで、犯した己の大罪を精算できる気がする…。

…痩せっぽちの良心を満足させるだけの活動だ」


「もしかして、そこでシルヴィアと?」



やっと話が繋がってきた…。

彼女は前を見たままコクと頷く。



「ある修道院へ伺った際にな。

そこには病気をした子供たちがたくさん居た。

その中で、あの子だけは私の掛ける回復(ヒアル)をまるで宝石のように目を輝かせて見ていた」


「宝石……」


「彼女は私に懐き、『どうすれば回復(ヒアル)を使える?』、『私もお助けしたい!』などと、とにかくしつこく後ろをついて回ってきたんだ」


「フフッ」



思わず綻んでしまった。

何歳くらいの時かは分からないが、口うるさいあいつも可愛い頃があったんだな。



「あの子に教えられるだけのことを伝授したあと、私はまた流浪の旅へ出発した。

気づけばこんな隣国の地下で働いてる。

日陰者の私にはお似合いの職場だろう?」


「だったらなおさら、あんたにとって俺たちは邪魔者じゃないのか?

今から起こす作戦は下手したらこのクラブ……ぶっ潰れるぞ?」


「…………」



やはり分からない。

非合法とはいえ、ようやく手に入れた自分の居場所を壊すような真似なんてしたくないはず。

なぜ彼女は協力に好意的なんだろうか?



「…潰せるものなら潰して欲しいくらいだ。

クラブを牛耳っているジョナサンは…数多く会った悪党の中でも奴は別格だ。

奴は、命をもて遊び、それを金に変えている。

同じ穴のムジナである私でさえ、それだけは許すことが出来ない」


「…え? じゃあなんでこんな所で働いて…」


「少しでも多くの罪なき命を救うためだ。

闘技者は1ラウンドさえ生き残ってくれれば、必ず助けることができる。

だが、逆に言えば私は()()()()できん。

腐りきった金の亡者が手塩にかけた『裏武闘会(ファイトクラブ)』を破壊してくれるのなら…。

〝闇医者〟の私としては願ってもいない」


「…………」



その言葉にはとてつもない重みを感じられた。

そこまで聞かされて…袖にはできない。

だけど、まだ疑問があった。



「あんたのその『罪』…。

シルヴィアのやつは知ってるのか?」


「いいや。あの子はここまでは知らない。

わざわざ知る必要もない。

だが、お前は詳しく知る必要があっただろう」


「え…? なんで?」


「お前は私を疑っている。

私の身の上話一つで少しでも警戒を解いてくれるなら安いものだ」


「……!」



…バレてたのか。

想像以上のお医者さんだ…この人。



「謝るよ…。確かにあんたを疑っていた。

そんな辛い話までさせて…ゴメン」


「いや、疑うことは人として当然の感情だ。

見たもの何もかも信じてしまうとどうなるか…。

今の話で分かっただろう?」


「ああ。

けど俺は、仲間になった奴は全員信じることにしてる。

シトロンさん。あんたはもう俺たちの仲間だ。

一緒にここをぶち壊してやろうぜ!」


「………!」



前を歩いていた彼女は息を呑んで、こちらへ振り返った。

なんとも言えない、壊れそうな切ない表情だ。


あれ…? まさか俺、また言葉間違えた!?



「アシュリーがお前を気に入った理由が分かる。

お前は…髪の色もだが、実に不思議な人間だ。

初対面でありながら、喋らなくてもいい事までつい喋ってしまった」



どうやら違うみたいだ。良かったー。



「アハハ…。

まあ、俺は『お喋り宝石』の契約者だからね。

俺と喋ると口が滑るから気をつけろよー?」


「…宝石? なんのことだ?」



キョトンとするシトロンさんを急かして、俺たちは看守室へと急いだ。










こんにちは、黒河ハルです。

貴重なお時間を消費して読んでくださり、とても嬉しいです!


闇のお医者さん、シトロンの過去話です。

回想にしてしまうととてつもなく労力を使いますので、今回は1話分でまとめちゃいました笑


「続きを読ませろ!」と思った方は、ぜひブックマーク、並びに下の☆を『5つ星』お願いします!

何卒、なにとぞっ!底辺作家めにお慈悲を…!!


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