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(6)

「ん・・・・。」

 シトは身震いするように目を覚ました。

「さむい・・・。」

 身体を包み込む毛布は朝の冷え込みには役に立たなかったらしい。

「・・・・あさ・・・?」

 突き刺さるような寒さは彼女の意識を次第に鮮明にさせていく。

「・・・う・・・。わたし・・・どこ・・・。」

 毛布を固く身に引き寄せると彼女は周りを見回した。

「やま・・・あ、そう・・・・。」

 彼女は思い出した。自分はいま山の上の墓標にいるということを。見ると、ロザリオもティオもまだ眠りこけている。

 焚火は既に白い灰となっていた。

「・・・ん?なに・・・。」

 シトはふと違和感を感じた。昨日まではなかったものが視界にはいる。

「・・・おはか?・・・だれの?」

 シトはゆっくりと身体を起こした。慣れない体勢で寝てしまったのか。身体の節々が悲鳴を上げている。

「・・・・。」

 シトは無言でその墓標の前に足を運んだ。

「えっと・・・。」

 その墓標には何か文字が刻まれていた。

『もう何も奪われない。せめて安らかな眠りを・・・。』

 シトはその言葉を見つめた。

 痺れるような寒さももう気にならない。心がはち切れそうな感情が彼女を揺さぶった。

「わたしは・・・。」

 毛布が地面に落ちた。

「見つけた・・・。」

 声。

 シトははじかれるように身を起こした。しかし、それは彼女の腕に伸びる手が阻む。

「・・・・!!!」

 シトは何とかそれをふりほどこうと必死にもがくが、力が違いすぎる。

「シト!!」

 シトは振り向いた。

「おっと動くな。」

 しかし、腕に走る鋭い痛みがそれを阻んだ。

「てめえ・・・。俺たちをつけてたやつか。」

 シトの目に映るのは怒りにゆがんだティオの顔だった。

「そういうこった。」

 シトは自分のこめかみに何かが押しつけられていることにやっと気が付いた。それが黒光りする銃だということを理解するのにはしばらくの時間が経った。

「フレアストーンが目的なら僕らは持っていない。そもそもそんなものはここにはなかった。ガセネタだったんだ。」

 ロザリオの声はシトの横から放たれていた。

「ふん。俺の目的はそんなもんじゃねえ。」

 男はさらにきつくシトの腕をひねった。

「・・・・!!」

 シトは訳も分らない痛みに悲鳴を上げる。

「なに?どういうことだ?」

 ティオはその銃を男に向けながら声を荒げた。

「何が目的なんだ?僕らの命か?」

 ロザリオも自分の銃を懐から出していた。

「だったら俺たちを見くびったな。1対2では明らかにこちらの有利だ。」

 ティオは男ににじり寄る。

「お前達に興味はない。なにせ、俺の目的はこのお嬢さん何でな!」

 ティオもロザリオもシトと男に集中するあまり、崖の向こうから聞こえてくる音に気が向いていなかった。

 鋭い旋風が墓標の砂をまいあげた。

「く!ちっくしょう!しまった!!」

 ティオがそう叫んだ時には既に遅かった。

「はははは・・・。噂に聞いていた何でも屋がどんなもんかとおもったら。女一人を人質に取られて周りを見失うとはな。」

 男は銃を持つ手で空から垂れ下がるロープをつかんだ。その先には・・・。

「飛行船?」

 太陽を遮る雲のを思わせる白い飛行船が彼らを見下ろしていた。

「あばよ!もう会うこともねえだろうぜ。」

 勝利の笑みを浮かべ、男は飛行船に乗り込んだ。シトをその脇に抱えて。

「ロザリオーーーー!ティオーーーー!」

 シトの悲痛な声はティオに力を与えた。

「させねえ!!」

 次の瞬間、ティオは崖から身を躍り出していた。

「ティオ!」

 ロザリオも駆け出すが、その足は崖の端で止まってしまった。

「ロザリオ、ブリタニアだ。ブリタニアで待ってろ。シトを連れ戻したらすぐに向かう。・・・ブリタニアで待っていてくれ。」

 次第に遠ざかっていく飛行船、そしてティオの声。

 ロザリオはただ呆然とそれを見守るだけだった。


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