表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲー終了後の王子に求婚されました~小料理屋を営業中なので、邪魔しないでください!  作者: 穴澤 空@4/11ドアマットヒロイン発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/43

21 嵐をおこして

 私の言葉に、ランディオさんは驚いた顔をしている。

 そりゃそうよね。

 愛した女は、知らない男に後ろ手にされているし、行きつけの店の女将は、子爵令嬢だったりしてるんだもの。


「え、えぇと。聞きたいことは、たくさんあるけど──いや、ありますが」

「言葉遣いはそのままで、大丈夫。私が身分のことを、言ってなかっただけだから」

「いや、そういう訳には……」

「それで文句は言わないから、安心して。第一、これじゃ話もしづらいし」

「じゃぁ、お言葉に甘えて」


 ランディオさんは、少しだけほっとした顔を見せる。


「アニタさんは、領主様のご令嬢だったんだね」

「言わないでいて、ごめんなさい」

「こんなふうに、店をやっているんだ。言ったら危険が伴うかもしれない。黙ってるのはおかしくないさ」


 そう言うと、ランディオさんはジャンジャックの方へ、顔を向けた。


「――それで」


 ジャンジャックも、覚悟を決めた表情を浮かべる。


「その。聞き間違いじゃなかったら、ジャン……君は」


 ジャンジャック・フィオ・オルレオと、彼は名乗った。

 第三王子は王太子と違って、そんなに国民に顔を知られているわけではない。

 特にこのジャンジャックは、学生時代そこの聖女に首ったけで、禄に公務すらしていなかったからね。

 王都から遠い、ランディオさん始めこの領の人たちが、その顔を知らないのは、無理もない。


 ただ、名前を聞いてしまったら、話は変わる。


 オルレオ、とは我が国の名前だからだ。

 その国名を名乗ることができる人間なんて、王族しかいない。

 まぁ、ジャンジャックは今はもう、王族ではないんだけどね。


「黙っていて申し訳ない。俺は──元、第三王子だ」

「元?」

「そこの女性……聖女マーシュを愛してしまい、彼女との婚姻を望んだんだ。それで、王族を追われた」


 ひゅ、と息をのむ音がする。

 ランディオさんだ。

 肝心の聖女は、どんな表情をしているのかと思って見れば……。

 ちょっと! 何、ディアスに色目使ってるのよ!


「聖女さん? あなたが愛しているのはこっちの二人の男性のどちらかでしょう? うちのディアスに媚を売らないでいただける?」

「え~? マーシュわからないわぁ」

「お嬢様。この女、さっさと護送車に乗せておきたいんですが」

「ちょっとだけ我慢して。あと聖女さまのことは、縛り上げて良いわよ」


 後ろ手で押さえつけているディアスは、心底嫌だという表情で、聖女を自分の体からできるだけ遠ざけようとしていた。

 縛ってしまえば、その辺に転がしておける。

 そう告げると、あっという間に縛り上げてしまった。

 よほど嫌だったのね。申し訳なかったわ。


「やだっ! やめて! 助けてよぉディオぉ、ジャックぅ」


 ――こっちは、語るに落ちたわね。


「ランディオさん。この聖女には、王命が出ているの。前にあなたが話していた、カールレイ公爵令嬢を陥れた聖女が、彼女よ」


 私の言葉に、ランディオさんは表情をかたくする。


「マーシュ……。君は聖女で……。国王騎士団と共にいた教会から、逃げてきたということなのか?」

「違うわ! そんな女の言うことを、信じないで! 私を信じて」


 縛り付けられたまま、聖女はびたびたと体を跳ねさせて、得意技のウルウル瞳でランディオさんを見つめる。

 その瞳にやられたのか。


「アニタさん。すまない。俺は、あなたを信じて良いのかわからない」


 ……これは結構クるわね。

 少なくとも、ポッと出の聖女よりは、信頼して貰えると思ってたんだけど。

 やっぱり、常連といえど客は客。信頼をいただけていたと思っていたのは、独りよがりだったのかなぁ。


「ランディオ、と言ったか。貴殿がお嬢様を信じるかどうかは、本来関係ないんだ」

「ディアス?」

「お嬢様、口を挟んでしまい申し訳ありません。でも、彼の今の言いように、黙ってはいられなくて」


 ディアスが私のことを心配してくれていることがわかる。


「ありがとう。あなたの気持ちが嬉しいわ」


 私の言葉に、ディアスはこくりと頷く。そうして、再びランディオさんに向き、口を開いた。


「この女は、王命に逆らい我が領に逃げ込んできた。そして、お嬢様は──モルニカ子爵令嬢は、それを知った。だから捕らえ、すぐに王城に送り返す必要がある。それだけの事だ。貴殿に説明をしているのは、お嬢様の優しさと心得て欲しい。本来、貴殿の理解など不要なのだから」

