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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
Extended Story 1

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理論通りに行かない甘さ・後篇 〜私鉄沿線恋愛専科・アペンドストーリー2〜


 よく晴れた、寒い2月アタマの日曜日。


 今日は私とエリカのふたりで、いつもなら登下校に使っている私鉄に乗って、毎朝使っている駅に降り立った。

 街中の方に出てきたとはいえ、寒いモノは寒い。

 駅のホームは地下にあるのに、なんだか底冷えがするような感じだった。


「こういうとき、定期って便利だよね」


「たしかにね」


 改札にワンタッチで、これもまたよく見る光景。

 星宮(ほしのみや)大通(おおどおり)三番街(さんばんがい)の駅はすっかりバレンタインムード一色だった。


 待ち合わせに使われすぎて混雑がひどく、結局人を見つけるのに苦労するというエリアを通り過ぎると、見えてくるのは老舗のデパートの地下フロア――簡単に言えば、デパ地下。


「ここでいいんだっけ?」


「そうそう。たしかここの9階だったはずだけど……」


 入り口のところにあるフロアガイドを軽くチェック。

 目的の場所はこのデパートの催事場だけど――。


「うん、合ってる」


「じゃあルミ、案内よろしくー」


「はいはい」


 この子、私以外の子と遊ぶときも、同じように人任せにしているのかしら。

 建物の中くらい、そんなに迷うことなんてないと思うんだけどなぁ。

 そんなことを思ったりはするけれど、それで本当に迷子になられるとこっちが恥ずかしくなってしまう。

 私自身、それが嫌なわけでは無いので、今回もとりあえず棚上げしておく。


「それにしてもさー。まさかふたりとも臨時収入があるとは思わなかったよね」


 フロア中央近くのエスカレーターに乗り、のんびりと上の階を目指す。

 一段下からエリカが楽しそうに言ってきた。


「臨時収入っていうの? アレって」


「一応は色付けてもらってるから、私的には収入かなぁ」


「え、ウソ。……私、後でレシート見せろ、って言われたんだけど」


「あはは! え、マジで? それ、キビシすぎない?」


 手を叩きながら笑うエリカ。


 いやいや。何それ、初耳。

 それはちょっとズルくない?


 三番街のデパートにチョコを見に行ってくる、と言ったところ、『だったら、私の分買ってきて。ちょっと気になるチョコがあるのよ』と母がお金を渡してきた。

 それは別にいいのだけど、当然のように買ったらその分のレシートを見せろ、とも言ってきた。

 しっかりとお釣りは1円たりともアンタにはやらん、という意思を感じたわけだけど。


 それに引き換え、エリカのママは優しい。

 おそらくある程度のお金を手渡した上で、お釣りはいらないとでも言ってくれたのだろう。

 なにそれ、羨ましすぎる。

 私もそんな臨時収入が欲しかった。


「じゃあ、今日の道案内のお礼として、半額をルミにプレゼントしましょー」


「……え、ほんと?」


「ほんと、ほんと」


 エリカはいつの間に天使になったのかしら。


 本当はそのまま抱きつきたいところだったけど、今はエスカレーターの上なのでひとまず自重。

 実際にモノをもらったときにでも抱きついてしまおう。


「やーんもー、うれしー」


「だって、アドバイスくれたじゃん? そのお礼っていうのもあるし」


 わざわざそんなこと考えなくてもいいのに、なんて思ったりする。

 案外律儀なところがある子なのだ。


 今年はやっぱり手作りのがイイ。

 もちろん、キレイに作ることができたモノをプレゼントしたい。

 それは誰しもが思うことだったし、エリカもそのタイプの子だった。


 そんな風に一念発起したのはいいのだけど、エリカにはその辺の経験があまり無かった。


 先月半ばくらいにエリカの家に遊びに行ったときには、その練習に付き合うことにしていた。

 ある程度腕前については知っていたつもりだったけど、改めて再確認ができた。

 味については全く申し分が無いのに、見た目があまり良くない。

 エリカの作るモノの唯一にして最大の弱点がそれだった。

 わりと大雑把なところがある彼女の性格が影響しているのかもしれない。


 エリカのママは『おいしいモノをいっしょに食べる、っていうのも悪くないわよ』なんて言って慰めてはいたけれど、やっぱり作りたいという話になり、『だったら来週末に私といっしょに作ろう』と提案したのが、さっきの道中での出来事だった。


