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エピローグ

    エピローグ


 氷の山が崩れ水の中に沈み込んだ。

「それで・・・。そのシトって女はさらわれたってわけですかい?」

 男はグラスを回して氷を弄ぶ。

「そういうことだ。あれは完全に不意をつかれた。というより、俺たちがバカだったんだ。」

 男はグラスを置くと、残り少なくなった煙草に火をつけた。

「いったいその女は何者だったんですか?」

 マスターはカウンターに腰を下ろすと磨き立てのグラスを棚に戻した。

「俺も予想もしなかったことだ。」

 男は白い煙を深く吸い込み、そして吐き出した。

「それは・・・。」

 マスターは男を凝視した。

「・・・・時間のようだな。」

 男はそんな視線をかわすように壁に掛けられた古い時計を見た。

「へえ、もうそんな時間でしたか。」

「そろそろ閉店だろう?」

 男はグラスを空にするとマスターの前にそれを置いた。

「そりゃそうですが・・・。」

 マスターは煮え切らない面持ちでそれを受け取る。

「そういうわけだ。今日の残り分はツケで頼む。」

 男はそう一言言うと、懐の有り金をすべてカウンターにおいた。

「いえ。残り分はあっしの奢りでいいですぜ。おもしれえ話も聞けたことですし。」

 マスターはにやにやと笑いながらその金を勘定し始めた。

「奢りっていってもたいした量じゃねえじゃねえか。」

 男は苦笑すると掛けてあったコートを着込んだ。

「いえいえ。そうでもありやせんぜ。」

 マスターは相変わらずにやにやした笑みを浮かべている。

「今日も寒くなりそうだ。」

 コートのボタンを留めながら外を見た。

「ブリタニアの冬は厳しいですから。」

 小銭がはねる音が店内に響いた。

「まだ秋も終わりか。」

 最後に男は帽子を目深にかぶると入り口に足を運ぶ。

「またいらしてくだせえ。その時は話の続きでも。」

 その言葉には応えずに男は店をでた。安っぽいドアベルの音が店内に響き渡った。

 街には冬の木枯らし吹き荒れていた・・・。

 

                 End

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