「……おう、めい」


 普通に生活をしていれば、『王命』などという言葉とは、縁がない。

 ランディオさんは、改めて言われたその単語の重さに、顔を青くしていく。


「ランディオ。俺は王命で平民となった。家名を名乗ることは、今許されていない。先ほど彼女に言ったのも、名乗りではなく、知っているかと確認するためだったからだ。それでも、相当の勇気が必要だった。それが、王命という重さだ」


 ゆっくりと、ランディオさんは聖女を見る。

 縄で縛られて不満そうにしている彼女は、ここまでのやりとりに、ついに媚を売ることも諦めたようだ。

 そこにはもう、彼が森で見た、守ってあげたくなるような愛らしい女の姿はない。


「あーあ。せっかく逃げられると思ったのに。こんなところで、学園の人間二人に会っちゃうなんてねぇ」

「え。私の事も認識してたの?」

「さっき思い出したわ。学園の下級貴族の男に声かけてたでしょ、あなた。面白いから横からかっさらってやろうと思って、割って入ったのよ。私が声をかけたらすぐに、あなたなんて見向きもされなくなって、面白かったわぁ」


 は?

 あぁ?!

 お前、あれをわざとやっていただけでなく、明らかに私をターゲットにしていたって言ったか?


「ひぎぃっ」


 文句の一つも言おうと思った瞬間。

 聖女の情けないような、痛みにあげた声が響く。

 ディアスが床に転がされている聖女を、足で蹴ったのだ。


「貴様、お嬢様に対してなにを言った? 何をしたという。我らが主家の姫に対する無礼、この場で首を斬られても文句を言えないと、理解してのことだろうな?」


 私まで震えそうになる殺気を、聖女に対して吐き出すディアスに、クリアノも何も言わない。いや、静かに見えるあの瞳に、同じように殺気が宿っている。


 え、やだ、私ったら愛されてる。

 なんて言えたら良いんだけどねぇ。これはディアスやクリアノの、我がモルニカ子爵家への忠誠心。ありがたいことだ。


「ディアス、ありがとう。でもここで斬ったら、問題が大きくなるわ」

「しかし……」

「ディアス殿。落ち着いてくれ。ここで貴殿がこの娘を斬ったら、王命を無視したことになってしまう」

「……チッ。お嬢様に不利益になることはできない。命拾いしたな、女」


 ディアス、冒険者モードが出てきてない?

 普段そんな言葉遣いを、私にしたことないから、ちょっとビックリ。

 ――というか、ギャップ萌えしそうだわ。アブナイ。


「ランディオさん。申し訳ないけれど、彼女は王都に護送します。陛下の差配次第となりますが、少なくとも、今後自由になることはないでしょう。どうしますか?」

「どう……とは」

「ここで挨拶をして別れるか、教会で神職となるか、一緒に……護送されるか、です」


 最後の単語に、彼は目を見開く。


「彼女が再び教会で聖女を続けるかは、わかりませんが、神職になれば少ない可能性ではありますが、再会の可能性はあります。護送は……本来、あなたも一緒に王城に行く必要はあるんです。知らなかったとは言え、逃亡を幇助してしまったので。ただ、そうなるとあなたの身を保証はできません。だから……」


 ここで別れ、彼女の事を知らないままという設定でいてほしいと思っている。

 聖女の証言で、ランディオさんのことを、こちらに問われるかもしれない。けれど、シラを切り通すことは、可能だ。

 少なくとも、ランディオさんは彼女の事情を知らずに親切心で助け、恋に堕ちたのだから。


「アニタさん、ありがとう……。俺は」


 私の目を見て、ランディオさんはゆっくりと、下した決断を口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