24 全てを巻き込むの
店にはランディオさんと聖女、そして、ジャンジャックと私の四人だけになった。
そのことに、二人は気付いていない。
小上がり席で、二人だけの世界に浸っているようだ。
でも、そっかー。
ランディオさんって、ああいうのが好みだったのかー。
別に、自分からアプローチをしたことがあったわけじゃないのに、妙にショックを受けてしまう。
いやなんか……。
結局、男ってああいうタイプに弱いのね、みたいな気持ちにさせられるからだろうか。
それとも単に、私が学園のときに受けたアレコレを根に持っているから、微妙な気持ちになってしまうのだろうか。
「アニタ嬢……そろそろ」
「ええ、そうね」
ちらりと二人を見たジャンジャックが、私を促す。
裏口に、ディアスがクリアノを連れて戻ってきたという合図も来ている。
いざというときには、彼らが助けに来てくれるだろう。
それにしても、ジャンジャックは、今のこの状況を、どう思っているのだろう。
というより、聖女はジャンジャックのことを認識して──ないっぽかったけど……それはそれでどうなんだ?
気付いていて無視しているのか、それとも本当に気付いていないのか。
「ランディオ、久しぶり。元気だったか? グルレンの森はどうだった」
「おお! ジャン久しぶりだな! お前にも、彼女を紹介させてくれ」
私たちもゴルゴ酒を手に、小上がりに近付く。
同じ場所へはあがらず、小上がりの横に、椅子を近付けて座った。
「マーシュだ。グルレンの森で、魔獣から逃げていたところを、保護したんだ」
「魔獣……から?」
「ああ。それで、国王騎士団がいるところに、彼女を連れて行こうかと思ったんだが……。そっちには、魔獣がいるかもしれないから怖い、と」
なるほど。聖女はそういう設定で、きたわけね。
これ、ランディオさんは、完全に騙されているってことだわ。
ジャンジャックをそっと見れば、彼も私の意図に気付き、こくりと頷いた。
国王騎士団の元には、王国の教会の人もいる。
聖女は、教会の人に監視されていたはずだ。それを、魔獣退治の混乱に乗じて、逃げ出したのだろう。
そしてうまいことランディオさんと出会い、彼を籠絡した、と。
ランディオさんの話を聞けば、おおよそ想像と同じだった。
ううむ……。これは、彼にどう真実を告げるべきか。
あ、そう言えば。
「マーシュさん。あなた、この男に見覚えはない?」
「この方、ですか?」
じっとジャンジャックを見るが、本当にわからないのか、首をかしげる。
嘘を吐いているようにも見えない。
確かに、今のジャンジャックは、学園にいたときのような、華やかさはない。
それなりにきれいな顔はそのままだが、面差しが全く違う。
肌つやもあの頃のような美しさは消えている。
平民の中で見ると、元が良いせいもあってきれいだが、貴族ほどではないだろう。髪のつやも同様だ。
それでも、かつては愛し愛された相手だ。
わからないことなど──と思い、ふと気付く。
ジャンジャックは、確かに彼女を愛していたのだろう。
愛をどう定義するのかは、別として。
だが、この聖女はどうだったのか。
彼を愛していたのか。
それとも、彼の立場を愛していたのか。
乙女ゲームと同じように、高位貴族ばかりを侍らせ──他の貴族男子にも手を出そうとしては、ジャンジャックに邪魔されていたけれど──得意になっていた彼女は、彼ただ一人を愛していたとは思えない。
「ごめんなさぁい。私は知らないけど……お会いしたこと、ありましたっけ?」
首をかしげて最大限に可愛く見える角度で、ジャンジャックに媚を売る。
すごいな。
ランディオさんの前でも、それをやるのか。
さすが、全男性は自分のものと思っている(私の偏見だけど)女は違うわ。
これはジャンジャックも再び恋してしまうか、と思いきや。
「随分昔に、会ったことがあるな。君は俺のことを、愛していると言っていた」
そう、はっきりと告げたのだ。




