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13 ジャンジャックという男

「ようジャン! お前あの宿出て、ひとり暮らししようと考えてるんだって?」

「どこで知ったんだ? だがまぁ、勤め先が見つからず、進展なしだ。冒険者になるにしても、俺は剣の一つも、買えていないからな」

「ランディオに聞いた。水くさいじゃないか! 俺に相談しろよ」


 今日も今日とて、カウンターで飲み語り合う二人。ランディオさん、オドライさんと仲良くなったジャンジャックは、毎日のように、我が店に通ってきている。軽い口調でいつも口説いてくるけど、どこまで本気なんだか。


「はい。今日のお任せは、タブタブ魔獣の生姜焼き」


 豚肉のような味のタブタブは、生姜焼きにぴったり。あぁ、こういうのを作る度に、お米が欲しいと思ってしまう。

 これだけ日本と同じような食材のある世界なんだから、お米は絶対にあるはず。諦めないぞ!

 それに、お米をもし発見できたら、我が領の名産になるかもしれない。小さな我が領が、富むきっかけができるのであれば、何よりよだからね。


「へぇ! これは美味しい! ちょっと甘辛なんだな」

「おいジャン! 俺のを横取りするな。お前……もう食べきったのか」

「はいはい。お代わりが必要なら、お金を追加でね」

「よう。もう二人は来ていたのか」

「ランディオさんいらっしゃい。ゴルゴ酒とお任せで良い?」

「それで頼む。で、何の話をしていたんだ?」


 この店の収入は、我が家の貧乏財政の支えになっている。あとは子爵家を継ぐための、夫捜しだけだけど……。思ってたより、捗らないのよねぇ。


 この間、女子会三人の言ってた言葉を、思い出してしまう。

 ランディオさん、オドライさん、そしてジャンジャック。この三人の中なら……。

 うぅん。一番うちの領地のために良いのは、商家の番頭オドライさん。何せ商売のプロだ。

 領地運営も、お手の物かもしれない。ただ、長く勤めている職場を離れて貰うのは、忍びない。


 ランディオさんは冒険者だから、我が家に縛り付けるわけにはいかない。跡取りを作るためだけに結婚、なんてことも言えないしなぁ。


 いや、落ち着いて私。

 そもそもそんなに選べる立場なのか、私は。うぅ……。まずは皆に恋人がいるか、というところから確認しないとじゃない?


「いやな。ジャンがひとり暮らしを始めようとしてるって言うから、俺に相談しろって話を、してたところだ」

「この間オドライがいなかったから、先にランディオに話してたんだよ。というわけで、オドライにも相談だ!」

「お前のその軽さ、悪くないな。宿の女将に聞いたところじゃ、依頼された仕事も真面目にこなしてるんだって?」

「俺には今、何もないからな。真面目に働くことしかできないさ」


 ジャンジャックのその言葉に、私は思わず彼を見てしまった。


「ん? アニタ嬢、俺のこと見直した?」

「……いえ。あなたもちゃんと、真面目になれるんだなって、驚いたところです」

「君に好かれたいからね」

「またそういう事を言う。でも、その理由で真面目になるなら、私が嫌だと言ったら、真面目じゃなくなるってことですよね。信用ならないなぁ」

「おっと。これはアニタちゃんの言うことが正しい。ジャンはこの領地に来て、長くないんだ。まずは自分の信用のために、真面目にやることだな」


 オドライさんはそう言って、私にウインクをしてくる。


「ということで、ジャン。お前の軽いところと、女受けしそうな顔、真面目に頑張ろうという心意気を、買ってやろう。うちで働かないか?」

「へっ?! い、いいのか? お前のところって、この領地で一番の商店じゃないか」

「これでも俺は番頭だからな。人事権を持っている。そして、何人もの人間を面接して雇ってきた。そんな俺が、判断したんだ。身内びいきじゃないぞ。自信を持て」


 オドライさんの言葉に、ジャンジャックの瞳が大きく開いた。


「……ありがとうございます」


 椅子から立ち上がり、深く頭を垂れる。

 その動きに、私は目を奪われてしまった。


 元第三王子の彼が、きちんと頭を下げてお礼を伝えたことに。

 そして、オドライさんの言葉の意味を、きちんと理解したことに。


 ――人間は変わるものよ。失った信頼を取り戻すのは大変だし、無理に信頼をする必要はないわ。でも、変わろうと思っている人間を否定してはだめ。


 そうね、お母様。

 ジャンジャックは、変わろうとしているのね。

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