30 謁見01
謁見の間の前室に入ると、陛下の側近である、ダウグス・チョールエ様がいらした。
嘘でしょ? なんでそんな大物、と思ったけれど、王命に関わる案件だ。
このあと私が陛下に謁見するとなれば、その前にお会いするのは、陛下の側近か。
おそらく、私がダウグス・チョールエ様にお話をして、その内容を彼が陛下にお伝えするのだろう。
ちなみにダウグス・チョールエ様は、伯爵家のご出身。
学生時代から陛下をお支えになったというから、ジャンジャックの側近どもとは、格が違う。いや、それが普通なのかもしれないけれど。
「モルニカ子爵家当主名代、アニタ・モルニカにございます」
挨拶を促され、言葉を発する。
ちょっと声が震えたのはご愛敬だ。だってこんな大物と話すことなんて、ないんだもん。
「アニタ嬢、そう緊張せずとも大丈夫だ。さ、ネルツァ殿とともにそちらに座って」
思いのほか優しいお言葉に、ほっとする。
いけない、表情に出しちゃダメ!
「さて、早馬にて預かったこの書状。それと、先ほど裏口に到着した護送車を確認するに、聖女マーシュに相違はなかった」
「……はい。畏れながら、私も学園で彼女と同期でございまして」
「ああ、なるほど。顔を知っていたのだね」
「その通りにございます」
そして手にしていたバッグ──無論入口でチェックは受けた──から、二通の書状を取り出す。
「今回の件について、こちらを陛下に」
「ふむ」
受け取ったダウグス・チョールエ様は封緘を確認し、近くにいた従者にトレイを用意させた。
「あの、ご覧にはならないので?」
「子爵家の封緘だ。直接陛下に見ていただいて、問題なかろう」
その言葉に、逡巡する。
そうして、やはり伝えるべきか、と口を開いた。
「チョールエ様。そちらの一通は、私が委細を記載したもの。そしてもう一通は、今回聖女とともに護送されてきた冒険者の、友人が認めたものです。内容は私も確認しておりますが、その──そのことをご承知置きいただければと、存じます」
ジャンジャックの手紙である、とは、この時点で明言することはできなかった。チョールエ様の判断ではなく、陛下の判断で読む、読まないを、決めて欲しかったからだ。
その言葉に一つ頷くと、チョールエ様は、私たちを促した。
謁見の間の支度が、整ったようだ。
「アニタ嬢、大丈夫か?」
「ネルツァ様。口から心臓が、飛び出しそう」
「はは、大丈夫さ。君は、何も悪いことをしていない。陛下もチョールエ様も、それはわかっておいでだから」
いやまぁそうなんだけど、そうじゃない。
国王陛下なんて、私のような下級貴族では、滅多にお会いすることができない方なのよ。
侯爵家のご子息のアナタとは、違うのだ……。
ま、理解してもらえなかったけどさ。
謁見の間は、これまで以上にふかふかの絨毯が敷かれていた。なんだこれ。足首埋まるんじゃないの。
玉座があり、その背後と左右には、美しいドレープの効いたカーテンが下がっている。学校の緞帳とは訳が違う。
壁と天井には、美しい意匠の彫り物がされている。天井から下がるシャンデリアは、実に繊細な細工だ。どこを見ても、美しいという言葉しか出てこない。
と同時に、ヘタに触れて壊したらヤバイ! という感情があふれ出てきてしまう。
一番危険なのは絨毯だ。絶対に絨毯を汚してはならない……!
「陛下の御入室です」
取り次ぎの者の声が、響く。
私たちは最敬礼をとる。
いよいよ、陛下にお目にかかるときがきた。
「面をあげよ」
側近ダウグス・チョールエ様の、お声がかかる。
私たちはゆっくりと顔をあげて、陛下を見上げた。
こういうときに拝顔してはいけない国もあるらしいけれど、この国はとりあえず貴族であれば、お顔を拝見してもOKってことになってる。良かった。
「モルニカ子爵家当主名代、アニタ殿。書状は確認させてもらった。グルレンの森から聖女が逃げ出したことは、すでに教会から報告もあがっているから、貴領及び貴殿、それから──もう一人書状に預かった平民のことは、謀反を疑う由もない」
もう一人の平民、とはジャンジャックのことだろう。
委細を記載した私の手紙に、ジャンジャックのことも記載しておいたのだ。万一謀反を疑われてしまったら、我が領もあわせて危険になってしまうからね。
当たり前のことだけれど、陛下も随分と言葉を選んでいらっしゃる。
とはいえ、とりあえず我が領への謀反の疑いは全くないとのお達しに、肩の荷が一つ下りた。
「護送されてきた二名を、こちらへ」