「あくまでも、私がするのはアドバイスだからね?」


「えー」


「そこで不満にならないでよ」


 コドモのようにスネたってダメ。


「シュウスケくんにあげるのに、私の手が入ったらダメでしょ」


「……まー、それはそうなんだけどさぁ」


 キレイにさえできればあとはどうなってもいい、みたいな雰囲気さえ感じてしまう。

 だけど、それだと良くないと思う。


「ギリギリのラインまでは手伝うから。ね?」


「……わかった」


 不承不承って感じだけど、まぁいいや。

 エリカの言質を取ってしまえば私の勝ち。


 ――自転車の補助輪を外す練習のようにすれば、解決なのだ。







           ○





 そんなこんなで、バレンタインデー当日の朝になった。


 一昨日の朝から晩までまるっと使い切って、エリカはなんとか目的のモノを完成させた。

 今回は私の家でやることになったのだが、それが正解だった。

 途中の工程で見ていられなくなったらしく、思いっきりウチの母親が手伝おうとしていたが、なんとか私が阻止。

 ほんのちょっとだけの助っ人で耐えてもらうことに成功しつつ、エリカのチョコ作りも無事に完了。

 会心の出来だったらしく、作り終わったエリカはちょっと泣きそうになっていた。


 私たちふたりとも、今は自分の教室の中。


 そしてチョコレートは、互いのカバンの中。


 ――『あれ? 何で?』と思うかもしれないけれど、これはエリカのプランに乗っただけ。


 シュウスケくんの学校が男子校だから、朝に渡したあとでそのチョコレートがすべて無事に彼の口に入るかどうかわからないという、なんとも男子校の実態を勘違いしていそうなアイディアに依るものだったけど、そこまで悪い考えでも無いと思ったので採用したという話だ。


 ――とはいえ。


「ねえ、エリカ」


「なにー?」


「あとで、シュウスケくんにライン送っておいた方がイイと思うわよ?」


「え、なんで?」


 ああ、やっぱり気づいていなかったのね。

 そんな気はしていたけれど。


「さっきの別れ際で、彼、すっごい顔してこっち見てたから」


「ウッソだぁ……、え、マジで?」


 私の顔を見て、それが冗談ではないということに気がついたらしい。


「うん、割とマジで」


「サンキュ」


 言ってすぐにスマホを取り出すエリカ。

 昔ならここでさらにいじっぱりを発動させそうだったけど、少しはエリカも丸くなったらしかった。


 ――私もユウイチにメッセージしておこう。





           ○





 ――ということで、この日の夕方。


 今日はラッキーなことにユウイチもシュウスケくんも部活が休みということで、帰りもいっしょにという話にしていた。

 待ち合わせ場所は先日のデパ地下がよく見える、何かのビルのエントランス風になっているところ。

 例の混雑しまくりな待ち合わせ場所のメッカよりは、いくらか人の数が少ないかなぁ程度の場所だ。


 エリカといっしょに到着。

 それよりやや遅いくらいでユウイチがやってきた。


「よっす」


「あれ? ユウイチの方が遅いのって珍しくない?」


 いつもならこういう待ち合わせ場所には、誰よりも早く来るような気がするけれど。


「ん。まぁ、ちょっとね」


「えー、どしたの? なんだか歯切れも悪いし」


「そんなことないっての」


 言われて直した、というような感じで、エリカの突っ込みに対応する。

 少し気になるけれど、とりあえず流してしまっても大丈夫そうだ。


「まー、緊張しちゃうのもムリないかー。そうだよねー」


「ん? 何?」


 エリカが私の脇腹を肘で小突きながら、悪い笑みを浮かべている。


 ――仕方ない、これもふたりで決めたことだし。


「……はい、ユウイチ」


「え? ……おおぅ」


 急に恥ずかしくなってきて、カバンから取り出した袋を思いっきりユウイチの胸に押しつけた。


「今年のは、ちょっとイイ感じのヤツと、……手作りのヤツね」


「お、おう。……なんだ、その、アレだな」


「……なによ」


「ココでか、って思ってさ」


「なによ。文句あるの?」


 せっかく人が、恥ずかしいのを我慢しているのに。


「いや、そういう意味の文句は無いけどもさ」


「じゃあ、何よ」


「めっちゃ見られてるし」


「それは私も見られてるからイイの!」


「なにそれ、めっちゃ暴論!」


 ちらっと横目に見たエリカが顔を真っ赤にして笑いをこらえているところを見ると、私の顔も赤くなっているのだろう。

 実際、目の前のユウイチの顔も珍しく赤い。耳まで赤くなっている。


「ゴメンゴメン、遅れたー……って、なんだこの状況」


 空気を読んだのか、ある意味全然読めていないのか。

 シュウスケくんがこんなタイミングでやってきた。


「シュウ、遅刻」


「うるせえ、2分くらいだろ」


「圧倒的開き直り」


「許容範囲だ」


 これ幸いとイジりの矛先をシュウスケくんに向けるユウイチ。

 ユウイチもきっと私と似たようなことを考えているのだろう。


 ――さぁ、ここからは私たちのターンです。


「ほら。今度はエリカの番だからね」


「う、うん……。はぁ」


 いろんな感情がごちゃごちゃになったようなため息をつきながら、エリカも自分のカバンから私の同じ包装になっているモノを取り出し、そっぽを向きながらシュウスケくんにそれを差し出した。


「……はい」


 ――エリカらしいと言えば、らしいんだけどね。


「え? あ、チョコか」


「それ以外に何があるのよ」


 お互いに、ぶっきらぼうというか。


「……なあ、ルミ」


「ん?」


「あれ、どっちも恥ずかしがってるよな」


「絶対ね」


 きっと、私たちのときよりひどいと思う。


「手作りのもあるのか?」


「あるわよ」


「……なるほど」


 さっきのエリカよりも、明らかに悪い笑みを浮かべるユウイチ。


「よかったな、シュウ。もらえたじゃん。俺の言ったとおりだったろ?」


「うっせえよ」


 言ったとおり、の意味はよくわからなかったけれど、とりあえず今年のバレンタインデーは成功だったと思った。








 互いにチョコを渡し終えてからというもの、なんとなく気恥ずかしかったせいで全く会話が交わされないままだった。

 いつもはそこそこうるさくしてしまうこともある、電車の中でも全く話さないという珍しい事態。

 けれど互いの肩がぴったりとくっついていたのは、言葉が要らないという証拠であったのかもしれなかった。


 いつもの交差点でエリカたちと別れて、ふたりきりの家路を歩く。

 雪明かりに照らされつつ、もう少しで私の家というところで、急にユウイチが立ち止まった。


「あれ? どしたの?」


「ん、ちょっと待って」


 ごそごそとカバンを漁っている、と思ったら何かを取り出した。


「え、まさか……」


「うん」


 街路灯に照らされて見えたのは、シンプルだけどかわいらしい包装に『Happy Valentine』の文字。

 なんとなくユウイチらしいチョイスのような気がして、ちょっとだけ視界が潤む。


「ほら、今年はさ。違うじゃん。いろいろとさ」


「……うん」


「だから、逆チョコってことで」


「うん、ありがとう」


 ちょっとだけ素っ気なく差し出されたそれを両手で受け取る。

 ユウイチも一瞬だけ視線を逸らそうとしたけれど、すぐに私を見つめて微笑んだ。


「でも、どしたの。ホワイトデーはいつもくれてるじゃない」


「それは……、アイツらが『今年はやった方がイイ』って言うから。……悪くないかな、って思ってさ」


 アイツら、って誰だろう――。


 一瞬だけ考えたけれど、すぐにわかった。

 きっと、ユウイチのクラスメイトたち――とくにアズサちゃんを筆頭にした、あの幼なじみ4人組のことだろう。


 いろいろと混ぜ返してくれた子たちだけど、今回はあの子たちに感謝かな。


 そんなことを思いながら。


「ねえ、ユウイチ」


「ん?」


「いっしょに、食べてかない?」


 我が家を指さしながら訊いてみる。


「いいのか?」


「もちろんよ。たぶん、お母さんたちも喜ぶと思うし」


「……だったら、おジャマするよ」


 言いながらユウイチは、私の手をしっかりと握ってくれた。






           ○






 ――翌朝。


 ちょっとだけ準備が遅れるということで、シュウスケくんの家まで3人で迎えに行った。

 玄関先で待っていると程なくしてシュウスケくんが現れる。

 これならとくに問題なく電車に間に合う――。


 そんなことを思った瞬間だった。


「シュウスケー」


「ぁん?」


「私にも逆チョコちょーだい」


「は?」


 歯牙にもかけない、容赦の無い『は?』だった。


「ホワイトデーまで待ってくれ、っての」


「……今までまともにくれたことないクセに」


「はぁ!? やってただろ!!」


「あれはアンタのお母さんがくれてただけでしょー! 私の中ではアレはシュウスケのお返し認定はしてませーん!」


「なにー!?」


 よく見た光景。

 ある意味、実家のような安心感。


 ――まぁ、4人とも実家暮らしだけれど。


「ルミさんよ」


「なに?」


「俺、なんかマズった?」


「……マズったか、っていう話なら、たぶん私だわ」


 こんなことになるのは――なんとなく予想はついていた。

 ついていたのに、どうして私はユウイチから逆チョコをもらって、自分が渡したチョコもいっしょにふたりで食べたことをエリカに伝えてしまったのだろう。


「浮かれすぎは、やっぱり良くないのね」


「……どういうこと?」


「大丈夫、こっちの話」


「……そっか」


 なんとなく疑問符を浮かべているユウイチの腕を引き、恒例の夫婦喧嘩を始めてしまった幼なじみたちを見ながら、私はこっそりとため息をついた。



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